夜学後記 第七回 『谷島正之さん』

先日『映画夜学』第七回を催しました。
ゲストは……、
アスミック・エース株式会社、コンテンツ事業部副部長の谷島正之さん。
長年、映画の宣伝を手掛け、近年では『3月のライオン』の製作をするなど、プロデューサーとして活躍されています。
普段、映画制作の現場にいますと、とかくこの『宣伝』、『製作』ということについて、実はあまり考えが及びません。接する機会があまりないということが原因ですが、映画を作り、観客に届けるという意味では、『撮影』しただけでは、まったく届かないのは自明、『宣伝』も『製作』も重要であることは言うまでもありません。
谷島さんご自身の経験を踏まえ、まずこの『宣伝』についてお話を伺いました。


まず始めは海外映画についてです。
『海の上のピアニスト』や『ザ・リング』、『ソウ』など、海外映画を中心に、各映画の宣伝業務がいかなるものだったのかを詳らかに語っていただきました。
海外映画の場合、まず『買い付け』る必要があります。いわゆるマーケットで実際に映画を観て、それを買い付けて、自国で公開するという流れだけに、まさに『宣伝』がもの言いそうです。
もちろん映画は内容が良くなくてはなりません。しかし、見てもらえなければその内容は伝わりません。この見てもらうための導入が『宣伝』というわけです。こう考えてみると、実は、乱暴な物言いをすれば、たとえ内容が良くなくても、見てもらえさえすれば、『宣伝』の役割を果たしているのかもしれません。
まあ、実際、マーケットで実際に観て、劇場に公開させようと決めるわけですから、内容が良くないことはまれでしょう、ただ、原理的にそういう場合もなくもないわけです。
谷島さんが手がけた映画はどれも一見の価値があるものばかりですが、それは公開を経て評価が定まったもの、実際『宣伝』の現場では、未だ海のものとも山のものともわからないわけです。
それをいかに売るか、谷島さんのお話を伺っていて、おもしろかったのは、まさにそこにある気がしました。
手練手管で観客の興味を誘う妙が『宣伝』にはあるようです。よく言えばキュレーション、悪く言えば詐術、しかし、我々はこの詐術を楽しみにしていることも大いにあります。
仮に『宣伝』の作り手とそこに視点を置く観客の共犯関係が成立していれば、いかにうまくだましてくれるかを楽しめるはずですし、ちょっとした誇大文句もニヤニヤできるはずです。


海外映画、日本映画問わず、『宣伝』に携わってきた谷島さんは、やがて製作を手掛けるようになります。
この『製作』という言葉は、いかんせんいつもわかりにくさがつきまとうわけですが、『制作』という言葉とセットにして、絵画を考えればわかりやすいかと思います。
絵を実際に描くことが『制作』、その絵を画家に描かせることが『製作』、手っ取り早く言えばこんなところでしょうか。『製作』するためには、画家に描かせる時、画家と相談し、どんな絵を描くか、決めなければなりませんし、画家が描いている間の彼の糊口も凌がなければなりませんし、純粋に絵を描くためにはキャンバスも絵具も絵筆も用意しなければなりません。つまり、『製作』にはそうした、企画とお金が付いて回るという事です。


そういう意味では、谷島さんが『製作』に回ることは大きなメリットがあるわけです。
なぜなら『宣伝』プロデューサーとして培ったノウハウがあるからです。
ある作家のひらめきによって、とてもよい映画ができることはあります。しかし、見せる術が彼になければ、この世に良い映画が一つできただけでおわるでしょう。
その良い映画をより多くの観客にとどけるノウハウを身に着けた谷島さんが『製作』をするということは、作る前から観客にどう届けるかを見据えることができます。
これは自戒すべき部分かと思いますが、とかく作家は良い映画だけを目指す傾向があります。もちろんこれはとても良いことです。ただそこに観客に届ける=『宣伝』に対する意識が少しあるだけで、制作態度はがらりと変わるような気がしています。
谷島さんは大いにその助けになっているわけです。


今年、谷島さんは一つの大きなプロジェクトを完成させました。そのプロジェクトは今も走り続けています。
『3月のライオン』というプロジェクトです。
『3月のライオン』は映画のみならず、たくさんのメディア展開を成し遂げています。
我々は時に安易にクロスメディアという展開を口にしますが、これを成功させるのはかなり困難なことだということも実感しているはずです。
その困難を実現化させることが出来たのは、まさに『宣伝』に始まり、企画、製作を支えてきた谷島さんならではなのでしょう。

夜学ではさらに、谷島さんが考える映像コンテンツの今後について、我々と意見を交換し合いました。
谷島さんは、しっかりと未来を見据えているようです。

さて、まだまだ映画夜学は続きます。
もちろん、ここでご報告させていただくわけですが、そのすべてを網羅することは到底かないません。
次回は年明けになるかと思いますが、機会があればぜひご参加のほどを。
それでは、谷島さん、今回は本当にありがとうございました。
そして、今年、参加してくださった皆様、あらためてありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

(文責:いながききよたか)

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