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僕の好きなミュージシャン② サイモン&ガーファンクル

僕が中学生の頃(90年代初頭)には既に、音楽の教科書に載るようなポピュラー・スタンダードな存在だったフォークデュオ、サイモン&ガーファンクル
高校生の頃にはビートルズやローリング・ストーンズなどの60年代のロックを愛好するようになっていた僕にとって、彼らのことをレジェンド達の中でも一際別格の存在に感じていたのは、亡き母が唯一好きだった海外ミュージシャン、という単純な理由だからかもしれない。

母の遺品でもある「ミセス・ロビンソン」の7インチ。
チリノイズ多めだけど、それもまた良し。

最初に名前を知ったのは前述の音楽の授業でのこと。
その頃の中坊の僕はブルーハーツでロックに目覚めたばかりで、ヒロトやマーシーのルーツを掘り下げて聴くほどのリスナーではまだなかったため、普通にスルーしていたと思う。
ちゃんと聴くきっかけはおそらく、母の頼みで「Greatest Hits」をCDレンタルしてカセットテープにダビングしたついでのことだったはずだ。

一緒にダビングした自分のカセットテープを聴くにつれ、次第にその美しいメロディーと清廉なサウンドに魅了されていった。
多分、世界中に存在する彼らのファンとさほど変わらない、ごくありふれた経緯だろう。


聴きはじめの頃は全然意識していなかったけど、60年代後半に絶頂期を迎えるアメリカのポップグループでありながら当時のサイケデリック・ムーブメントに微塵も感化されていない音楽性は、改めて考えると驚くばかりだ。
あの当時に、あらゆるグループに揺さぶりをかけていたはずのビートルズの存在には動じなかったのだろうか?
無理矢理ジャンル別けするなら、バーズなどに代表される「フォークロック」とビーチ・ボーイズなどに代表される「ソフトロック」、その中間といったサウンドなのかもしれないが、その2つの要素を超緻密にろ過したような、ひたすら清涼で繊細なアコースティック・サウンドとハーモニー。
その中でも、曽我部恵一さんが"冬のニューヨークを散歩しているかのようなアルバム"と賞した3rd「Parsley, Sage, Rosemary And Thyme」は、さながら英国フォークのような美しく凛とした空気感が圧巻だ。


実際、ファーストアルバム「水曜の朝、午前3時」がさほど売れず、失意のまま渡英したポール・サイモンは、マーティン・カーシーやサンディ・デニーなどの英国フォーク・ミュージシャンと交流していたことがあった。
そのときに、後に世界中を魅了する確固としたソングライティングと音楽性が確立されたのだろう。
個人的なことを言えば、僕が後に英国フォークにハマっていく理由として、若い頃からサイモン&ガーファンクルを愛聴していたことが下地としてあった、と言えるかもしれない。

個人的ついでに言えば、僕が初めて観た外タレコンサートは、高校2年のときに福岡ドームまで観に行ったサイモン&ガーファンクル来日公演である。
そのときは12月だったため(正確な日付を調べると1993年12月1日)、彼らのその荘厳な音の雰囲気も相まって、それ以来僕は12月になるとサイモン&ガーファンクルを聴きたくなる、という趣味嗜好を持つことになってしまった。


荒削りなファーストアルバムはともかくとして(もちろん、これはこれで好きだ)、「Sounds Of Silence」「Parsley, Sage, Rosemary And Thyme」「Bookends」「Bridge Over Troubled Water」の4枚は、いずれもロック史に屹然とそびえ立つ、揺るぎない名盤だ。

その中でも、やはり最高傑作は最終作「Bridge Over Troubled Water」ということになるだろう。

世界中で大ヒットしたので、中古レコード屋へ行けば状態の良いものでも300〜500円程度で手に入ることができるのは、レコード好きに取っては周知の事実。
しかしその内容は、このレコードがリリースされた1970年の数多の名盤と比較しても、トップクラスのクオリティだ。
さながらオアシスの『(What's The Story) Morning Glory』のように、全ての曲でシングルが切れると言っても過言ではないくらい、個別の楽曲クオリティは非常に高い。

もっとも有名なのは、教科書にも載っているペルーの民謡を取り上げた「El Condor Pasa (If I Could)」だろう。
悠久のサウンドに乗せて歌われる「打たれる釘よりも打つハンマーになりたい」というフレーズが物議を醸したのは有名な話だ。
そして、力強いピアノの旋律とゴスペル的な雰囲気が感動的な表題曲「Bridge Over Troubled Water」、サンバのリズムが躍動的でクラブDJにも人気が高いS&G随一のポップ・チューン「Cecilia」、名ドラマー、ハル・ブレインのサンドバックをブチかますようなショットが印象的な「The Boxer」、近年同名タイトルのカーアクション映画で使われたことでも知られるファンキーで軽快なアコースティック・ポップ「Baby Driver」、後年にエヴリシング・バット・ザ・ガールがカバーした清廉なフォーク・チューン「The Only Living Boy In New York」など、個別の楽曲は非常にバラエティ豊かで、この時期におけるポール・サイモンのソングライティングの非凡さは特筆に値する。
有終の美を飾る、という意味では、ビートルズの「Abbey Road」にも匹敵する歴史的名盤だろう。

僕は「Bridge Over Troubled Water」「So Long, Frank Lloyd Wright」「The Boxer」に感じる、荘厳で冷たい空気感がとても好きで、雪がちらつくような冬の寒い日に聴きたくなる。

今ではポピュラー過ぎて、あまり顧みられなくなったように思える彼ら。
作品の数は少ないものの、活動期間がほぼ同じであるビートルズに匹敵する功績をポピュラー音楽史に残したと、僕はいつも思っている。

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