小説同人誌を作るための、三つの手順と一つの執筆方法

0.概要
 2023年の5月に『アイドルマスターミリオンライブ!』というコンテンツの二次創作小説同人誌『Bright Now』を執筆しました。文字にして約80,000字、執筆期間はおよそ50日です。本記事では小説同人誌を作るために必要な三つの手順と一つの執筆方法について書いていきます。
『Bright Now』は通販中です。とりあえず美麗な表紙の全景だけでも見ていただけますと幸いです。


1.自己紹介

 サイトロといいます。
 アニメ『アイドルマスター』をきっかけに二次創作小説を始めて、GREEで配信されていたゲーム『アイドルマスターミリオンライブ!』にのめり込み、田中琴葉・島原エレナ・所恵美からなるアイドルユニット『トライスタービジョン』の小説同人誌『輝く瞬間』を刊行、七年を経てその到達点ともいえる作品『Bright Now』を刊行しました。執筆歴(主にpixivへの投稿)で言えば十年以上、同人作成歴で言えば七年程度となります。
 同人誌として一つ節目のものを刊行し、一度くらい自分がどういう過程で同人誌を作っているのかをまとめて、誰かに読んでもらうのも良いかもしれないと思って、本記事を作成しました。
 勿論、自分自身これらの手法を完璧に出来ているわけではありません。なので、これを読んで全部やってみようと思うよりは、一つくらいやってみようかな、くらいの気持ちで読んでいただけると有り難いです。

2.最初に、フォルダを作る。

 早速本題に入ります。
 同人誌を作るということになったら、自分は最初にフォルダを作ります。とにもかくにも、データを収める場所を作っておきたいのです。アイデアを書いたテキスト、本文を作成するための組版(自分はインデザインデータ)、表紙依頼の概要等、一冊の同人誌を完成するまでに色々なデータを作成することになります。それをどこに収めるか、いざ保存する時に迷う時間を減らすためにも、先に作っておくと後々楽になります。

『Bright Now』で作ったフォルダ。一番下は前作のショートカット

 最初に作成したフォルダが絶対、というわけではなく、必要になったら足したり減らしたりしていいのです。ただ最初に作っておくことで、完成までに何が必要なのかをおおよそイメージすることも出来ます。あとフォルダのタイトルの冒頭には数字を振ると、フォルダが綺麗に並んで気持ちがいいです。
『最初から必要なもんなんてわかんねーわ!』という方は、とりあえず日付のフォルダ(20230629、20230630等)を作ってもいいと思います。「あの日あれ作ったよな」という記憶から、どこに何を保管したのかある程度把握出来ます。
「新しいフォルダ」が量産されて、どこに何があるのか分からない。そういう不要な迷いを防ぐためにも、最初に一手間掛けるのはオススメです。
 関連するお話としては、後述する資料のメモやプロットについては、GoogleKeepでまとめて管理しています。

GoogleKeepの画面抜粋。時系列や歌詞等の情報もまとめてあります。

 このように見出しと冒頭が一気に見れるので、どのデータがどこにあるのか一目で分かります。更には記事ごとにタグでまとめることが出来て、自分の場合は同人誌だけでなく、noteの記事の下書きや、日常的なメモもこれで管理しています。
 誰に教わったわけでもないので他に使ってる人がいるのかよく分からないのですが、けっこうオススメです。

3.次に、資料を探す。

  同人誌を作りたい、と思ったのなら、少なかれ多かれアイデアや、書きたいシーンや書きたい対象(自分の場合は主役にしたいアイドル)があるわけです。次にやるのは、その書きたいもののために読んでおきたい資料は何かを探すことです。逆を言えば、資料を探すために、最初に感じた『これを書きたい!』が具体的に何なのかを突き詰めてみるのも良いかもしれません。
 拙作『Bright Now』を例に取ると、本作の大半はドキュメンタリー、アイドルたちがライブを迎えるまでの過程を描く必要があったので、近しいもの・似たものとして実在アイドル(なにわ男子、欅坂46等)のドキュメンタリーを幾つか見ました。アイドルだけでなく、ビートルズやアリアナグランデといったアーティストのドキュメンタリーも見ました。今は良い時代で、ストリーミングサービスやYouTubeで色々な映像にアクセス出来るので、見たいと思ったものは大抵見ることが出来ました。アイドルのドキュメンタリー、と限っても見切れないくらいの選択肢がありました。
 もう一つの要素として『ライブシーンを小説で書く』というのもあるのですが、正直こちらは参照出来るものに巡り会わなかった……というか、それは何とかする! という過去の経験から来た気合いで何とかした感じです。今思うと一生懸命探せば良かったかもしれない。或いは、ライブシーンを文字的に分析しても良かったのでは……。こんな風に後悔なきよう、事前の準備はしっかりしましょう。
 資料を探す手法としては、そのジャンルに詳しい人に話を聞くのも良いと思われます。拙作の場合、実在アイドルに詳しい方へと、1stライブのキャパシティや会場のスケール感を教えていただきました。事前の情報を基にして非実在のライブの情報を組み立てたお陰で、困ったり迷ったりすることが大分減りました。

