映画後記 第五回 『大高健志さん』 後編


五月に行われた第五回『映画夜学』。
ゲストはクラウドファンディングのプラットフォームを提供する会社『MotionGallery』を立ち上げた大高健志さんです。
大高さんのご好意により、夜学本編の再編集版をお届けしたいと思います。
今回はその後編です。(前編はこちら)

プロフィール:大高健志(MotionGallery主催)

外資系コンサルティングファームに入社し、主に通信・メディア業界において、事業戦略立案、新規事業立ち上げ支援、マーケティング、オペレーション改善等のプロジェクトに携わる。その後、東京藝術大学大学院に進学し映画製作を学ぶ中で、クリエイティブと資金とのより良い関係性構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。以来600件を超えるプロジェクトの資金調達~実現をサポート。1983年生まれ。

(聞き手:関)

・実際のお金の流れ

大崎裕伸:ちなみに決済はどうするんですか。

大高:クレジットカードか銀行振り込みか、コンビニ決済もできます。
プロジェクトに対しては、全部終わったらうちからお支払いします。

関:手数料はいかがですか。

大高:集めた金額の十パーセントを頂いてます。日本だとかなり安いほうです。十パーセントだと成り立たないかとも思ったのですが、製作者支援と言っているのに二十パーセントを取ってしまうのはどうなのかなと。ちゃんとしたサービスのできる、ぎりぎりのラインでできるのは十パーセンとかなと思ってやっています。

関:でも、大高さんや社員の方がやられてることって、その金額だと正直しんどいですよね?

大高:しんどいです。僕は五年間くらい無給でやってました。

・プロジェクトの選び方

大崎:やばそうなプロジェクトだなという判断はどうやってされているんですか?

大高:基準を決めるためのフォーマットがあります。そもそも保証していないので、表向きでは自己責任でお願いしますと言っていますが、裏側では、SNSでの発言内容やそのコミュニティ内での信用などを確認し、未然にリスクを防ぐようにしています。良くも悪くも狭い世界なので、最後まで逃げずにプロジェクトに向き合う事ができるか、大丈夫そうかある程度の確度で把握はできると思います。

・成功の嗅覚

参加者:『雨にゆれる女』の制作に関わっていて、その時このシステムを初めて知ったんですが、僕はまさかこの作品が目標金額を達成するとは思っていませんでした。目標を達成する、しない作品ってなにかあるんですか。

大高:『雨にゆれる女』は絶対いけると思っていました。理由は作品に対しての熱量と信頼性が高かったからです。
これらはとても重要です。単純なプロジェクトの良さだけでなく、本気でやっているからこそ安心感が生まれます。熱量を伝えていかないと達成できない。逆にそれがあれば達成できると思っています。
このプロジェクトで絶対大丈夫だなと思ったのは、青木崇高さんを担いでいることではなくて、青木さんと半野監督が単純にやりたいという強い気持ちがあったからです。

・目標金額の達成について

関:『雨にゆれる女』は目標金額が三百万円で最終的に四百万円を超えたわけですが、最後にぐっと伸びるものなんですか?

大高:だいたい最初に伸びて、真ん中は伸びずに最後にまたぐっと伸びます。その最後の山を作るためにいかに告知をしていくかにかかります。
逆に僕が簡単に集まらないでしょと思っても集まってしまう映画もあります。BELLRING少女ハートの映画があって、時間がないという事で一ヶ月間で百五十万目標という形でプロジェクト申請いただきました。後述の『Save the Club Noon』の経験もあったので、そんなにファンディングは簡単じゃないですよとやり取りしていたんですが、蓋を開ければ三百五十万集まりました。
何を言いたいかというとプロジェクトの中身や物語によって集まり方が全然違うということです。
BELLRING少女ハートは、既に彼女たちに応援意欲の高いファンの人たちが多くいらっしゃったので、応援が集まったのですが、しかし、若手や新進気鋭のアート性が高いもの、業界の人ではないとどの部分がチャレンジなのかわかりづらいものは価値をしっかりと伝えないと中々動きません。ターゲットはどこなのか考えてキャンペーンプランを続けないといけないんです。

