【コギトの本棚・対談】 サキタハヂメ 第三回
サキタハヂメさんへのインタビュー第三回です。
聞けば聞くほど、オリジナルなサキタさんのお仕事。
まだまだ底は見えません。
サキタハヂメ業の全容をもう少し解明していきます。
それでは、滋味あふれるお話を、今回もうかがってみましょう。
(文/構成 いながききよたか)
第三回
~『サキタハヂメ業』~
―― 一日、何時間労働くらいですか?
サキタ:(笑)何時間くらいかな。
どうですかね、平均すると、けっこう働いてるかなぁ。
どっからどこまで仕事かわからんね。
実際やる時は、やっぱり、朝9時とかに行って、
帰って来て、
夜の1時やったりするから。
何時間働いてる?すごいやってるね。
―― 16時間くらいですか?
サキタ:なんか、でも、
十何時間スタジオから帰ってこない時もあるから、
八時間って書いといてもらっていいですか(笑)
―― そのまま書きます。
サキタ:好きなんですよ、多分。
嫌いやったら、嫌になって、五時までに帰ると思うけど、
好きやから、飽きないし。
―― こういう仕事は、境目がないといえばないですもんね。
サキタ:ないないない。
―― 境目がないとなると、逆に休日とかは、不定休ですか?
サキタ:それは、凄い奥さんに言われるんです。
おっしゃる通りで、もうこの日は休むって決めないと、
休日にならないので、今日はなんもせん、っていう、
電話もでないみたいなことにしない休めないですね。
家族の時間を作らないってよく怒られるんですよ。
やりだすと、やってしまうので。
―― 忙しさにもよるでしょうけど、
月に何日くらい休むようにしてますか?
サキタ:今年は、暮れから正月にかけて、
割とゆっくりとさせてもらいました。
一月二月と、これは地獄になるなという予感があったので
今年は二十年ぶりくらいに、正月休みましたね。
実は、俺、獅子舞やってて、
数年来、お正月は獅子かぶってるんですよ。
そんなことせんでいいのに、縁起ものがすごい好きで。
しかも、その獅子頭、マイ獅子頭なんですよ(笑)。
うちきたら、獅子頭あるんですよ。
それもあって、家族と正月過ごしたことがなかったので、
ちょっと今年は休もうと、はい、おっしゃる通りです、
休みを決めないと、休めないです。
―― 仕事と家庭やプライベートとのバランスを取るのが、
難しいと感じる時が僕はあるんです……
サキタ:難しい? そっか……
―― 意識して、戻らないと、戻れないというか。
サキタ:そうやねぇ。お子さんいるんやっけ?
――男の子が一人。
サキタ:今しか見れないことがすごい
多いって言うじゃないですか。
息子が自転車に乗れた瞬間見れたのが感動的やったし、
いうても、そういうのは十歳になるまで。
だから、出来るだけ、
見ていたいっていう想いもすごいあるでしょ?
―― ありますね
サキタ:うちも男の子二人なんですけど。
ずーっといま、家でチンチン出してるんですよ(笑)。
―― (笑)いいですねぇ。
サキタ:宿題しながらも、チンチン出してるんですよ(笑)。
なにしてるんや、でも、きっとおもしろいんやね。
すぐにリビドーを感じたがるんやと思うんですけど、
弟の方がちょっとでかかったりするんです(笑)。
これはなかなか問題やなと思って、
そういう男同士やと面白い部分がすごいある。
家族の時間というものから受けることを、
ツイートするじゃないけど、
なんかにちょっと書いていくと、
何年後かに、
きっとおもしろいネタになったりすると思う。
―― 家族や子供がいると特にでしょうけど、
接する時間を、僕は積極的に仕事に取り入れよう
という気が今してるんですけど、
音楽に関しては、そういうことはありますか?
人によっては……
サキタ:完全に分けてね、
―― そうです。仕事とは完全にわける人もいるだろうし、
フィードバックしていきたいという人もいるだろうし、
そのへんはどうですか?
