ゲーム翻訳者の道具箱:マーケティング
ゲーム翻訳者の表に見えないお仕事?
ゲーム翻訳者が求められるスキルの一つはマーケティングかもしれません。ただマーケティングというのはあまりにもジャンルが広いので、ここではわかりやすく「アイテムを買ってもらう方法」ということにしておきましょう。
マーケティングテキストはゲーム翻訳者の命綱
翻訳者はただ翻訳をすればいいんじゃないの?と思われる方がいるかもしれません。でもちょいと考えてみてください。そのゲーム会社が翻訳会社に、ひいては翻訳者に支払うお金って、プレイヤーさんからの売上ですよね? 今どきは無料プレイでアイテム購入が当たり前の(悲しい)ゲームシステムが横行する時代。そのプレイヤーさんにセールだなんだでアイテムを買ってもらわないといけない。で、その呼び込みをするテキストを翻訳するのは誰か…他ならぬあなたなのです。テキトーな翻訳をしてると売上が上がらなくて恐怖の「サービス終了」宣告、そのゲームから得られてた収入が消えてしまいます。それは大変!
街に出よう! どっちを向いても勉強の場!
ということで、うまい呼び込み文句を考え、プレイヤー様に自分が担当しているゲームのアイテムをバンバン買ってもらわないといけません。それが自分の生命維持装置。失敗するとハイそれまでヨ、ということ。そんな宣伝広告を勉強する方法、お高いんでしょう? いえいえ、決してそんな事はありません。一旦街に出ればアチラコチラにプロが練りに練って考えたキャッチコピーがあふれかえっています!これをパク…いや、学ばせてもらいましょう!言葉の選び方や調子、色、香り、フレーバーの出し方。どんなコピーが心に残って、どんなコピーが残らなかったか、いいものも悪いものも、バンバンノートに書いて、勉強しちゃいましょう! 無料です! あ、車や自転車にだけは気をつけてね。
ラジオを聞こう! 音のリズムや流れに敏感になろう!
テレビはダメだよ? ラジオを聞こう! どんなCMのフレーズが心に残るか、どんな読み方をされるのか、番組の語り方やリズムで気に入ったものがあれば片っ端から丸飲みしちゃいましょう! ゲームは(音声が入るゴージャスなもの以外は)基本的には文字を頭の中で読んでいきます。するすると頭に入れば良し、読む時に引っかかるような文章は、読むだけで必死、内容が頭に残りません。ラジオをおすすめするのは原稿を「読んでくれる」からです。音声だけで伝えようとするので、どうすれば伝わるかを考え抜いた原稿が書かれるからです。街へのおともやちょっとした時間にはぜひラジオを聞いてみてください。夜7時のニュースはテレビよりラジオをおすすめしますよ!
ちょっとしたテクニック、五感を揺さぶる書き方
例えば、
A) おいしいみかん
B) 甘いみかん
を比べた時に皆さんならどちらのほうがみかんの魅力をより多く伝えていると思いますか? 実際このあたりは人の感覚なので、Aと思う人もBと思う人もいると思いますが、もしBの方がいいなと感じる人が多ければ、やっぱりBのように書いたほうがいいと思うのです。
で、違いは何かというと、Bの方が具体的に味覚に語りかけているから読んだ人がなまなましく感じる、リアルに感じるということなんです(ほら、そろそろ口の中に唾液が出てきてませんか?)delicious という言葉を翻訳するときに単純に「おいしい」と「置き換え」るのではなく、文脈を考えてそのおいしさを具体的に伝えるほうが、お客様にお金を出してもらいやすいのではないでしょうか? 訴える部分は様々です。触覚、音、味覚、匂い(意外と忘れがち)、などなど感覚器に訴える表現を使うことで表現が生き生きとなり、お金を出していただくお客様に訴求しやすくなります。
まずは何かを売ってみよう
では、どうすればインプットした知識を活かせるようになるでしょうか? 正直、こればっかりは経験値です。一番いいのは自分で商売をやってみることかもしれません。イラストや本が書ける人はコミケなどのイベントに参加して、または通販やフリマアプリを使ってみて、まず何かを売ってみましょう(直接顔を見て売るほうが相手の反応がよくわかってモアベターです)。その時にどういう言葉や表現を使えば、売ろうとしてる売り物の魅力を引き出せるか考えてみましょう。最初からうまくは行きません。でも試行錯誤の内に見えてくる景色があります。そうやって経験を積み上げることも大事ではないでしょうか?
本格的に勉強してみる
マーケティングのライティングテクニックが書かれた本がたくさん売られています。「***効果」とか小手先のものもありますが、大事なものもありますので、街で仕入れた知識と経験をぜひパワーアップさせてみてください。
おわりに
確かにゲーム翻訳は与えられたテキストを翻訳すれば、ミニマム条件のクリアとなります。でも自分たちの目標はこの仕事で稼げるようになる、というはず(ですよね?)。できればマキシマム条件をクリアしていきたいところ。だったら「選んでもらえる」ゲーム翻訳者になりませんか? CVなんかに「マーケティングの経験豊富」という一文はプラスになると思うのですが…?
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