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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』5/18(土)【第4話 熱い吐息】

自宅に招き入れた晴香に、ダイニングでなく、
リビングソファを勧めた。
オーディオセットの音が、よく聞こえる
という理由で勧めた。

晴香のコートを受け取り、ハンガーにかけた。
そしてレコード盤を開き、
ジャズのレコードをのせると、晴香は尋ねた。

晴香「自宅に、レコード盤をお持ちだなんて、
格好いい、ご趣味ですね。
辻本先生は音楽お好きなんですか?」

拓也「いや、はっきり言って、
音楽のことは、全然わからないです。
でも音響機器は好きで、特にレコードは、
音もフォルムも好きなんです。

このカウントベーシーという
アーティストも、実はよく知らないんです。
ただ、このレコード盤で聴くのに、
一番いいと思ってます。」
晴香が間髪入れずに返した。

晴香「先生の意外な一面、かっこいいですよ。
辻本先生はイケメンで仕事もできるけど、
実は怖いイメージがあるみたい。

でも先生にこんな一面があることを知ったら、
若い子はイチコロですよ」と笑いながら言った

私は、キッチンに行くために振り返り、
晴香に背を向けながら言った。

拓也「若い子だけですか?」
晴香からの返事を期待してなかったし、
そして返事もなかった。

 
キッチンの引き出しをあけ、
ドライフルーツのセットを取り出した。
そして食器棚から適当な木製の皿を
取り出し、それを盛り付けた。

それだけだと何となく見栄えが
悪かったので、オリーブも盛り付けた。

晴香はソファに座り、
袋からチューハイを取り出してくれていた。
私はグラスを2つ持ってきて、それを注いだ。
幾度めかの乾杯をした後も、会話は弾んだ。

途中から、仕事ではなく、
互いの恋愛の話題に移っていった。
とは言え、互いが何を言ったか
記憶にない程、取り留めない内容だった。
その時晴香がふいに言った。


晴香「私、飲み過ぎたかな。
なんか、ちょっと熱くなってきた」
そう言って、シャツの胸元を
数回仰ぐように、動かした

その言葉と素振りが、心にかかる
理性の鍵を、外すのがわかった。

そして、それが合図だっかのように
自分の体を、晴香の体に寄せた。
晴香は、明らかに驚いていたが、
私は構わず、顔を近づけて言った。

拓也「晴香さんは、もしかして、
自分の魅力に気づいてないんですか?
そんな事を言われたら
もっと温もりを感じたくなるじゃないです。
男だったなら、、、」

この言葉が本心ではないと断言はできない。
ただ限りなく、男性としての
刹那的な感情だと自覚している。

そして刹那的な感情を起こすのは
間違いなく、私の中の男の部分だろう。

目を逸らした晴香の視線の先に、回りこんだ。
そして、更に身体を密着させて、
晴香の耳元で言った。

拓也「晴香さんいいですよね?
今晩は、あなたの温もりを感じても?」

答えが戻ってくる前に、
私は晴香の体をそっとソファに押し倒した。
そして、彼女の目を凝視した状態で止まった。

見つめ合ったままの状況が10秒ほど
続いた後、晴香は私を見つめ、頷いた。
それを確かめると同時に、
自分の唇を、晴香の唇に重ねた。

その後、唇を晴香の唇から
耳元に移動させて、息をかけた。
すると晴香の口からは
言葉にはならない吐息が漏れた。
そして、何とか吐息を押し殺し言葉を発した。

晴香「お願い、電気は消してもらえますか?」

私は言われるまま電気を消すために
立ち上がりスイッチを押した。
廊下の照明はついたままなので、
真っ暗になることはなかった。

私は身に着けているシャツを脱ぎ捨てながら
ソファに再び歩み寄った。
そして横たわる晴香に覆い被さり、
再び晴香に口づけをした。

その後しばらく部屋の中には、
2人の熱気と、晴香の声が響き渡った。

私はもしかしたら晴香が、
こういう行為自体がはじめてかもしれない、
と思っていたが、彼女は身を託すだけでなく、
私の望みにも応えていた。

時には、横たわる私を見下ろし、
自らの身体を躍動させていた。

それが、なおのこと、私の感情を高めた。
途中、ソファからベッドに移動し、
その後も、幾度にわたり求めあった。

反比例する欲求と体力の曲線が限界に達した。
そのあと、2人は手をつなぎベッドで眠った。
 
私は正直に言うと、“事”が終わると、
1人になりたいと思ってしまう。
それを口に出すか、出さないかだけの違いで、
世の男は皆、同じはずだ。

今晩も、例に漏れず、そう思っているはずだ。
一方で、横に居る晴香に対して
安心感を感じる自分も居る。

それは、どんな心理状態なのか?
その思考に入り込む前に、
体力が限界を迎え、深い眠りについていた。


目覚まし時計のアラームにより
意識が戻ると、朝になっていた。
私は普段、スマホのアラームを使うのだが、
今朝は時計のアラームが鳴った。

それを設定したのは晴香だと思われる。
設定時刻は遅刻しないギリギリの
6時30分に、設定されていた。
少しでも睡眠時間をとれるような
配慮だったのかもしれないと思った。

ふと、ベッドの横を見ると、晴香の姿はない。
正確に言うと、ベッドには、
ほのかな温もりが残されていた。
そしてリビングの皿や缶は片付けられていた。

時計のアラーム音を消しながら、
私には2つの感情が渦巻いていた。

もっと、彼女を感じていたい、という感情。
このことが、病院にバレたら?という感情。
異なる2つの感情なのだが、
どちらかというと、後者が勝ってる気がする。

昨晩、コンビニで買ったパンをかじりながら、
拓也は家を出た。

(第4話 終わり)次回は5/21(火)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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