見出し画像

小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』6/15(土) 【第16話 闇に堕ちる】

その夜はずっと晴香が
私の体の上で、私を制していた。
晴香の身体が幾度となく跳ねる。

互いが何度尽きても、その度に身体を重ね、
舌を絡ませては、再び高みに達する。
 
私の体の上で断続的に体を反らす
晴香の美しさに見とれる一方、
今夜の晴香は、いつもと少し違うと感じた。

一晩地上に舞い降りることを許された妖精が、
残された時間を惜しんで魔法をかけて
まわっているかのようだ。

そんな夜が更け2人の体力が限界に達すると、
晴香は私に身体を預けたまま眠りについた。
 
彼女を起こさないようそっと自分の体を離し、
毛布を2つ取りに行った。

そのうち1つを一糸まとわぬ
彼女の美しい体にそっと被せた。

私は、ソファの下に脱ぎ捨てた服を再び着て、
晴香が眠るソファのすぐ下の床で、
もう一つの毛布をかぶり晴香の寝顔を
見つめながら、眠りについた。
 
翌朝目が覚めると晴香が
昨晩と同じ姿で眠りについたままだ。

少し心配になって晴香の顔に
耳を近づけると、寝息が聞こえた。
呼吸も乱れてないので安心して毛布から出た。
 
この日は土曜だが、私だけが仕事だったので、
晴香を起こさないよう静かに身支度を整えた。

出かけようと思ったがリビングにスマホを
忘れていることに気づいた。
晴香を起こさないようテーブルの上の
スマホを取ろうとした。
 
が、少し手が滑り、スマホが
テーブルにあたる音が鳴ってしまった。
その音により晴香が目を覚ました。

暫く私の顔を見たあと毛布の隙間から中を見て
自分が服を着ていないことを確認した。

慌てて毛布で顔の大部分を隠し
目から上だけを出して、言葉を発した。
晴香「おはよう、もう病院行くの」
私頷くと、晴香はつづけた。

晴香「いってらっしゃい、カギどうしよう?」
私は返した。

拓也「カギ2つあるから、これ持ってて」
そう言ってポケットからカギを出して渡した。
頷いた晴香を見ながら「いってきます」
の声をかけて、家を出た。

 
晴香の余韻と、そしてどこかいつもとは違う
彼女の様子を思い浮かべて病院に向かった。

その日は土曜日で午前しか診察はなかったが、
午後に救急搬送の患者が相次いだ。
城東医大病院は、本来、救急病院ではないが、
緊急であれば、そうは言ってられない。

そんな忙殺された一日が終わり帰宅した。
何故か、晴香が一晩横たわっていた
ソファを、見つめていた。

 
次の週も相変わらず忙しい日が続いた。
今週、晴香と会えるのはいつかな?
と思っていたが晴香は実家に帰らなければ
いけない用事があるということだった。

晴香は木曜日から休みだが、
その日から実家の静岡に帰る予定だ。
何でも、一族の集まりらしい。
 
晴香と会えない週末は、久々のように思えた。
しかし冷静に考えると偶然イタリア料理店で
出会った夜から、まだ1か月半しか
経っていなかった。

 
そんな週に限って土日とも休みだ。
土曜の朝掃除をしていると小棚の上に
クレストムーンクリニックの黒色のカードを、
見つけた。

そういえば、はじめて晴香がこの家に来た時、
コンビニで落としたカードを晴香が拾い、
その流れで、晴香がここに置いたままに
なっていたものだと思う。
 
催眠療法は、一種のセラピーのようなもので、
効くとか効かないという医学的見地の
ものではなく、アロマのような
リラックスするためのものだと思っている。

疲れが溜まっていたある日、病院に出入りする
医療機器メーカーの営業から聞き、
興味本位で行った。それは2か月前だった。
 
クリニック、という言葉からはかけはなれた、
黒を基調とした、薄暗い内装だった。

そして、診察室に現れたのが、
若い女性だった事にも少し驚いた。
小柄なだけでなく童顔だったので
若い女性というより高校生ぐらいに見えた。
 
診察と言ってもただ話を聞くだけだ。
その後、催眠に入る。
薄暗い空間に、違和感を覚えてたと言ったが、
確かに催眠療法であれば、こんな照明の方が、
催眠にかかりやすいかもしれないと思った。
 
それくらい、すぐに催眠にかかった。
その間、何を聞かれたとか、何があったとか、
あまり、覚えてないが、診察を終え、
催眠が醒めると頭と体がフワっとした感覚で、
凄くリラックスしているのがわかった。

医療的な効果を求めないと思えば、
こういった催眠療法も悪くないと思った。

 
今週は、晴香と会えず、することもないので、
このクリニックに再び行ってみようと思った。

カードを見て電話すると、
今からでも大丈夫ということなので、
身支度をして出かけた。
 
催眠療法を終えて帰宅したあと、
前回よりも、フワフワ感を強く感じる。

2回目のほうが、より深くかかる
といった事があるのだろうか?   

と思いながらポケットに入っていた、
クリニックのカードを意図なく、パソコンの
横に置いて、その後、ソファに体を
横たわらせた。そして気づけば、夜だった。
 
催眠療法のせいというより、仕事の忙しさに、
更に晴香と会えない週末というのが重なって、
心の中で張っているものが緩んだというのが、
理由だろうと自分では思った。

 
晴香とは、LINEで連絡は取っているが、
一族の集まりで帰省してるのは知ってるので、
頻繁に連絡はしていない。

それでも毎日の「おはよう」と「おやすみ」
は欠かさなかった。
 
そして、日曜日に晴香からLINEが来て、
親戚の都合でもう一日残るのことになり、
月曜日の夜にしか東京に戻れなくなった、
という連絡があった。

ただ、火曜日から、いつも通り
出勤ということだった。
 
(第16話 終わり)次回は6/18(火)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?