90年代生まれが90年代オルタナティブロックを創る【NITRODAY】
恋愛ソングで共感を呼び、踊らすためだけの音楽がDJで流れ、伝えなければならない音楽が潰されかけているこの邦楽ロックシーン。ぬるま湯が冷めないこの時代に突如90年代オルタナティヴロックが新たな形で姿を現した。
90年代を翻弄させる甘酸っぱい轟音を削る若干二十歳の若者4人組「NITRODAY(ニトロデイ)」というバンドだ。
現在二十歳前後の彼ら彼女らは高校生の時結成。在学中に「RO69JACK」で見事優勝し「COUNTDOWN JAPAN 16/17」への出演権を獲得、その後も自主音源を発表し瞬く間に早耳のバンドリスナーの間で話題になった。
高校生バンドが話題になるのはただ若いだけだから?ニトロデイの何が衝撃だったのか、それは当時10代の彼らがNUMBER GIRLを再現したかのような重くで渋い音楽を思春期の衝動に任せて鳴らしていたからだ。
地元は横浜市、バンドの中心人物はボーカル小室ぺい(写真左)、田渕ひさ子が憧れだという華奢な文学少女・ギターやぎひろみ(写真右から2番目)、安定感のある歌声を持つ金髪ロングヘアが特徴のベースコーラス松島早紀(写真右)、ニトロデイ以外にもバンドを掛け持ちしている実力派でありバンドの最年長(とは言え1つ上なので大して変わらない)岩方ロクロー(写真左から2番目)の男女混合4人組だ。
そんな若き才能に触れたのは何気なくYouTubeを流しっぱなしにしていたら「青年ナイフ」という曲が流れてきたことだった。
この時初めてニトロデイを知ったので前情報は無かった。どんな人たちがこんな音楽しているのだろう?彼らの地元やライブ活動が気になったのでプロフィールを見てみると、「高校生」と書いてあった。
それは久しぶりに受けたガツンと音を立てた衝撃だった。
この若さでどうしてこんな渋い音楽を知っているのか?という疑問と自分でしか感じられない壁にぶつかりまくっている荒々しさや上手に嘘をつけない泥臭い音。リアルタイムで思春期ならではの思うように生きれない焦燥感が音楽で表現されているのだ。中学生や高校生では部活動のキャプテンでありながら成績トップの文武両道の人気者から運動が得意でも勉強が出来る訳でも無い冴えない人間が混在する。提出物は遅れず出しているけどテストの結果は毎回いいわけではなく、部活では補欠だし目立ったグループにも所属しているわけでも無い。「上には上がいる」と感じている「普通の人間」が持つ劣等感が詰まっている。
「青年ナイフ」を聴いたときニトロデイの才能は潰してはいけないと思った。こじらせた人間関係、学生生活を送る上で避けられないスクールカースト、全部ナイフでぐちゃぐちゃにしてやろう。彼らは紛れもなく才能の原石だし、今のバンドシーンで轟音を鳴らす10~20代は貴重な存在なのだ。
彼のルーツはNUMBER GIRLだ。
ライブも客層は年齢層は高めなように感じる。それも半数は家には様々なジャンルのCDがあふれていてレコードを愛でているような、まさに音楽を聴きにきた方々が多い。(もちろん若い方から女性のお客さんもちらほらいる)若い90年代の音楽を90年代をリアルタイムで聴いてきた方々が聴きに来る。エモいじゃないか。
新作EPから「ヘッドセット・キッズ」がとてもいい。
初期の重みが抜けてきた炭酸水が小さく弾けるリズムが青春真っ只中のニトロデイらしさを掴んでいる。それは「もうNUMBER GIRLとは言わせない」という強い意志ではなく、彼らが背伸びをせず地道に音楽活動を続けて次第に多大な影響を受けた「NUMBER GIRL」が自然と抜けてきたのだ。
彼らのライブは見るたびに本当にどんどん良くなって行く。音の純度は高くなっていきながらも悲鳴ははっきりあげている。みんな垢抜けてどんどん綺麗になっているけれど、音も見た目もいい意味で変わらず全く飾っていない。
ボーカル小室は「最近曲を作ることが楽しい」とライブで話していた。たった一言だが、心の底から楽しいのだろうなと思った。
私も生まれは90年代で彼らと歳はほとんど変わらない。彼らは2、3個年下でアーティストを応援することがほとんど無かったため、たまにメンバーが物販に立っていて最低限の義務的な会話でもする時は少しドキドキしてしまう。
「誰かが手を振っている気もするけど、今更何か言っても聞こえないや」
「ヘッドセットで 全部真っ白に そんな簡単に 行きゃいいよな」
晴天の昼下がり、コーヒースタンドで買ったこだわりのアイスコーヒーを片手にスケートボードで落書きだらけの汚い街を颯爽と駆け巡る。人混みをすり抜けるのは思ったより得意みたいだ。相棒には流行りのBluetoothイヤホンでも、ファッションとしても映えるヘッドフォンではなく、マイク付きのヘッドセットを選んだ。それなら、僕が言いたいことは好きなだけ言えるし、街の騒音が聞こえないから僕が言ったことに対して投げてくるずっと劣等感に嘘をついてきた水簿らしい大人の言葉は聞こえないのだ。ヘッドセットをつけたらくだらない誹謗中傷、どうやって生きてきたのか知りたくなるダサイ大人、世の中から一瞬にして消えた。もちろん褒めてくれる言葉も無くなったけど、別に気にしなかった。ヘッドセットをつければ僕だけが生きる世界だった。僕がその世界の王様になったわけじゃ無い、僕だけ1人取り残された訳でも無い、全てシャットダウンしたら僕の存在が一番最強だということに気がつけたのだ。
彼らの才能はリスナーとしても守らなくては行けない義務感も感じる。
2020年代のオルタナティブロックは、きっとNIRTODAYが気持ちよく走り抜けるだろう。
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