ICT活用について、私の大好きな話

日本語教育では、ある意味単純なオンライン授業から、学習環境が複雑化するハイブリッド・ハイフレックスへの授業に移行しつつあります。また、日本語のハイブリッド・ハイフレックスの授業というのは、例えば大学の知識伝授型の授業とは違う特徴があり、クラス運営がより複雑で、悩まれている先生も多いようです。

ここしばらく、色々なところからお声がかかり、教師研修的なことを続けています。その中で、オンラインの学びというのは、教師だけでなく多くの学習者も経験がなく、これまでの学習経験が活かせないという話をしています。しかし、じっくり知識をつける時間的余裕のないことも確かで、「じゃあ、手っ取り早く効果的な教え方を教えてください!」という方もいるとは思いますが、この分野、ほとんどこれまで研究されてないので、みんなで考えていくしかない、というのが実情です。じゃあ、なんでお前が偉そうに話してるんだってことですが、それはやはり、これまでの経験と知識が、他の先生よりも多少あるからでしょう。

今までの経験が役に立たない…というのは実際あって、韓国の教育現場でICTの導入が決まった時、「もうついていけない…。」と早期退職をされた学校の先生が結構いらっしゃったという話を聞いたことがあります。

じゃあ、本当にこれまでの経験って役に立たないんでしょうか?

ここで、私が聞いた話で、大好きなICT導入のお話をしたいと思います。かれこれ20年近くICT利用教育に興味を持っているので、これまで色々な学会やシンポジウム、展示会、EXPOなんかに参加してきました。ある年、そのころiPadが教育端末として注目され導入が始まった頃ですが、千葉の私立高校がeラーニングに関するアワードを受賞しました。その高校では、情報科の生徒全員にiPadを購入させ、授業に積極的に使っているという事例でしたが、その中心になった先生の導入秘話が面白かったのです。

当然、全ての教師が諸手をあげて導入を喜んだわけではありませんが、学生に端末を買わせるわけなので、やらないとならないトップダウンですよね。その中で、その中心になった先生から見ても、学生から見ても、最もiPadを効果的に使い、学習意欲が高まった授業をしたのは、さて、どんな先生でしょうか?

コンピュータオタクの理系科目の先生?もしくは、若いやる気に満ちた先生でしょうか?

もちろん、上記の先生たちも工夫をしたと思いますが、最も目覚ましい成果を出したのは、なんと、定年間近の古典の先生だったそうです。その先生は、むしろデジタル音痴。では、何があったのか。

それは、授業に対する創意工夫です。

ある意味押し付けられた新しい機材を前にして、「なんでこんなことしないとならないの!」と思わず(最初は思ったかもしれませんが)、どうしたら、どんな風に授業に取り入れたら、生徒が古典により興味を持つようになるか、その先生はそう考えられたようです。

古典って、好きな人は好きだけれど、多くの生徒にとってなんで勉強するのか意味を感じられない科目の1つじゃないかと思います。最近、私は香道や茶道を習っているのですが、お稽古のふとした時に、学生時代に勉強した古典や漢文、歴史なんかが、すごく理解に役にたつ。それが、教養というものなんだなあと、しみじみ思うようになりました。

iPadで古典を勉強するようになった生徒たちにとって、古典は受験のためにやらなければならない科目ではなく、興味を持てる科目に変わった。そしてそれは、単に機材の問題ではなく、機材導入とともに、自分の経験を生かして意欲的に授業を考えよう!という先生の姿勢が産んだ賜物です。

ICT音痴の先生であっても、授業を工夫しようという意欲とこれまでの経験があれば、オンライン授業やハイブリッド・ハイフレックスでも、いい授業を作っていくことができる。

大事なのは、変化を恐れず、1箇所で硬直しないことじゃないかと思います。

常に脱皮!


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