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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』5/16(木)【第3話 三日月に魅せられて】

晴香の自宅が、自分と同じ方向だと
いうことは知っていた。
店を出て自宅方向へ2人で並んで歩き始めた。
ふと、空を見上げると、上弦の三日月だった。

ただの好みの問題なのだが、
私は満月よりも、三日月のほうが好きだ。

何故?と聞かれても明確な答えは
ないのだが、月に抱く神秘的なイメージが、
なんとなく満月よりも三日月に近い気がする、
ただ、それだけだ。

そんなことを考えながら空を見上げていると、
晴香が聞いてきた。


晴香「辻本先生は、月がお好きなんですか?
なんとなくですが、似合っている気がします」

拓也「好きと言えるほどかはわかりませんが、
ついつい見てしまいます。
何か心がひきこまれるような感じがして。

あとは、何も考えずに空を眺めるのが
好きなのかもしれないです。
家に帰ってすることがない時は
ビール片手に、窓から空を見たりします。

自宅がマンションの5階なんですが、
窓の外に、高い建物がないから、
意外と綺麗に夜空や月が見えるんですよね。

でも最近、隣にスーパー銭湯が
できてしまい、照明の光が邪魔して、
なんだか、月が見えにくくなりました。」
それを聞いた晴香が驚きながら尋ねてきた。

晴香「もしかしたら、
私と同じマンションじゃないですか?
私も、アイクレールに住んでいます。」

拓也「まさか、同じマンションだったなんて。
晴香さん、何階ですか?」
晴香「2階です。どうしてマンションで
一度も会わなかったのか不思議」

その後、晴香と話すと
立ち寄るコンビニまで一緒だった。
まあ同じマンションだから当たり前なのだが。
その流れからコンビニに立ち寄ることなった。
 
店内に入り、各々で買い物をしていたのだが、
冷ケース前で一緒になった。
水を手に取り、カゴに入れた晴香に話かけた。

拓也「もしよかったら、
私の部屋でもう少し、飲みませんか?
正月に兄貴がドライフルーツの詰め合わせを、
送ってきたんです。

でも一人で開けるには、少し量が多くて。
それに、どんな味するかわからかないので、
少し不安で。」

晴香は笑いながら言った。
「私は毒見係か何かですか?まあいいですよ、
お腹は丈夫ですから」

既にワイン1本とデカンタをあけているので、
低アルコール飲料を買った。
お互い、好きなものを2本ずつ選んだ。

正直、パーソナルスペースに
他人を入れるのは好きではない。
ただ今夜は無性に誰かと居たい気分だった。

それは、別に晴香でなくてもよかったのか? 
と問われたとしても、それはよくわからない。
真剣に、話に耳を傾けてくれる晴香に、
聞いて欲しかったのかもしれない。

そして何より、私の中にある
男としての欲求は否定できない。
女性の温もりを感じたい
という思いにかられる夜だった。
 
ドライフルーツ一択は、リスクが
あったので、柿の種を一つ追加した。
晴香は割り勘を申し出たが、
私が誘ったので、自分が支払うと押し切った。

店員の「2,798円です」の声を聞いて、
財布からカードを取り出そうとした。
その時、何かが落ちた。晴香は拾い上げた。
そして、尋ねた。

晴香「クレストムーンクリニック?
何ですか?もしかしていやらしいお店の
カードですか?」私は、笑いながら返した。

拓也「違いますよ。催眠療法セラピーで、
興味本位で先々週行ったんです。
先月は、仕事がハードだったので、
気分転換で行ってみたんです。
意外とよかったですよ。

なんとなくリラックスできましたよ。
でも私も一応医療関係者ですから、
依存したりすることはないです。」

晴香は笑いながら言った
「わかってますって、変なお店じゃないこと。
でも、ムーンクリニックって、
辻本先生は月がお好きなんですね。

それから、別にいやらしいお店に行ったって、
いいと思いますよ。
男性って、そういうものだと
思ってますから。よく知りませんけど。」
拓也はクレジットカードを
レジにさしながら、苦笑いをした。
 
このセラピーは、本当に興味本位で
行ったが、変な店ではない。
確かに薄暗い室内で、顔はよく見えなかったが
セラピストも若い女性だった
しかしそういう類いの店ではない。

催眠療法は初めてだったが、
終わってみると、リラックス出来た。
機会があれば、また行ってもいいかもしれない
とは思っている。

しかし、晴香が言った
「男性ってそういうものだと思ってる」
という言葉は、
私に免罪符が与えられたような錯覚を覚えた。
 
(第3話 終わり) 次回は5/18(土)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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