サキタ:『シャキーン』なんかはうちの息子がとってきたと
僕は思うくらいです。うちの息子は、生まれた時、
手をこうグーにして産まれてきたんです。
なんか握ってきたなと思って、
なかなか開かなかったんですけど、
これを開いたら、仕事が増えた。
何かをつかんで持ってきてくれたんやなと思います。
息子が産まれる前も子供たちにむけたものって
すごいやりたかったんですけど、子供番組やったり、
子供たちにむけてやるコンサートやったり、
ワークショップやったりと、
こんな大きな展開になるとは思ってなかった。
きっと、子供たちと一緒にいることでなにかが
開けるっていうのはある。曲を作ったら、
家でデモをかけたりするんですけど、息子がそれを聞いて
フュフュフュって吹けない口笛を吹いてたりすると、
『よし、ぐるぐる回ってる』
みたいな手ごたえを感じる時もある。
そこはすごく意味があると僕は思う。
―― 本当に、そうですね。
ところでなんですが、どうやったら、
ノコギリ演奏家になれますか?
サキタ:だははは、どうやったらなれる?
いや、ノコギリを買ったら、なれるんじゃないですか?
ノコギリを買って、叩いたら、鳴るから。
プロになるなら話は別だと思うんですけど、
もう、あんなん、誰でもやれますよ。
そのくらいの敷居の低さがあって、奥の深さもある。
どんなものでもそうだと思うけどやりこんでいけば、
すごい深いと思う。けど、ま、簡単ですよあんなもの。
―― 面白いですね、買ったらなれる、か。
でも、プロになるにはそれ相当の……。
サキタ:もちろん、それで食うていこうとすれば、
ただうまいだけでは食うていけるかわからんし。
ほら、マギー四郎さんがいるでしょ。
手品がすごくうまいけど、
巧い時期は全然うれなかった。でも、ぼやきだしたら、
すごい売れだしたっていうね。発想の転換ですね。
ノコギリを弾かない、ノコギリ奏者が出て来ても
おもしろいかわからんしね。
僕も、作曲家になろうと思ったことは正直なかった。
ただ、自分の曲なのに、
自分がいないっていうコンサートっておもろいなって
思ったことがあったんです。
どうしたらいいのかなと思った時に、はっと思いつた。
グレン・ミラー・オーケストラとかいうのは、
もうグレンミラーいないじゃないですか、
でも、グレンミラーオーケストラなんやと、
そういう感じがいいなぁみたいなことを思った。
―― つまり、それが作曲家だったということですよね。
サキタ:そう、曲ってやっぱりね、残るわけですよ。
いい曲だったり、皆がやりたい曲だったりすると残る。
今後、皆がやりたいと思う曲を書いていくということが
やっていきたいかな、
うん、それはやっていきたいですね。
―― 子供の頃、なりたかったものってありますか?
やっぱり、音楽にまつわるものでした?
サキタ:なんだろう、(しばしの間)なかったですねぇ。
今ほど、おもろいこと考えたい
というタイプじゃなかった。
もうちょっと自分はなにか出来るはずなのに、
なんにも出来んという、悩みがちな子供だった。
チックとかもあったし、割と気持ちとしては
しんどい子供時代だったような気がしますね。
まさか、自分の相棒がノコギリやったっていうのは、
想像つけへんかった。自分がやることは人と違う
『サキタハヂメ業』なんだろうなってことは
思ってたんですけどね。
サッカーをやってたんですけど、サッカーやってた時は、
サッカー選手にはならんやろうなぁと思ってた。
もっとうまい人いっぱいいるし。
でも、音楽に出会ったらね、
音楽っていろんなジャンルがあるから、
そこが希望やった。
あと、なんでかわからないですよ、
なんの根拠もないんですけど、
サキタハヂメは、『男は35からや』、
と中学校から勝手に思ってて、
今考えるとそんなん思ってる中学生なんて
どうなんやろうなと思うんですけど。
―― 今の職業に就いたというのは、何歳ですか?
サキタ:えーっと、なんだっけ、
ちゃうわ、ごめんなさい(と、しばし悩む)。
そうか、29に結婚したんだ。
奥さんも僕も、両方とも寿退社したんですよ(笑)、
『俺、やめんのはわかるけど、
なんで、おまえもやめるん?
