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女性は低収入男性を養うか?

はじめに


 男性は低収入の女性を養うが、女性は低収入の男性を養わない、とよく言われる。

 これ自体は統計的には的外れというわけではない。実際傾向として、夫の収入は妻の収入より高いことが多い。


「平成29年就業構造基本調査結果」(総務省統計局)をもとに下記のサイト作成者が作成https://statresearch.jp/nenshu/households/household_2.html


 これについては「女性に不利な社会構造のため」という説明がなされることが多いが、複数の調査から女性は高収入の男性をパートナーとして好むことが分かっている。


https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h30/zentai-pdf/index.html

また、いわゆる「女性の上昇婚」は日本でのみ見られる傾向ではない。アメリカの大規模サンプルを対象に調査した研究では、女性は男性よりも「安定した収入」があるパートナーや「稼ぎの多いパートナー」を強く好むことが分かっている。また、収入の高い女性は、よりこうした特徴を持つパートナーを好むことも分かっている。

https://psycnet.apa.org/record/2015-47430-021

 そして、アメリカでは、高収入の男性は低収入の男性と比べ結婚経験がある可能性が高く、離婚経験がある可能性が低く、離婚した場合再婚する可能性が高く、子どもがいる可能性が高い。一方女性では、高所得の女性は低所得の女性と比べ結婚歴がある可能性は高くなく(有意な違いはない)、離婚経験がある可能性が高く、子どもがいる可能性が低い。



 
 これらのことから、高収入の男性はパートナー形成において低収入の男性より有利である、ということは言えるだろう。冒頭で述べた「男性は低収入の女性を養うが、女性は低収入の男性を養わない」という点についても、女性が低収入の男性を養う(あるいはパートナーとして選ぶ)可能性は高いとは言えない、というのが現実だろう。

 しかし、Twitterでは次のような声も聞かれる。

・「僕が非正規だったが妻は正社員、高年収だった」
・「私は低収入の男を養ったことがある」
・「女性が働いて夫や子どもを養っている例を知っている」


 これらの声の一定数は単なる「自分語り」であるが、中にはこれらの個別事例をもとに「だから女性の上昇婚は嘘だ/差別があるから仕方ないのだ」といった主張をする人もいる。それらの声に対して、「いやそれはあくまで個別的な事例ですよね」と指摘してしまう例もあるが、一応「女性が男性を養う」可能性もゼロではない。そこで今回は、女性が男性に魅力を感じ、もしかしたら「養おう」と考えるかも知れない特徴について検討してみようと思う。


収入以外で男性としての魅力になりうる要素は何か



 予め言っておくが、筆者は別に「男性としての魅力は収入がすべて」と言っているのではない。収入以外にも、女性が魅力を感じる要素はたくさんあるだろう。 
 では収入以外で、男性として魅力的であると評価される可能性がある特徴にはどのようなものがあるだろうか?

身体的魅力


 
 まずは身体的魅力である。Rhodesらの研究では、顔や身体が魅力的な男性は、他の同世代の男性と比べ過去の性的パートナーの数が多いことが分かった。つまり、「イケメンは多くの女性と関係を結ぶことが可能である」ということになるが、これはあまりに自明だろう。ただ、一応収入がないというハンデをカバーできる可能性のある要因としては指摘できる。

※この研究では収入の影響は考慮していないが、参加者の大半が25歳以下の若年層であることを考えると収入が影響している可能性はある程度排除できるだろう。


音楽的能力


 
 収入以外に男性の魅力を高める可能性のある要因として、「音楽」がある。MarinとRathgeberは、音楽が性的魅力に及ぼす影響について検討するための実験を行った。実験の結果、女性参加者は(パートナー候補が演奏しているとされた)音楽を聴いた場合、パートナー候補の顔の魅力や「関係を持ちたいかどうか」について、音楽を聴いていない場合と比べ高く評価することが分かった。男性参加者においては、音楽を聴いた場合に「関係を持ちたいかどうか」の評価は高くなったが、顔の魅力については高くならなかった。

 この結果から、男女共にパートナー評価において「音楽」の影響を受けうるが、女性においては(男性と違い)顔の魅力を評価する場合においても音楽の影響を受ける可能性が示唆された。より具体的には、音楽を演奏しているとされた男性はより「イケメンである」と評価されやすいことが分かったのだ。

