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小説『闇に堕ちにて、空に溶けゆく』6/20(木) 【第18話 熱い接吻】

家に帰ると、既に部屋の明かりがついていた。
晴香が来ているようだ。

ドアが開く音を聞いて、晴香がリビングから、
玄関に小走りで来た。

そしていつもと変わらぬ明るい声で、
「おかえりなさい。大したものじゃないけど、
ご飯作ってるから着替えて」と迎えてくれた。
 
この場面だけ切り抜けば昨日までと
変わらない幸せな日常だ。

着替えが終わりリビングに行くと晴香は
キッチンに立っていた。エプロン姿が似合う。

晴香「ごめん、ご飯もうちょっとかかるかも?
先にシャワー浴びてきたら?」それに返した。

拓也「そうだな、そうしようかなぁ。
晴香は、シャワー浴びた?」
 
その問いに今日は早めに仕事から帰ったから、
家で浴びてきたと答えた。
その答えを聞いて頷きバスルームに行った。

そして晴香を待たせないよう急いで、
シャワーを浴び、リビングに戻った。
 
夕食が出来上がっていた。
ソファに座ってた晴香が私に気づき言った。

晴香「ビールにする?」私が頷くと、晴香は、
「私も、もらっていい?」と聞いてきた。
勿論と答えビール2本を持って来た。
 
そして、乾杯をして食事を始めた。
こういった仕事をしているとこういう時に
無理に違う話をして誤魔化したり、
あるいは過剰に反応したりしない。

それが良い事なのかはわからないが。
私は聞いた。
 
拓也「晴香、6年前に発症って言ってたけど、
ずっと治療してたんだ?」
その問いに、やはり医療関係者である晴香も、
落ち着いて答える。
 
晴香「うん、そうなの。慢性の白血病だから、
投薬治療だけなんだけどね。
たしかイマニチブって薬だったかな?

それで、つい最近まで、
ほとんど症状が進んでなかったんだけど、
3か月前の検査で、少し数値が悪くなってた。

確かにその頃は、前よりも疲れやすい、
とは思ってたんだけど」私は聞いた。
 
拓也「どこの病院?」
晴香「武蔵野病院。最初はうちの病院の内科で
診てもらったけど、うち血液内科ないから。
高木先生に、その病院を紹介してもらったの」 
私は、次の質問をした。
 
拓也「武蔵野病院だと、治療は難しいの?」 
晴香「必ずしもそうでもないけど、ある程度、
治療に専念することになるなら、
当然仕事を辞めざるを得なくなってしまう。

そうなれば経済的なことを考えても、
東京で暮らすのはキツイと思ったの。

あとはたまたまだけど、うちの実家の近くの
静岡病院って血液内科がトップクラスらしい。
で両親も心配して、だったら、戻ってこい、
ってことになったの」
 
晴香の答えを聞き、2つの事が頭に浮かんだ。
そのうち、2つ目は、後で言うことにしたが、
もう1つのことについて、発言した。
 
拓也「静岡病院かあ」
晴香「知ってるの?   やっぱり有名なんだ
小さい頃から、家の近くにあったから、
そんな有名な病院だって思ってもなかった」
 
その後あまり直接的に、病気のことばかりを
聞くのも良くないと思った。
とは言え急に、関係のない話をするのも、
明らかに不自然なので今後の予定を聞いた。
 
あと2週間の間に引継ぎをしたり、
引っ越しの準備をするということだ。
その合間、今週末も金曜に実家に帰り、
静岡病院で検査と診察を受けるということだ。

その検査結果によってもしかしたら、
静岡に引っ越してすぐに、
入院するかもしれないということだ。
 
ただ、土曜の夜には、東京に戻ってくるから、
会えるはずだったが、生憎、私も今週は、
学会のため土日には宮城に出張だと伝えた。

晴香は残念そうにしてたが、学会なら、
仕方ないねと優しい笑顔で言った。
なんだかめぐり合わせが悪いなと思ったが、
それは口に出さなかった。
 
食事が終え、2人でリビングのソファに座り、
お酒を飲みながら話をした。その時に先程、
頭をよぎった、もう一つのことを口にした。
 
拓也「晴香さあ、仕事辞めたら、
東京暮らしが経済的にキツイって言ったけど、
ここで一緒に暮らせば、家賃かからないし、
それに今の俺の給料でも、
2人分の生活費は問題ない。
東京に残ってここで一緒に暮らさないか?」 
 
私の申し出が、晴香が考え得た範囲内なのか、
そうでないか、わらかないのだが、
あまり間を置かず晴香が言った。
 
晴香「お!突然のプロポーズですか、それ?」
と茶化し、私の反応を楽しんでから続けた。

晴香「ごめん、ついつい茶化しちゃったけど、
凄くうれしい。ありがとう。でもねこの先、
病気が進んだら入院とかもあるだろうし。
そうなると、多分拓也に負担かけちゃうから、
それは、できない。」
 
晴香らしい答えだと思った。
その後、帰りに三日月を見ながら、
晴香に言おうと決めたことを続けた。
 
拓也「晴香に言えてなかったことがある。
今日は、それを言うべきだと思って。
今さら、な感じはするかもしれないけど、、、
晴香、愛している。俺と付き合って下さい」
 
この言葉は晴香にとって完全に想定外で、
頭の中が整理できてなさそうだ。私は続けた。

 拓也「ちゃんと言えてない、と思って。
言葉は悪いけどズルズル来た感があるから、
ケジメとして改めて恋人になってほしい。」
晴香の顔に笑顔が戻った、そして口を開いた。
 
晴香「こちらこそお願いします」そう言って、
私の手を握った。
そして笑いながら、言葉を続けた。

晴香「っていうかさぁ、じゃあ、今までは、、
愛人だったのかな、私??
あ、でもお互い独身だから愛人じゃないか?」

そんな言葉で茶化していた晴香の肩を掴んだ。
 それでも晴香は、まだ茶化そうとしているが、
そうさせないためにもじっと見つめた。

晴香が真面目な表情になっているのを見て、
私は再び口を開いた。
 
拓也「晴香、愛している。俺にとって、晴香は
誰より大切な人だ。晴香は?」
晴香は少し頷きゆっくりと言った。

晴香「私も拓也のこと、誰よりも愛している」
 
その言葉が放たれた後、私は晴香を
抱き寄せ、口づけをした。
そして唇を離した後、言った。
 
拓也「これからも、よろしくお願いします。」
晴香は頷いた。その後再び笑いながら言った。

晴香「でも、やっぱり順番おかしいよね。
まあ幸せだからいいけど」

部屋は暫く笑いに包まれた。
 
(第18話 終わり)次回は6/22(土)投稿予定

★過去の投稿は、こちらのリンクから↓
https://note.com/cofc/n/n50223731fda0

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