●私と珈琲と衛星ができるまでの地図●経由地、小さな喫茶店
小さな古民家を改装したその喫茶店は吹き抜けになっており、二階席から見下ろすと、一階のそれもまた小さなキッチンで店員さんがコーヒーを淹れたりお皿を拭いたりと立ち働いているのが見えた。
こういうところで働くことができるのはどんな人なんだろう、と思いながら二十代前半の私はぼんやりと見ていた。
いつも失意と隣り合わせで現実との距離感がさらに開いていたその頃の私は、どんな道を進めばこんな場所で働くことができるのだろうと、まるで別次元の人を見るようにおしゃれな店員さんたちを眺めていた。
それから約十五年後。
どこが一番修行になるだろうか、とスタッフを募集している喫茶店を一通り回ってみていた中に、その小さな喫茶店の系列店があった。
つまずいたり蛇行したり、いろんな道を歩いてきて、喫茶業を生業にしたいという小さな決意を灯していた私は、一人で自分の店を持てるように修行しようと決めていた。
そしてその小さな喫茶店の系列店で働くことになり、のちにその小さな喫茶店の店長をすることになるのである。
巡り合わせというものは実に不思議なものだ。
現実からかけ離れていた頃には想像がつかなかったことが、現実を自分の足で歩き始めた途端に急に繋がったりする。
実を言うといろんな店を見て回った中で、一番難があると思ったのがその小さな喫茶店を経営している会社だった。
しかし一番なんでもやらせてくれそうな気がした。
一番経験値が詰めそうなところが一番修行になるだろう。
かくして本当に修行になった。
いいことも大変なこともたくさんあったけど、頼りになる人たちと出会うことができ、おかげさまで自分の店を持つことができた。
現実から目を逸らしていたあの頃の自分を、俯瞰して見ている今の自分がいる。
大丈夫だよと言ってやりたい。
誰も言ってくれないけど、その先の未来の自分が言ってくれるのだと教えてやりたい。
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