会話をつづけていくための会話

昨年読んだ本の中でめちゃくちゃ沁みた本があって、年末にも軽くFBに投稿したのですが、『協働するナラティヴ』という本があります。

僕はセラピーをしているわけではないので、書かれていることをそのまま転用することはできないですが、今月はどうにも重ための労務相談が続いていて、職場での会話について考えさせられることが多くありました。
Wicked Problemというのか、要素が複雑に絡んでるので問題を定義しにくく、明確な解決策もなかなか見つからない、そんな案件がいくつかありました。
幸いなことに、どうしたらいいのか?と僕に相談してくれる管理職がいるので、起きていることについて話をする機会が持てたのですが、この本に書かれていたことはそういうことかぁーとやりとりを振り返って思えたことがいくつかあったのでそれを書き記そうと思います。

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以下、引用文(遠見書房のHPで読むことができます)

社会構成主義は、「言語(的相互行為)がリアリティをつくっている」という「静止の状態」ではなく、「言語(的相互行為)がリアリティをつくっていく」という今から未来に向けての「動きへの参加」として捉えなければ真価は発揮できないだろう。ぼくはその時制を間違え、甘く見ていたことを気づかされた。
そこでこの本をまとめると思われる二つのキーワードに行き着く。それらは、「無知の姿勢」(not-knowing)と「会話への信頼」(trust)で あろう。「あなたはこういう人だから」という固定的な性格判断、「こんなことがあったから」という硬直した歴史認識、「こういう長所があるはずだ」という 「ある‐ない」の実在論などをちょっとだけ弱めてみたらどうだろうか。脇に置いてみたら。もし、いまここの会話にすべてを委ね、会話そのものを肯定する姿勢に転じたら、何が起るだろうか
(中略)
ジーン・コームスはある時ハリー・グーリシャンに聞いた、「じゃ、ハリー、(クライエントに対して)次に何を質問するべきかは、どのようにしてわかるんですか?」
すると、ハリーは言った、「(丸みがかった表面を想定して)ほんの少し前に行ったところを聞くんだよ、ほんの少しだけ。ちょっと移動したその辺りのことを ね」と、ジェスチャーを交えて答えた。そして、彼は魚の話をして(ヒラメのことを考えていたのだろう)、「魚が泳ぐとき、どう泳ぐ? 魚は少しずつなめら かに泳ぐだろう」、そう言って目をキラッと輝かせたかと思うと、「いや、わかんないな(I don’t know)」と付け足した

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管理職と話をする中で、まず何が起きていてどこまで状況を把握しているのかと話を聞くと、起きていることの描写以外にいろんな話がでてきます。
登場人物に対して抱く印象、過去からの経緯、なんとかしようと試みてきたこと、こうするしかないんじゃないかといった見立て、などなど。
そういう語りを聞くと、全く何もしていない人や悪意をもって悪い方向に進めようと行動する人はそうそういないなぁと思えます。結果的に良い方向に向かわなかったことはあるにせよ、なんとかしようとした行為だし、そもそも他人に相談してくる時点で、その人にとって面倒事ではあってもどうでもいいことではないです。

ただ、そういった話はいずれも過去か未来の話に寄りがちで、話せば話すほど現在から離れていくし、そのまま会話をつづけているとどんどん窮屈なところに入りこんでいく印象があります。

会話の中で使われた言葉を拾いながら、今この場で話せた話以外にまだ聞けていない話があるんじゃないか?とか、現状の問題認識(例えば誰かが悪者になるようなストーリー)は別の捉え方もできるんじゃないかとか、その見立てだとこういう結論になってしまいかねないがそれでいいのかとか。
そういう別の可能性を探る会話をつづけていくと、それはそれで行き詰ってしまうこともあるのですが、ふっと軽くなる・ゆるむ・息がつける瞬間に出くわすことがあります。言葉が動きやすくなったと感じます。

そういう場所から、「もしそうなったとしたら・・・」という未来に向かう会話が続けられると、その時点ではまだ何も解決できていないとしても、問題が別のものに変化したり、次につながる行動の選択肢がでてきたりしやすくなるように思えます。

きっと、会話を続いていくための会話として、断定的なものの言い方を避けたり、あれもこれものスタンスをとったり、そういう言葉遣いをするんだろうな。社会構成主義はそういうイデオロギーなんだと理解しています。
もちろん、言い回しを変えれば操作性がなくなるわけではなくて、表面的に優しい言い回しを使うだけだと、むしろたちが悪くなりそうです。コミュニケーションを取ろうとする限りゼロにはならない自身の操作性に自覚的でありながら、内省と解放を志向していけたらと思います。


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