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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』6/8(土) 【第13話 求めあう理由】

朝食を食べながらの、会話は弾んだが、結局、
この日は遠出はやめようということになった。
 
お互いに溜まっている家事を片付けていると、
出かけるのが遅くなってしまう可能性が高い。
そうなると出掛ける移動時間がもったいない
という理由だった。

 同じマンションなのだから、家で過ごす方が、
2人だけの時間が増えるという結論だった。
朝食を食べ終わり、一旦、
晴香は自分の部屋に戻っていった。
 
私も家事を片付けることにした。
洗濯機をまわそうとしたら、
上に晴香が忘れた袋があることに気づいた。
中を見ると着替えた下着が入ったままだった。
 
洗濯機をかけようとしていたので、
衝動的に晴香の下着も洗濯機に入れた。
洗濯が終わるまでの間は、掃除機をかけた。

そして、リビングの掃除機をかけているとき、
洗濯が終わった。
 
洗面所に行き、洗濯機から洗濯物を取り出し、
カゴに入れた。
そしてベランダで洗濯物を干していて
ある事に気づき、思わず声に出した。
 
拓也「あれ?? なんで俺は晴香の下着まで、
洗っちゃったんだろう?
うちのベランダに干すのっておかしくないか?

かと言って、今から晴香に電話して
『下着洗っておいたから、持っていく。』
のは、もっとおかしい。どうしよう?」

当然ながら誰からの返事もない。
考えた結果、コインランドリーに行って
乾かすことにした。

適当な紙袋に入れ、コンビニの裏にある
コインランドリーまで小走りで行った。
 
中に、別の客の姿は見えたが時間がないので、
気にしている暇はない。
目についた乾燥機まで走って行った。
晴香の下着を中に放り込んで財布を取り出そう
としていたら、横の客から、声をかけられた。
 
「あれ?拓也も、コインランドリー
来るほど、洗濯物が溜まってたの?」
声のほうを見ると、晴香だった。

晴香は乾燥機の中を覗きこんで、
声を出した「あれ?それ、私の、、」
 
晴香の訝しがる視線を、真正面から受け止め、
私は必死に理由を説明した

それを聞いた晴香が涙を流すほど笑っている。
そして、晴香が口を開いた。
 晴香「下着洗ってくれてありがとう。
あとは一緒に乾かすから、それ、ちょうだい」

晴香に意外な形で下着を返したあと、
乾燥機の時間待ちで、隣のコンビニに行った。

そして2人でイートインスペースで
コーヒーを飲むことにした。
そして他愛もない話題になった。
 
拓也「晴香は、外出、あまり好きじゃないの?
いつも、家で過ごしたがるから」

晴香「そんなことはないけど、
やっぱり病院の仕事ってハードでしょ?
で、私、実はあまり体が強くないの。

だから休みの日に遠出とかして、
翌日の仕事に障るとよくないと思って」
 
天真爛漫という言葉の、
代名詞のような晴香の答えは少し意外だった。
そんな思いから深い考えもなく言葉を返した。

拓也「そうなんだ、、でも、ベッドとかでは、
体力を使ってそうだけど」
それを聞いた晴香は音がなるぐらいの強さで、
私のおでこを叩いた。
晴香「バカ!それ、拓也のせいでしょ?」
 
おでこを叩かれ冷静になり、
なんて事を言ったんだろう?と思った。
ただ晴香がいつもと変わらない
笑顔だったので、後悔するほどでもなかった。
 
正直なところ最初に晴香と身体を重ねた夜は、
その行為自体が目的だったことは間違いない。
それ以降、家に晴香を呼ぶ目的も同じだった
と思っていた。いや、思い込もうとしていた。

しかし、それを繰り返す自分の中に
違和感を、感じ始めていた。

その違和感は「いつも晴香と家で会う」事が、
晴香を欲求の対象としか扱っていないのでは?
という自身への問いかけとなり、
それが本心とのギャップになり、
違和感を感じていたのだと思う。
 
今晴香から聞いた家で過ごす
合理的な理由で、違和感は消えた。
私が求めているのは、
紛れもなく晴香そのものなんだろう。

晴香の心に近づきたい、
晴香の存在を近くで感じたい、
今はその思いを認識できた。

その日の夕食は、2人で、久々に、
あのイタリア料理店に足を運んだ。
にこやかに話す晴香を見ながら思った。

週末の度に、お互いを求めあう理由は、、、、
好きだから、それ以外、思いつかなかった。
 
(第13話 終わり)次回は6/11(火)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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