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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』6/1(土) 【第10話 誘惑の香りに包まれて】

部屋に入った晴香は、マフラーを
取りながら、私に、話かけた

 晴香「オーブン借りていい?」
 
私は、勿論と言って、オーブンの扉を開けた。
晴香はマフラーを畳みソファーの端に置くと、
トートバッグを持ってキッチンに来た。

そして、中から、ラップをされた
グラタン皿を2つ取り出した。
 
下調理は既に終わらせ、
あとは加熱するだけになっている。
ラップを外して紙袋から取り出した
チーズをたっぷりとかけオーブンに入れた。

加熱ボタンを押したあと、腕まくりしながら、
再び晴香が言葉を発した。

晴香「お皿を2つ使ってもいい? 
 箸休めに、ピクルスを漬けてみたの」
そう言ってピクルスの入った瓶を取り出した。

私は小ぶりな皿を2つ出し、前に置いた。
そしてそのまま横でアヒージョを作り始めた。
 
作ると言っても小鍋にオリーブオイルを入れ、
スーパーで買ってきた、アヒージョの具材と、
同封されたスープの素を、鍋に入れただけだ。
そして小鍋を火にかけた。

ピクルスを盛り付けながら、
見ていた晴香は、嬉しそうに言った。
 
晴香「それ、アヒージョ?
私、アヒージョ大好きなんだよ」
その言葉を聞いて、私はなぜか嬉しかった。

私は冷蔵庫を開け中からボウルを取り出した。
スーパーで買った野菜のセットは帰ってすぐ、
洗浄と水切りを済ませた。
今、それを取り出し、皿に盛り付けた。

切ったオリーブと岩塩、ブラックペッパーを、
振りかけてからテーブルに運んだ。
そのタイミングでオーブンに入れた
グラタンが焼きあがった。

晴香はグラタンを、私はアヒージョの入った
小鍋と、スーパーで買っていたドレッシングを
テーブルまで運んだ。

アヒージョ用のコンロと、
切ったバケットは、既に準備してあった。
私は、晴香に話かけた。

「晴香さん、じゃあ座って。何を飲む?
アヒージョ用にワインを買ってるけど、
他にもビールや、チューハイもある」
晴香は少し考えて言った。
 
晴香「じゃあ、折角買ってきてもらったから、
ワインにしようか?」その言葉を聞いて、
赤ワインをグラスに注いだ。そして乾杯をした.

 
食事をしながら、今日は、お互いが最近特に、
ハマっているものの話になった。

ただお互いにとは言ったが、
私には思い当たるものがなかった。
そのため、専ら晴香の話を聴いていた。
 
晴香は、最近、ユナショウというYouTuberに
ハマっているそうだ。YouTuberと言っても、
登録者も10万人にも、満たないらしい。
晴香いわく陰キャと自称する高校生カップルで
ビジネスカップルという設定らしい。

2人の初々しさがいいと晴香は語っているが、
そう思うのは、自分がオバサンだからかもと、
おどけて言ってみせた。


食事が終わったので後片付けをした。
今日は、2人で協力して皿を洗った。
2人でキッチンに立っていると、
まるで本当の恋人のようだと思った。

ソファに移動し白ワインと、
昨日帰りに買ったマカロンを並べた。

2人でグラスを傾けながら
ユナショウの動画を見ていた。
晴香のスマホを2人で見ていたので、
自然と接近していた。
 
私にとって全く興味がわかない内容だったが、
晴香が楽しそうに見ているのにつられたのか、
自然と笑顔になった。

そして、動画が5本目に差し掛かったときに、
私は自分のシャツの汗臭さに気づいた。

 
そういえば、スーパーから慌てて走って帰り、
その後、シャワーを浴びる暇がなかった。
晴香に不快な思いをさせてはいけないと思い、
私は言った。
 
拓也「ごめん、何か俺、汗臭いよね。
スーパーから慌てて帰ったから、
シャワーを浴びることできてないんだ。

ちょっとシャワー浴びてくる。
その間、テレビとかつけてもらっていいよ。
レコードとかも構わないから。」

その言葉を聞いた晴香は、
少し躊躇ってから、言葉を発した。
 
晴香「私も実はギリギリまで料理してたから、
まだシャワーを浴びてないの。
あのさぁ、もし嫌じゃなかったら・・・・」

その言葉の後、少し沈黙があった。
そして晴香は言葉を続けた
 
晴香「一緒にシャワー浴びようかぁ?   
勿論、嫌じゃなかったらだよ」

晴香は、これまでは決して
自分から求めることはなかった。
そんな晴香の口から出た言葉に、驚いた。
 
私は一言、「うん」と言って頷いた。
他に言葉が出なかった。
そんな私に、晴香は言葉を続けた。
 
晴香「じゃあ、先に行って。恥ずかしいから、
私、拓也さんが入ってから、入るから。」
晴香は私の顔を見ずに、下を俯いて話した。

その言葉を聞いた私はバスルームに向かった。

(第10話 終わり)次回は6/4(火)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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