o川*゚ー゚)oストロベリー・カルテットのようです
食べちゃいたいくらい可愛い女の子をね、食べたいの。
それはまた突飛なお願いごとだな。
具体的に言うなら食べれるようになりたいわ。
それじゃあ君が化け物になってしまうよ。
なら、それが当然のような世界に行きたい。
残念ながら世界は一つしかないんだ。ごめんね。
そんな、謝ることじゃないわ。
これはただの夢物語なんだってことくらい、知ってるもの。
待って、違うんだ。
謝ったのはそうじゃない、僕は叶えられないなんて言わない。
え?
それに、夢物語ならとうの昔に始まっているよ。
変える、作り変えるさ。君のために僕は、今あるこの世界を──だから。
待って、私、あなたの言葉を処理できていないの。
ノイズがひどいわ。なにかが軋むような、嫌な音がする。
さよならしようか。
僕の、大事な大事なストロベリー。
ねぇ、嘘。
──重大なエラーが発生しました
──重大なエラーが発生しました
*
o川*゚ー゚)o「7年前の今日になるのよ」
その人は突然やってきた。
青空の下、
飴細工のような髪をしゃらしゃらと風に流して、当然のようにそこに居た。
o川*-ー-)o「お菓子になった女の子が、
初めて確認された日」
焼き立てのクッキーのようなあまい香りを身にまとい、
必然のように口を開いた。
細められた両の瞳はどこか冷ややかで、クランベリーの氷菓子のよう。
o川*゚、゚)o「本当に少女ばかりが。
最高年齢は今も変わらず19歳と二日だったかしら。
最年少が0歳児で」
白を基調とした服にちょこんと乗った小さな頭。
うっすらと桃色に染まっている頬のせいもあって、
ショートケーキを連想させる。
o川*-、゚)o「悲惨よね、生まれつき身体の一部がお菓子だなんて。
人から生まれた無機物だなんて、ねぇ」
そうして、僕は、ようやく。
目の前の異常に気付き、
続いて自分らを人とも思っていないことに気が付いた。
自然と目付きが鋭くなる。
警戒、不快、怒り、恐怖心。
けれど、
o川*^ー^)o「ああ、ごめんなさい。
そうね、焼いたら炭になるんだもの。有機物ね。非常識だったわ」
その、あまりにとんちんかんな謝罪に
なんだか馬鹿らしくなって、力が抜けた。
もとより見なかったこと聞かなかったことにするつもりは無かったし、
危険性もあまり感じられない。
その代わりに意思の疎通がまるで図れないが。
提げていたポシェットから細い鉛の棒を取りだし、地面に書き付ける。
『君は誰?』
目の前の〝異常〟は書いた文字を覗き込むと不思議な表情をした。
驚いて、その驚きをすぐに隠そうとしたような、顔。
そして何を思ったのか、屈んでいた自分へ両腕を伸ばし、抱き締めた。
しかしそれは僕がパニックに陥る暇もなく、
本当に嘘のようにぱっと終わった。
唖然としつつも反射的に距離を取る。
しかし、そんなこと意にも介さないのか、
立ち上がった〝異常〟は何事もなかったかのように微笑んだ。
o川*-ー-)o「キュート」
o川*゚ー゚)o「キュートよ。私は」
それはなんとなく、自分自身に
言い聞かせているような調子で──やはり。
奔放、不安定、ふわり。甘い香り。
目の前の〝異常(キュート)〟は、どうみても。
とうの昔に絶滅してしまったはずの『少女』そのものであった。
*
女の子がお菓子になった。
まるで物語の冒頭のような一文は冗談でも何でもなくて、
世界中の医学書に書かれることとなった、一つの事実。
奇病が流行り、あっという間に世界中に広がったのだ。
何の前触れもなく、
患部の体組織が別の物質へ置き換わってしまうそれを、
病と呼んでいいものか、甚だ疑問ではあったけれど。
別の物質──穀類に似た性質を持つ別の何か、
あるいは糖質を主としたそれらは、
本当にお菓子としか形容のしようが無かった。
──もちろん、見た目も含めて。
言葉を選ばずに表現するなら、腕がチョコレートに、頬がマシュマロに、
足がキャラメルに、皮膚がメレンゲに変化した少女たちが急増し。