 Twitter男女論界隈に詳しい人であれば、この結果からあるキーワードを連想するかもしれない。そう、「バンドマンはモテる」である。このワードは、特に「売れないバンドマン」について使われることが多く、「女性が低収入の男性を養う」例としてよく挙げられる。
 売れていない(収入が少ないorない)バンドマンがなぜ女性と関係を持てるのかということについて、よく言われるのは「売れた場合高収入になる可能性が高い」ということである。この説明は要するに「今は売れていないが、売れれば高収入が見込めるため、女性は将来の可能性も考慮して付き合っているのだ」というものであり、雑に言えば「結局は収入に惹かれている」ということになる。
 この説明は一定の説得力があるが、「音楽を演奏する男性はイケメンと評価されやすい」という研究結果を踏まえると、音楽能力自体が「セクシー」であるという可能性も指摘できるだろう。つまり、音楽をやっている人間はセクシーであるため、収入の無さというハンディキャップがある程度補われているということだ。無論現段階で「売れれば高収入説」が排除できるわけではないが、個人的には「なぜ音楽は売れるのか?」といった点は考える必要があるように思われる。


芸術性


 音楽だけでなく、「芸術性」も女性から魅力的と思われる要因であると考えられる。Cleggらは、ビジュアルアーティストを対象に調査を行い、芸術的成功と交際成功との関係を検討した。その結果、成功した男性アーティストは、他のアーティストと比べて過去の性的パートナーが多いことが分かった。この関係は収入をコントロールしても有意であった。一方女性では、芸術的成功と性的パートナー数との間に有意な関係は見られなかった。

https://psycnet.apa.org/record/2017-37519-001


 音楽的能力と芸術性は、「創造性」という言葉でまとめることもできるかもしれない。芸術にせよ音楽にせよ、成功すれば高収入が見込めるため、女性からは望ましく評価されるかもしれない。他方で上記の研究では、収入をコントロールした場合でも男性において芸術的成功と性的パートナーの数との間に有意な関係が見られた。このことから、芸術的成功を含む「創造性」は、それ自体がセクシーであるという可能性が指摘できる。


知性


 知性も女性から魅力的に感じられる可能性のある特徴である。Prokoschらは、男性の知性と女性による魅力評価との関連性について検討するための実験を行った。その結果、男性の知性は女性による魅力評価を有意かつ正に予測することが分かった。このことは、男性の知性が高いほど女性から魅力的であると評価されやすいということを意味する。また、創造性も同様に女性からの魅力評価を有意かつ正に予測し、知性、創造性ともに男性のパートナーとしての魅力と関連していることが示唆された


 なぜ知能が男性としての魅力と関係するのかについては様々な可能性が考えられる。知性が様々な成功(例:社会的資源の獲得など)と結びついているという説や、よい遺伝子の指標となるといった説などが検討されているが、例えば「サピオセクシュアル」のように知性に魅力を感じる性的指向があることを考えると、何らかの理由で知性それ自体がセクシーであるということは言えるかもしれない。



終わりに



 
 今回は、男性が女性から魅力的であると評価される可能性のある特徴について、「収入」以外の側面に注目して検討してきた。これらの特徴に魅力を強く感じる女性であれば、もしかしたら自身より収入が低かったとしても付き合おうと考えるかも知れない。
 無論これらの特徴は収入にも関連するため、完全に収入の影響を排除できるわけではない。他方で、これらの特徴が求められる職業についている人の中には必ずしも収入の高くない人もいるかもしれないが、そうした人でも女性から魅力的であると判断される可能性はある。例えば大学教員などはその例で、知性が必要とされ実際に博識であるものの、ポストに恵まれず収入が上がらないという男性教員もいるだろう。しかし、知性が高いことで女性から魅力を感じてもらえる可能性があると考えると、その男性は「性的魅力」という大きな強みを持っているということになる。そしてそう考えると、大学教員のように「知的であると評価されやすい職業」に就いている人が「弱者男性」であるというのはどうなのだろう、とも考えられるが、これについては本noteの主題ではないためここで詳しく述べることはしないこととする。






 

 




 


 


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