4.そして、プロットを立てる。

 書きたいことを知り、書きたいものの資料をある程度見たら、次はプロットを立てていきます。以下に、実際に作成したプロットを掲載します。

01.初回打ち合わせ
 会議室全体を眺めるような映像
 トラビとスタッフ
(このシーンで普段のミリシタやアイマス小説とはまた違う雰囲気、アイドルのテンションのニュートラルさや、関わる人数の多さを提示する、だけど明るく元気に!)
02.セットリスト決め①
 前のシーンよりはアイドルの顔、セリフを増やす
 トラビとスタッフ(Pのみ、でも可)
03.レッスン①
 アイマス的に描いてもいいかも、曲数の多さに笑う三人
 トラビのみ(スタッフは居ることがわかる程度に)
04.インタビュー①
 三人それぞれに、共通の質問(途中で混ざる感じ)
 インタビュアーの主観はなるべく少なめに
05.トラビの仕事①
 劇場への出演(袖から見る)
 別のアイドルへのインタビュー(36人の中から数人)
06.セットリスト決め②
 舞台監督とアイドル間のずれを合わせる、ちょっとした緊張
 それぞれにフォーカスする
07.インタビュー②
 (一番喋っていた)恵美とソロインタビュー
 場所はカラオケ? そのまま?
 ライブへの本音、リーダーとしての本音(何故リーダーなのか)
08.インタビュー③
 エレナとインタビュー、レッスン前
 恵美のテーマを引き継ぐ
09.レッスン②
 前のレッスンよりもシビアに、曲数で疲弊する姿
 琴葉(エレナ)が場を明るくする
10.インタビュー③
 場所を変えてインタビュー
 三人への思い
11.セットリスト決め③
 前回出てきた課題を解決、和解、細かい話が出てくる
 これからは不可逆であること、どんどん事態が進むことが示唆
12.仕事とレッスン
 これまでよりも時間の進みを早める
 ショートなシーンの連続
13.インタビュー④
 3人インタビュー、場所は特別に
 本番直前の気持ち
14.ゲネプロ
 通しリハーサル、何かを見いだすカメラ
15.本番直前
 三人とスタッフの円陣

『Bright Now』収録ドキュメンタリー『What's Vision?』初期プロット

 プロットに必要な要素は『題目』『場所』『書く展開』『補足事項』くらいでしょうか。あとは題目に番号を振ることで、シーンの数をおおよそ把握出来ますね。大体1シーンあたり2,000~3,000文字くらいになるので、それから総文字数も逆算出来ます。
 一度立てたプロットをそのまま使うことは殆どありません。先程提示したものも、実際に書いたものとはかなり乖離があります。ただ、始まりと終わりはこうなるだろうとここで確定し、あとはそこに至る道のりについてあれこれと修正していきました。どんな道のりになるのかを確かめるために、一部のシーンは試し書きを行いました。
 自分の場合、プロットを立ててから日を置いて、他のアイデアや展開について考える時間を作ります。理想的なのは、二つ~三つのアイデアから一つを選択出来ることです。最初から一つしか選ぶ道がないのは心もとないので、たとえ最初の案に帰結するとしても、複数のアイデアがある方が心強いですね。勿論、アイデアはそう易々と出てくるものでもないのですけれど。

5.執筆は1日30分を基本に。

 さて執筆です。『Bright Now』という本を執筆する上で、ここは明確に過去の作品とは違う手法を取りました。具体的には以下のとおりです。
①Twitterを閉じる(他SNSや暇潰しに見るHP、YouTube等も閉じる)
②好きな音楽を掛ける(時には無音)
③執筆以外にすべきことはない、と思い込んで執筆する!
 今までは『①Twitterを開きながら』『③ぼんやりとした気持ちで執筆して』いました。1時間くらいかけても進捗が少なく、焦りを感じて余計な時間を掛けて執筆することが多かったです。集中した30分よりも、漠然とした2時間の方が時間を掛けているので価値がある、と思い込んでいたように思います。
 実際に1日30分と決めて書くと、その時だけ集中していれば良いので、それ以外の時間は自由に使っても良い、という心の余裕が生まれました。そして小説に集中すると、書くのがけっこう楽しくなって、30分は案外早く感じられました。
 冒頭で提示した文字数(80,000字)と日数(50日)で換算すると、1日あたり1,600文字、原稿用紙四枚分(夏休みの読書感想文)くらいになります。
 勿論、毎日30分でそれだけの文字数を書き上げられたわけではありません。体調が思わしくない時は10分に短縮したり、集中して書き上げたいシーンの時は10分休憩を挟んで30分を2セットで執筆したり、終盤は一気に書き上げたいので丸一日書いては休みを繰り返したりと、場合によって時間を伸び縮みさせました。大事なのは、その日自分がどれだけ執筆に集中出来るか、どれだけの時間が今から書くシーンに必要なのかを、その都度判断することだと思います。
『Bright Now』で初めて導入した執筆方法なので、今後上手くいくかは定かではありません。ですが、なるべく短時間に集中することを心掛けて、書いていきたいものです。
 余談ですがこの記事はTwitterを見ながらぼんやり書いたので時間がやたらかかりました。何故自分の手法を応用出来ないのか……。

6.これで本当に同人誌が出来るのか?

 断言しますが、今回提示した事々を心掛けるだけでは同人誌は出来ません。書いて改めて思いますが、ハウツーとしてはあまりにも拙く、浅い内容になったことは否めません。
 それでも、三つの手法と一つの執筆方法が、自分の同人誌制作の大まかな構造であることに間違いはありません。これらの過程を経て、自分の同人誌は作られてきて、そしてこれからも作られていきます。
 次に参加する即売会に向けて、再びこの手法を使っていこうと思っています。フォルダを作り、資料を注文した所まで来ています。そこからプロットを立てて、執筆に入っていく予定です。
 この記事を参考に同人誌を作ってほしい、とまでは思いませんが、同人誌作りに悩んでいたり、楽な執筆方法を模索していたりする方にとって、少しでも参考になれば良いかも、とは思います。