で、おれらどうすん?』みたいなことになるんですけど、
あいつ、ええように言うんですよ。
『サキちゃんを本気にさせるためやった』って。
『違うやろ、お前が仕事イヤなんやろ』
みたいなことですけど。
そこくらいですかね、仕事にしたのは。
でも、辞めたとはいえ、いきなり仕事なんかないわけで、
でも、ライブで食うていくとは思わなかったんです。
ライブで全国回って、がんばってるミュージシャンも
たくさんいますけどね。ミュージシャンの仕事は、
基本それやと思うんですよ。ご存じでしょうか?
チャージバックっていう言い方がございまして、
ようは、ここのライブハウスは50人入ります、
で、コンサート代が二千円です、
で、ライブハウスと折半で、
入場料の半分がこっちに入りますみたいな。
がんばって全国を回っていけば、
そこそこのサラリーマンくらいはいけるって人もいる。
ただ、身一つでしょう。なんの保証もないしね。
家でぼーっとしてても、曲が頑張ってくれる、
曲がうちの社員みたいになられへんかな
という発想があって、
CMのプロデューサーさんにいろいろお話をして、
ちらちらお仕事いただいたりしてたのが、
そのくらいの歳ですかね。
でも、なかなかそんなんね、
いただけるようなもんじゃないし、
本当に最近ですよ、ちゃんと、
お仕事いただけるようになったのは。
―― 初めての仕事はどんな仕事だったんですか?
サキタ:初めての仕事?えっとね、チンドン屋時代が、
実はもう、一応お金をもらっての演奏だったので、
その話ではないのかな?
―― 作曲という意味では?
サキタ:CMの仕事で、完全にピンでやった仕事は、
……宝酒造の『飲む寒天唐辛子入り』
ってやつですね(笑い)。
そうだ、今、思い出した。
飲む寒天、唐辛子入り。カプサイシン。
―― それがだいたい、いくつくらいですか?
サキタ:28歳かな。実は、会社には内緒でやったやつですね。
その時、たまたまライブ見てくれた、
大阪にいらっしゃったCMディレクターの方が、
「サキちゃん、これ、曲やってみる?」と誘われて。
―― それは、ノコギリを使ったんですか?
サキタ:使ってないですね。いや、ちょっとヒーンて入れたかな、
ちょっと入れたかもわからない、もしかしたら。うん。
うわー、懐かしい。今、それを言っていただいて、
思い出したけど、
今度やる劇伴(※3)、寒天の話なんですよ。
―― つながりますねぇ。
サキタ:つながったね、よく言ってくださいました。
寒天やし、僕の働いてたあたりの
大阪の商売人のお話です。
―― 初めて、自分の仕事だなって思った瞬間は、
そのお仕事の時ですか?
それとも、チンドン屋の時ですか?
サキタ:チンドン屋の時は、仕事になるとはまだ思わなかった。
チンドン屋のままやと、自分の思ってる未来には
なられへんやろなと思った。
寒天の時は、どんなことを思ったかなぁ。
うわー、ほんまや、寒天やったんか(笑い)
いいこと言うてくれたな。なるほど、繋がったなぁ。
ちょっとだけ、今、感動していいですか?
こういう、なんか、繋がりとか、ピンときたことを、
大喜びするタイプするなんですよ、僕。
そうすると、また繋がっていく。
いま、『シャキーン』でご一緒してる僕の大好きな
倉本美津留さんが
『C幼笛』ということを言ってるんです。
なにかピンときたことがあって、
この胸にある『C幼笛』を大きな音で響かせたら、
天から、おまえこれ気づくかっておもろい繋がりを
また投げてくれるでっていう話があって、
僕はそれがノコギリの音なんやろなって思ってるんです。
その感じがね、きっとあるんすよね。
確かに、寒天の時に、ライブだけで食べるんではない、
作曲をいろいろやっていくという未来もあるんだなとは
確かに思いましたね。
(※3)劇伴……映画やテレビドラマなどにつかわれる音楽。
サウンドトラックと同義。
(最終回へつづきます)
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