・「SAVE THE CLUB NOON」で学んだこと

大高:クラウドファンディングが難しかった作品で「SAVE THE CLUB NOON」というドキュメンタリーがあります。これは、すごく勉強になりました。
どういう作品かというと、大阪に「CLUB NOON」というクラブがあり、深夜に客を踊らせるのは風営法的にNGなので営業を取りやめることになりました。その最後の四日間を撮った作品なんです。有名なアーティストがたくさん出ている関係で上映するには著作費を物凄く積まないといけなくなり、著作費とP&A費のお金が必要で、三百万円を集めることになったんです。有名アーティストが告知をしたり、風営法という時事的な問題を取り上げていたので、すぐお金が集まるだろうと僕も監督もプロデューサーも思っていました。しかし、いざ始めてみたら一週間で集まったお金は五十万だけでした。フェイスブックで七千ぐらい「いいね」がつくものの、百日間一切金額が動きませんでした。話題にしてくれる人は沢山いるのに応援してくれる人はほぼいない。三人ですごく頭を悩ませました。悩んだ結果、もう一度考えてみようと切り替えました。
議論を深めていったら、そもそも間違いが二つあるんじゃないかという話になりました。
音楽系の人々は興味がありそうで実は興味がないんじゃないか。大阪ではなくて東京でお金を集めないといけないとなった時に、東京では風営法を誰も話題にしていませんでした。しかし、たまたま東京で何カ所か風営法で摘発されていた時があって、音楽ファンではなく、法律など社会的な側面からアプローチを変えて掘り起こそうとなりました。
原宿や渋谷で五回ほど弁護士の方をお呼びして風営法とは何かという真面目なシンポジウムを開きました。法律や社会問題に携わる人たちがイベントに来てツイッターなどでも拡散して下さり、お金が動き始めました。
金額が上がると、そこにまたどんどんお金が集まってきて、またイベントをやるとそれがニュースになり人が集まり応援してくれるという循環ができました。そうすると面白いことに今まで動いていなかった音楽系の人たちが応援してくれるんです。残り二週間で大きく金額が伸びました。映画の持っている真面目な側面と音楽系の人たちの、宣伝する順序を変えた瞬間に全てが動き出したんです。ターゲットや順番が違うだけでも上手くいったりいかなかったりするのがとても勉強になりました。

・成功体験を増やす

いながき:今、脚本を書いていて実感するのは、クリエーターにお金が入ってこない状況です。今後僕たちが何も動かなければ、下手をすれば本当に商業映画しか生き残らず、それ以外の、あった方がいいという種類の映画がなくなってしまうんじゃないかなと思ってしまいます。
成果物にお金を払うという発想がどんどん薄れていく中で、それをどう変えればいいのかと思うとき、クリエーターを買い支えるという発想が根付くしかないと思っています。クラウドファンディングはまさにそういう性格のものだと思います。今後、三千万くらいの規模になればいいとおっしゃっていましたけど、一千万を越えると、現実的な壁があると思うんです。クリエーターを買い支える文化を根付かせること関しては何か考えがおありですか。

大高:文化を根付かせるというよりも、応援した人を含めての成功体験を増やしていくことが全てかなと思っています。
クラウドファンディングで制作・公開した作品の最後にMotionGalleryの名前が入っていて、クラウドファンディングの存在を知っていただき、絶対次は応援すると言ってくれた人が本当に二年後ぐらいに応援してくれるんです。そういった「参加しておけばよかった」、「参加してよかった」を広めていくということがすごく重要だと思います。

・使い方の拡がり

大崎:純粋表現に近い。まるでATGのようだと思います。低予算だけど良質なものをやってたわけじゃないですか。その後、Vシネが出てきて、そして自主映画が荒らしたんです。八十年代から九十年代にかけて純粋表現なのか商業表現なのか作ってる方も見てる方もわからない状況になってしまった。その余波が、君たちの首を絞めてしまっている気がするんだよね。
翻って、大高さんは、完全に純粋にクリエイティブなものを表現するために応援して下さいというシステムを示しているわけでしょ。
そこで、伺いますが、こういうクラウドファンディングの使い方をしてくれっていうものはありますか。

大高:例をあげると、二年前、浜松で、ドライブシアターを復活させるプロジェクトをやりました。それは凄くお金が集まりました。上映体験自体をデザインするわけです。結果的にパブにつながる規模になれば、楽しそうだから参加したいと思う人たちが増え、みんなハッピーになるのかなと思います。
やはり惰性でやるのはつまらないです。今世の中は手間をかけることやDIYが見直されていますよね。レディメイドなものの値段がどんどん下がり、対してオーダーメイドや手間暇がかかっているものが高単価で買われつつあります。そうしたオーダーメイド的なものをやっていければいいのかなと思います。


・広めるために……。

いながき:クラウドファンディングは始まったばかりで、まだまだ根付いていないと思います。根付かせるためにも、ファンディングで出来た成果物を広く見せるのって大事かと思います。

大崎:根付かせるためには、寄付の概念とリターンを求める投資の概念を、僕らはちゃんと教育されていないから、その辺からやらないといけないと思う。対価物があった方がお金を出しやすいという概念自体が、このシステムに対して間違っていることなのかもしれないよね。パトロンになって下さいということだよな。でもそうすると我々作り手はパトロンにすがろうとするじゃない。その考え方自体がやばいんだよな、きっと。

大高:そうですね。同じパトロンといっても、少数の山っ気のあるお金持ちから引き出すより、大人数に少額ずつ応援してもらう方が騙せないしセンシティブにやる必要があります。
今はそんなに大金を出してくれる人もいないですしね。