あっという間に死んでいった。
たちの悪いことに、その病は18歳以下の少女にしか現れず、
加えて致死率100パーセント。
置き換わってしまった体組織は共通して、強い毒性を持っていたのだ。
また、患部を切り取り移植しても別の部位が変質し、
治療法など皆目見当もつかない。
足踏みすら許されない状況の中、病は猛威を奮い続けた。
そして、確認されてから数年後。
その頃にはもう、少女と呼べる生物はただの一人もいなくなっていた。
*
纏った白布がばさばさと音をたてた。
北風だ。透き通った森の匂いがする。
木の葉、衣擦れ、空と海、遠い遠い。
するりと入り込んでくる世界の音は、こちらにおいでと囁くようで。
なんとなく、目をつむる。
o川*-、゚)o「……普通、寝るかしら。
誰か聞いておきながら。ねぇ、ちょっと」
まだいたのか。
ゆるりとまぶたを開くとキュートが対面に座っていた。
o川*-ー-)o「もう、わかりやすく鬱陶しい顔しないでよ」
茶化すような口調だけれど、気のせいだろうか。
一瞬。
ほんの一瞬だけ表情が曇った、ような。
o川*゚ー゚)o「お話しましょう。ねえ、名前を教えて?」
お話、お話か。
面倒なことになったなぁと思いながら口を開き、閉じる。
転がしていた鉛棒を手に取り直して気が付いた。
名前。そんなもの、持っていない。
『ない』
o川*-ー-)o「……そっか」
キュートは何を思ってか、じっと目をつむると
あーあと呟いて、すっと僕を見た。
どきりとする。
感情、悲しみ、怒り、どこか睨むような視線。
o川*゚ー゚)o「それじゃあ、症状は?」
がらん。
曇った音が響いて、やっと。
ぼんやりした頭は鉛棒を取り落としたのだと気が付いた。
o川*-ー-)o「頭まで覆えそうなくらい大きいのに、
何故か薄っぺらい白布」
o川*-、-)o「棒で文字を書いて対話をするのに、慣れてないでしょう。
普通に話せるのを
我慢して押さえ込んでいるような、態度」
o川*-、゚)o「熱対策と、声を出さないわけだから……振動対策かな。
非効率でいて妙に実用的、独自の方法」
o川*^ー^)o「加えて君は男の子。
──間違いない、新種ね」
まくし立てるように言葉を並べられ、思わず硬直する。
その隙を突かれた。
然り気無く保っていた距離を、簡単に詰められる。
純白のクリームのような手が頬を撫でた。
ぞくりと背中が粟立つ。ぐいと、顔が近付いて。
(; )「い゛っ……!」
o川*-~-)o「痛覚は生きてる。
なめらかだけど、辛うじて粒であることはわかるわね」
頬を、舐められた。
o川*^ー^)o「うん、甘い」
それは仕掛けた悪戯が成功した子供のような、笑顔。
何をしでかすかわからない不安の塊。
異常というキュート、キュートという化け物。
o川*゚ー゚)o「ああ、そうだ。安心して」
化け物が、そっと微笑む。
o川*^ー^)o「私、きかないの。それ。ほら、猛毒?」
それは、ぐらついていた体を崩してしまうには
十分過ぎる言葉だった。
(;-∀-)「痛っ──ぁ、あ?」
異常に、気付いた。
声が出ることは知っていたけれど。
激痛が走らない、体が崩れない、粉にならない。
振動に、耐えられている。
o川*゚ー゚)o「よし、決めた」
(;・∀・)「キュート、君は何を」
o川*^ー^)o「名前」
(;-∀-)「そうじゃなくて……」
自分の声なんて耳に入らないのか、
ぱっと立ち上がって、高らかに宣言する。
o川*゚ー゚)o「シュガー」
( ・∀・)「指を指さない」
o川*^ー^)o「ふふ、シュガー、シュガー。
私の大事な友人」
楽しそうに話すキュートは、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。
シュガー、シュガー。僕の、名前。
ふいに頭の奥深くで、キィンと高い音が響いた。
──記憶の波が押し寄せる。
願い、消去した個、目の前の異常、バグ。
彼女は、消去すべき異物?
