見出し画像

小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』6/6(木) 【第12話 越えた一線】

外から聞こえる、犬の鳴き声で目覚めた。
時計を見ると、7時前だった。
横を見ると、晴香がまだ眠りの中だった。
 
晴香を起こさないよう、慎重に布団から出て、
リビングに移動した。
リビングテーブルには、昨日のワイングラスが
出したままになっていた。
 
昨晩、2人で寝室に向かう時、
晴香が「片付ける」と言ったが、
晴香を一時も離したくない、
という衝動にかられ、
「明日でいいよ、一緒に寝よう」と言った。
 
ワイングラスを洗い終わって、
洗面所に行き、顔を洗った。
そして、服を着替えた。
 
昨日の夜は、これまでとは違った。
行動パターンが違ったということ
だけでなく、心境が明らかに違った。

昨晩、晴香を一時も離したくないと
思った心境は眠りから覚めても変わらない。
なぜか、晴香が目覚めてくるのが
待ち遠しいと思った。
 
冷蔵庫を開け、昨晩だけで使いきれなかった、
ベビーリーフとハーブ野菜の残りを取り出し、
皿に盛った。
その上に、冷蔵庫の中のキューブ状の
クリームチーズを5~6個のせた。
 
ポットに水を入れて、沸騰ボタンを押した後、
これも市販のもので、顆粒スープの素を入れ、
カップに注いだ。

そして食パンを袋から取り出し、
トースターに入れた。

トースターの上にあるミキサーを取り出して、
バナナ2本を、半分に折ったものを入れた。
そして、上に冷凍ブルーベリーをかけた。

牛乳と氷を入れるのは、
晴香が起きてからにしようと思った。
朝食の下準備ができたので
ソファに腰をかけた。
 
ふと、いつ買ったのかわかない、
グルメ雑誌を手に取った。

表紙には大きく中央線の
おすすめカフェ特集と書いてある。
何気なく開き、一軒のカフェを見ていた。
 
そんな事をしてると寝室から物音が聞こえた。
晴香が目覚めたようだ。
しかし、部屋から出て来る気配がないので、
二日酔いかと思い、ドアをノックして開けた。
 
拓也「おはよう。どうした、二日酔い?」
私の声を聞いた晴香は慌てて
布団を被ってから言った。
 
晴香「ごめん、スッピンなの。
なんだけど、、メイクが入ってるバッグを、
リビングに置いたままにしてて、、
取りにいく間、目を瞑っていてくれない?」

私は笑いながら、言った。
 拓也「いいよ、俺が、取ってくるよ。
ここで、待ってて。」
 
そういってソファの端にあった晴香のバッグを
持ってきて、寝室に入ってすぐの所に置いた。

晴香に声をかけ、再びリビングに戻った。
その後、晴香が洗面所で身支度している
音が聞こえた。
 
しばらくして晴香がリビングに来たが、
服装は昨日と同じだった。
着替えまでは持ってきていなかったようだ。

晴香はスッピンを恥ずかしがったが、
身支度を終えた晴香を見ても、
正直、ほとんど変わっていない。
 
この言葉は、男性的には、誉め言葉に近いが、
女性に言うのはタブーという事は知っていた。
だから、口に出さなかったが、昨晩、
ベッドで見たのと変わらない晴香がいた。

私はソファから立ち上がり、晴香に言った。
 拓也「朝ごはん、食べれそう?
大したものじゃないけど作るから。」

晴香は笑顔で「ありがとう」と言って頷いた。
そして私は冷蔵庫から牛乳を取り出しながら、
晴香に尋ねた。

拓也「ブルーベリースムージー飲む?」 
晴香は、笑顔で頷いた。
 
準備してあったミキサーに氷と、
牛乳を足してスイッチを押した。
攪拌されたのを確かめてから
スイッチを止め、グラスに注いだ。

そのうち、一つを晴香に手渡した
晴香は一口飲んで、「おいしい」と言った。

その感想を確かめた後、自分のグラスは置き、
コンロにフライパンを乗せ、火をかけた。
卵を4つ取り出し、ボウルで攪拌した。
 
フライパンが温まってきたのを確認してから、
卵を入れかき混ぜスクランブルエッグを作った

それを皿に移すときに、
トースターの食パンを思い出し、焼き始めた。
パンが焼けるまでの間にサラダと
お湯を注いだスープをテーブルに運んだ。
 
普段、食事するのはダイニングテーブルだが、
この日はなぜか、ソファで食べたいと思った。

できるだけ晴香の近くに居たいという思いを、
否定できないことに、とうに気づいていた。
朝食を食べる晴香に向かって言った。
 
拓也「ねえ晴香、今日どこか行きたい所とか、
やりたいことない?」晴香は返した。
 
晴香「拓也、明日からまた忙しいんだから、
今日はゆっくりしたほうがいいんじゃない?
それに、オバちゃんと一日、一緒に過ごすと、
気疲れしちゃうでしょ?」
少しおどけた感じで言った晴香に返した。
 
拓也「晴香と、一緒に居たいんだ。
勿論晴香が迷惑じゃなければだけど・・・」

それを聞いた晴香は私の顔を見つめている。
何故か、急に恥ずかしくなった私は、
ソファにあった先ほど見た
グルメ雑誌を開き、見せながら言った。
 
拓也「あ、さっき見てたんだけど、
このカフェ良さそうじゃない?
ここ行ってみない?」
晴香は微笑んで、頷いた。
 
恋人のようなやり取りをする2人は、
とうに、男女の一線は越えていた。
そしてその2人が、今、
心の一線も越えた気がした。

「晴香が愛おしい」
その気持ちは否定しがたいものになっていた。

(第12話 終わり)次回は6/8(土)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?