関:MotionGallery自体を広めるためにどういうことをしているんですか。

大高:地道にやるしかありません。MotionGalleryで作られた作品の映画祭もやってみたいと思っています。クラウドファンディングで作られた橋口さんの「恋人たち」や濱口さんの「ハッピーアワー」はリバイバル上映してもすごく人が入っています。ぜひ映画祭はやりたいなと思っています。
その二作品の良かった点はオリジナル脚本、役者はほぼ有名ではない、そして長編であることです。だからこそ、クラウドファンディングじゃないとできないのだと思います。
クラウドファンディングに対する本当の価値は、一部で良かったねと言われるだけでなく、ちゃんとした劇場で公開され、海外でも評価されるということです。この二作品は成功事例で、クラウドファンディングの意義というのがクリエイティブにとってどういうことなのかを体現した点がインパクトになったと思います。
二作品ともに言えますが、プリプロにすごくお金と時間をかけています。ハリウッドが凄いと言われるのはプリプロを含めて脚本開発に時間をかけているからです。日本ではそれができない。そこをクラウドファンディングが支えていければいいんですけど企画開発だけではなかなかお金が集まらない。ファンディングで企画開発の部分を回収出来ればいいなと思います。

・ファンドだからこそ強い制作意図を。

大崎:お金がないからクラウドファンディングで補てんしようという背に腹変えられない状況はよくわかるんだけど、そこで踏ん張らないといけないんじゃないかな。
金が足りないから寄付してくださいでは、募金と変わらない。

大高:そういう意味では軽々しくやるものではないですね。純粋に煮詰めたうえでやるべきです。最後の手段としてやるというのも広がらなくなってくるので、ある意味気軽にやって頂きたいけれども、何故やるのかを考えないと始めたときに周りに理由を説明できないですしね。

関:なぜ作るのかの意図や意義をきちんと考えなくてはいけないですよね。

・リスクを回避するために。

参加者:クラウドファンディングを利用する側のリスクは何かありますか。

大高:炎上することです。炎上が起きる原因はいくつかしかありません。
一つは、例えばアイドルを連れてきて握手券をつけたりして作品とは関係のないところで炎上すること。
もう一つはお金を集めた後の話で、何も報告のアップデートをしないこと。さらに制作の遅れすら報告しないとなると詐欺だと思われてしまいます。お金を集めた後もちゃんとケアすることが大切です。
集めたお金を一円単位で報告する必要はないですが、こういうことに使いましたよと説明する必要はあります。
「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」は一千万を集める目標で一千五百万も集まってしまいました。
五百万円分多く集まり、その使用用途をしっかりコレクターの応援意図に沿った形で有効に使い、そしてそれを明示したいと考えた結果、五百万を使って日経新聞に全欄広告を打ちました。その広告を出すときに、劇場公開の宣伝ではなくて九百人応援してもらった人の名前を記載したんです。そうすると、応援した人は、応援して良かったなとなるし、宣伝にもなる。余ったお金はこれに使われたんだなと、納得感もあります。リスク回避するためには、アフターケア、応援してくれた人とコミュニケーションを取り続けることが重要です。

・その先の新しい試み。

大崎:映画の価格帯は全興連で千八百円と決まっています。クラウドファンディングで作った作品を上映する時に、演劇みたいにあなた次第で一万円でも五千円でも出していいですよと、価格帯を変えた上映をやったらインパクトあるでしょうね。

大高:そういう仕組みを七月に立ち上げようとしてます。 「popcorn」というサイトでシアトリカルの上映スキームをウェブを使ってやろうとしています。
今、地方の映画館がなくなっていく中、一方で増えているのがコワーキングスペースやカフェやバーなどです。映画人口が減っている中で、地域活性やソーシャルデザインなど意識の高い人たちが増えている。その人たちは集まる理由が欲しい。集まる理由として映画を観られる状態が欲しいそうなんです。
映画を普段強く意識していないという事で、話を伺うと、シネコン等でかかるブロックバスター映画への過度な依存もなく、制作規模の大小に関わらずフラットに作品を見ていただける感覚がありました。なので、新たな作品と人との出会いを創っていける可能性が高い。
昔だったらDVDで回収できていたものができなくなってしまいました。そこで、こういう形の上映の方がマネタイズの手段があるんじゃないかと思ったわけです。
クラウドファンディングで集めて制作はした、では劇場公開はどうするのかということで、こういうサービスを始めようと思っています。
DVDではなくウェブ上で映画を登録してもらったら、登録したイベントや場所のオーナーだけが再生できるように制御をかけて、再生してスクリーンで上映することができます。今、二百カ所ぐらい登録がきています。それをどんどん広げられたら、劇場公開が終わり、マネタイズポイントが無くなった作品を「popcorn」で上映して、観ていなかった人に広めてお金を儲けられるかもしれません。
映画の需要が伸びるというのが一番いいかなと思います。というのも、昔は映画の優先順位がもうちょっと高かったと思うんですが、今はだいぶ低くなっています。そんな中初週に観に行く人はなかなかいない。そうして、みんながいいと思う映画は大体、ニ、三週で終わっていき、観たいと思っていたけど、公開が終わっている作品の方が多い。ですので、上映する機会を増やせることは映画にとってもいいかなと思っています。
もちろんカフェなどではプロジェクターで観るわけですが、それを観た時「やはりプロジェクターで観るのは辛い、もう少しいい環境で映画を観たい」と思い映画館に戻ってきてもらうことが一番いいことかなと思っています。


(2016/5/26)

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