──いいや、違う。ああ、そうか。そうだった。
頭痛が酷い。
こめかみを押さえつつ、大切な名前を絞り出す。
*
(;-∀・)「……ストロベリー。久しぶりだね」
o川*-、-)o「今さら何よ、大馬鹿者」
今さら──本当に、今さら。
僕は、全てを思い出した。
*
世界をうんと前に完成させて、
ただひたすら見守るだけだったころ。
僕は、彼女に出会った。
どこまでも無垢で、何よりも独立していて、
ひとりでに回る歯車のような君は、
存在するだけで世界を削り、歪め、冒していく害でしかなく。
──言うなれば、バグだったのだ。
o川*-、-)o「本当に、大馬鹿者の神さま。
さっさと消してしまえばよかったのに」
o川* 、 )o「そしたら、世界は、
ここまで壊れることは無かったのに」
重く沈んだ声。全然似合わない、暗い表情。
けれどそれは一瞬だけで、ぱっと笑顔を作る。
o川*゚ー゚)o「私の夢物語を真に受けて、
さっさといなくなっちゃってさ」
o川*-ー-)o「探して探して探して、
やっと見つけたと思ったら、それだもの」
それ──何もかもを忘れて、
世界を壊れたまま安定させるプログラムに成り果てていた、僕自身。
今さらながら後悔する。
ずっと探していた相手に君は誰と言われて、
彼女はどんなに辛かっただろう。
o川*^ー^)o「いっそ思い出さずに消してくれればよかった。
けれど、それも私のせいで台無し。
……プログラムは壊れてしまったもの」
o川*---)o「バグだから。
近付くだけで、触れるだけで異常をきたしてしまうから」
ひきつった、微笑。
それは見ているこちらが泣きたくなるような表情で。
( -∀-)「──そう悪いことばかりじゃないさ。
もし、君がバグじゃなかったのなら、
僕は君と出会うことはなかったのだから」
( -∀・)「……陳腐かな?」
o川*-ー-)o「ばーか」
そういうと、
キュートはほんの少しだけ口許を緩ませた。
o川*゚ー゚)o「私ね、旅をしたの。
ひたすら歩くだけの、あなたを探す旅」
メープルシロップを垂らすように、
甘い予感を潜ませて、ゆっくりと話を始める。
僕の知らない彼女の話。
o川*-ー-)o「私にも友達が出来たのよ。
ひどく髪のきれいな子と、冷たく透き通った瞳の子と、
あまい香りのする幼い子と」
o川*゚ー゚)o「それから、ぽろぽろと宝石のような涙を流す、
少年と少女の狭間で揺れる子。
みんなとても可憐で、可愛くて……ひどく、儚かった」
儚い。
それは病におかされていたということだろう。
友達は皆、少女だったのか。
( ・∀・)「彼女らは、今」
o川*-ー-)o「……眠っているわ」
それはどことなく含みのある言い方で、
けれど、どこか追及を許さない絶対さがあった。
キュートは、続ける。
o川*゚ー゚)o「私は名前を持つことにしたの」
o川*^ー^)o「カルテット。皆で考えた名前」
( -∀-)「……ああ、だからキュート」
quartet.
始まりと終わりを取って、q-t。キュート。
o川*-、-)o「ストロベリーを捨てたわけじゃないの。
今だって、私の数少ない宝物の一つよ。だから、」
o川*^ー^)o「ストロベリー・カルテット。それが今の私」
( -∀-)「そうかい」
また、強い風が吹いた。
今度はあっという間に白布が飛ばされて、その様子をぼうっと眺める。
( ・∀・)「シュガーの名前、迷子になっちゃうな」
──気付いていた。
変化してしまったはずの体細胞は、世界に溶け込むための嘘だったと。
張りぼての病はキュートが舐めた時にはもう、
すっかり剥がれ落ちていた。
o川*゚ー゚)o「あのね、お願いが一つだけあるの。
……駄目かな」
( -∀-)「全然」
o川*^ー^)o「ありがとう。そして……ごめんなさい」
o川*゚ー゚)o「きっともう私は、あなたの愛したストロベリーではないわ。
けれどそれでも──いいえ、だからこそ」
o川* ー )o「一緒に世界を直してください」
*
ストロベリー・カルテット。
君はきっと、四人の少女を食べたんだろう。
友達になって、
目の前で死んでしまったのがきっと、信じられなくて。
眠っていると言ったね。
君の中で生き続けているのかい、その子たちは。
声には出さなかった。
四重奏。
名前として自らに刻み付け背負っているのだから、
言葉にする必要なんて無い。
異常をきたすんじゃない。
変化をもたらすのが、君だから。
彼女の瞳からぽろぽろと零れるクラッシュゼリーのような涙は、
確かに、透き通った宝石のようにも見えた。
「今度は、僕らのために。世界を作り替えようか」
「……うん」
o川*゚ー゚)oストロベリー・カルテットのようです 終
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