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『紫のライオン』

佐渡島に渡り降りた私に、黄金が降ってきた。
どうもおかしい、なんだかネチョネチョしてる。
黄金はずっと降り注ぐ一方だから、両手の掌で碗を作って、ある程度黄金をその碗で貯めてみた。

貯めてからわかった。
黄金はよだれだった。確かにどっぷりとした粘液だった。
ということは、そう、
頭上に吐露物の当事者がずっといたということになる。

ゆっくりと大袈裟にならないように、見上げると、
ずっと先の方だけを見つめる、全身がムラサキ色のライオンが、
口からジュクジュクとヨダレを垂らしているじゃないか。

周りをよく見渡せば、ヨダレはそこらじゅうに吐き散らされていた。

少し前に紫色のライオンが通ったと思われる場所にも、
もちろんヨダレだまりができていたが、
なんだかそれは一定の有形物としての何かにゆっくりと
変わっていってるじゃないか。

そんなことに気づいた瞬間から、
私の上着に付着していたヨダレもなんだか動き始めた。

化け狐、招き猫、騙されたぬき、負け犬へと変幻していく。

紫のライオンは、どうやら佐渡島の生態系の頂点に君臨し、
こうしてヨダレから自らの僕となる皮肉生物を生み出して、
その地の生命全体を掌握していた。

惨めなことに、変幻していった生き物はどれも短命で、
生まれてすぐに溶けていった。
なんと後味の悪い。

私は、海へ行き、ヨダレを海水で流し取り、
綺麗さっぱり気分爽快。
さっさとここを離れるか。

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