熊ベル
熊ベルは猪を呼ぶのだろうか?
1人でもぴょんぴょん登山に行っちゃうベテランの友人が、家っ子の私を引っ張り出して登山に連れてってくれた。私の登山デビューだ。
この日私たちは猪に襲われた。
彼女は私を気遣って、自分が全部用意して持っていくから手ぶらでおいで、と言ってくれた。人にすぐ甘える私はバックパックすら持って行かず本気の手ぶらで向かった。この日、バックパックを私も背負っていたら、今登山を続けてないかもしれない。
登山では地上を眺めるスポットがちょいちょいあるのだが、この時登った山にもそのスポットがあった。景色に興味がない私は、見向きもせず通過しようとしたのだが、彼女は「これも登山の楽しみの1つなのだから一緒に眺めようよ」と私を景色がよく見えるスポットの先っぽに連れてった。
ドサッ!横で彼女が尻餅を付いている。後ろを振り返ると猪。デカイ…。起き上がろうとする彼女のバックパックに前脚を掛ける猪。150cmの私と似たような背格好の彼女は踏ん張れるはずもなくまた尻餅をつく。この時の私は、足がすくんで助けることもできずただただ立っているだけ。彼女は、そんな私の手を取って「逃げるよ!走って!」2人で猛ダッシュ!火事場の底力とはこのことだ。山を走れたのだ。いやいやそんなことより彼女の判断力に助けられたことへの感謝の意を伝えたい。彼女曰く、猪に餌を与える人がいるからバックパックの中にご飯が入っていることを猪が覚えているのだろうとのことだった。
以降も、たまにではあるがいろんな友達と登山にいっている。友達は、私のことを体力あるな〜と言うが違うのだ。皆と同じように前に1歩進むのが精一杯なのだが、≲猪に注意≳の看板が目に入ると、脳が足に「逃げろ!」と命令するのだ。ビビって早足になる姿が、友達の目には軽快に歩いているように映るようだ。
熊ベルは人がいることを知らせる役割をする。つまり猪にご飯がここにあるよとお知らせすることにはならないのか?とは思うものの熊ベルをはずせるわけではない。なんてったって猪と遭遇したのだ。熊と遭遇しないなんて思えるだろうか。熊が来ないよう熊ベルを鳴らし、その音に猪が反応する前にスタスタと立ち去る。先日もチャッチャカ歩く私の姿を友達に見せつけてきたところだ。