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意識低い系のキャンプ用品買い物ドミノ

これは、アウトドアブランド「Col to Col(コル・トゥ・コル)」が立ち上がるまでの経緯と、中の人が何を考えているのかを、三人のメンバー(タッカ・エンゾー・ドフィ)が代わる代わる綴っていく「問わず語り」です。

前回のお話はこちら

【エンゾーの回:003】

ディドロ効果(Diderot Effect)という言葉がある。
何かひとつこだわった買い物をすると、そのこだわりにレベルを合わせ、他のものも次々に買い揃えたくなってしまう消費心理のことだ。

その昔、フランスのディドロという人が、友人からうっかり質の良いガウンをプレゼントされたばっかりに、今まで持っていたものがその上等なガウンに釣り合わないと感じるようになり、調度品を片っ端から買い換える羽目になった…というエピソードが元になっている。


では、我が家では何が起こったか?
2階のベランダでちょっとアウトドア感を感じながら美味しくコーヒーを楽しむためのグッズを買った結果、テントが増えた。どうしてこうなった。
ここでようやく、話は1話目に戻る。


寒空の下、ベランダでコーヒーを飲んでプチアウトドア感を楽しんだちょうどそのタイミングで、ドフィから投げかけられた言葉が、顔面を直撃したのだ。


キャンプとは、好きな場所に自分の好きな家を建てること


まさにデッドボール。このひと言で何かのタガが外れ、僕はキャンプ用品の情報を狂ったように集め始めた。こだわって選んだ、あの無限航海のケトルと並べてニヤニヤ出来るようなキャンプグッズが欲しい!


仕事が終わると閉店間際のA&Fに駆け込み、WILD-1を隅々まで見て周り、週末には渋滞に巻き込まれながらアルペンまで遠征した(福岡のアルペンは郊外にあるので、アクセスが良くない)。


ネットでの情報収集はさらに熱心で、毎晩遅くまでYouTubeを連続再生し、Amazonや個人のブログなどで商品のレビューを見まくった。学生時代にこれくらい熱心に勉強していれば(以下略)


これは例えるなら、どのハウスメーカーに頼んで家を建ててもらうか決めるために、住宅展示場に通い新築系雑誌を貪り読むようなもの。そう、いちばん熱心に探したのが、「キャンプの家」であるテントだ。


最初のうちは、順当にスノーピーク・コールマン・ロゴス・DODなどを候補にしていたのだが、このあたりは人気メーカーだけに、キャンプ場で被りまくることも分かってきた。天邪鬼な人間にとって、被りほどテンションが下がる問題はない。

そんな中、明らかに他とは違う魅力を放っているように見えたのが、ゼインアーツのテントだ。

テントって、こんなに美しかったっけ。まず、そう思った。どのモデルも、シンメトリーであること。自然に溶け込む、落ち着いたカラーリングであること。考え抜かれたシンプルな構造であること。

中でも目を引いたのが「オキトマ2」だった。まさに一目惚れ。これだ、これにしよう!

ところが、ここらでようやく気づいたのだが、キャンプ市場は価格がおかしなことになっていた。

欲しいと思うものに限って、在庫がない。あっても、定価より遥かに高い。オキトマ2に至っては、とんでもない抽選倍率でとっくの昔にファーストロットが完売しており、その時点では追加生産の目処も立っていなかった。
市場にあるものと言えば、ヤフオクやメルカリで倍以上の価格をつけて転売されているものばかり…


これはまず縁がないな。そう思って諦めようとした矢先に、ほぼ定価でメルカリに売りに出されたものを見つけた。見つけてしまった。
僕は震える指先で購入ボタンを押した。


こうして、たった一つのアウトドア用ケトルから始まったキャンプドミノは、以後、バーナー→ミニテーブル→椅子→テント→焚き火台→コンテナ→メインテーブル→焼き鳥用コンロ…と順調に倒れていき、もはやファーストキャンプに行くのは時間の問題になったのであった。


このように、ディドロ効果というものは、ミニマリストの対極に位置する、物欲に歯止めがかからない意識低い系に特有の現象と言える。


「エンゾーさん、ちょっとお話があるんですが…」
僕に「キャンプ=家づくり」という視点を授けてくれたドフィからメッセージが入ったのは、ちょうどその頃だった。
(つづく)

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