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麻雀のスタイル分析【成績への影響編】

こんにちは、天鳳位の小江戸緑です。

前回の記事では、ネット麻雀における麻雀のスタイルは
副露攻撃型
副露守備型
門前守備型
門前攻撃型
の4つに分類できることを示し、実際に天鳳のトッププレイヤーについてスタイルを分類・図示しました。

今回はその考察編として、それぞれのスタイルが、安定段位をはじめとする成績や局収支などの重要指標にどのように影響しているのかを調べます。

有料記事としていますが、全文無料で読めます。面白ければスキや記事のご購入をお願いします。


スタイル分類についてのまとめ

まずは、前回の記事の結果を簡単にまとめます。

天鳳・鳳凰卓東南戦を2000戦以上プレイした上で、安定段位が8.5以上のトッププレイヤー64名について、11項目のスタッツの数値データを二次元に投影しました。
スタッツの矢印の先にプロットされるプレイヤーほど、そのスタッツの数値が大きい傾向にあることを意味します。

主成分分析の結果を図示

横軸は主に「副露率と打点」の情報を要約しており、縦軸は主に「攻撃型か守備型か」の情報を要約していると考えれます。

結局、麻雀のスタイルは以下の4タイプに分類できると考えられます。

図の左上:副露攻撃型
アガリ率が最も高い全局参加タイプ

図の左下:副露守備型
アガリ巡目が最も早く、平均打点が最も小さい、早期決着の躱し手多用タイプ

図の右下:門前守備型
副露率・アガリ率・放銃率が最も小さい地蔵タイプ

図の右上:門前攻撃型
門前で価値ある手を作ってぶつけてくるファイタータイプ


さて、これらのスタイルを分類するに当たっては、アガリ率や放銃率といった基礎的なスタッツのみを用いており、成績のほか、局収支や和銃差といった複合的なスタッツは使用していません。

では今回分類された各スタイルは、成績(安定段位・トップ率・ラス率)やより複合的なスタッツ(局収支・和銃差・調整打点効率)にどのような影響をもたらしているかを、以下で考察します。




スタイルは成績にどのように影響するか?


以下では、ざっくり「図の右左・上下の位置で、目的変数(安定段位など)の数値が有意に変わるか」を調べました。

もう少し専門的には、目的変数$${y}$$ (たとえば安定段位や局収支)に対して、主成分得点1($${x_1}$$ = 横軸の値)と主成分得点2($${x_2}$$ = 縦軸の値)を説明変数とした一次の線形回帰を行いました。つまり、

$${y = \alpha + \beta1 * x_1 + \beta2 * x_2}$$

上記の式で回帰を行い、この$${\beta1}$$と$${\beta2}$$の大きさを調べました。
もしも$${\beta1}$$が有意にゼロよりと異なれば、$${x_1}$$、すなわち「副露型・門前型スタイル」は、目的変数$${y}$$(安定段位など)に対して有意に影響がある、という結論を導くことができます。


安定段位に対する影響

$${\alpha, \beta1, \beta2}$$の推定値とその95%区間についての結果を示します。

安定段位に対する横軸(β1)・縦軸(β2)の影響

$${\alpha}$$は切片項と呼び、この場合では全体平均のような意味です。
今回注目したいのは$${\beta1}$$と$${\beta2}$$です。ともに推定値は負の値を示しましたが、推定値の95%信頼区間はゼロを跨いでおり、p値は有意(< 0.05)ではありません。したがって、$${\beta1}$$と$${\beta2}$$はともに「有意にゼロと異なる」とは言えません。
これは、横軸・縦軸の値は安定段位に有意な影響を及ぼしていないことを示唆します。
$${\beta1}$$と$${\beta2}$$がともに負の値を示していることは、図の左下ほど安定段位が高い傾向があることを示しますが、統計的に有意な差はありませんでした。

つまり、「ネット麻雀を攻略するにあたっては、どのスタイルでも問題ない」可能性が高いということです。
少なくとも中級者までは、自分のやりやすいスタイルや、憧れのプレイヤーのスタイルを参考にすると良いでしょう。


トップ率・ラス率に対する影響

結果は以下になりました。

トップ率に対する横軸(β1)・縦軸(β2)の影響
ラス率に対する横軸(β1)・縦軸(β2)の影響

トップ率・ラス率ともに、横軸は有意な影響がない一方で、縦軸は有意に正の影響がありました。

すなわち、
・「図の上側(攻撃型)ほど、トップ率もラス率も高くなる
・「図の下側(守備型)ほど、トップ率もラス率も低くなる
傾向があることが分かりました。

攻撃型≒トップラス型守備型≒ラス回避と言い換えることができるかもしれません。


平均着順に対する影響

結果は以下になりました。

平均着順に対する影響

横軸は有意に正の影響がある一方で、縦軸は有意に負の影響がありました。

すなわち、
図の左上(副露攻撃型)ほど平均着順が小さく、図の右下(門前守備型)ほど平均着順が大きい
傾向があることが分かりました。

「平均着順が小さい」というのは、要は優れているということです。
とはいえ、ネット麻雀において重要な成績は平均着順ではなく安定段位であり、その安定段位は図の位置によって影響はなかった点は再度指摘をしておきたいです。
つまり、図の左上(副露攻撃型)ほど平均着順が良くなるスタイル、図の右下(門前守備型)ほど平均着順が悪くなるスタイル(というと依然として言い方が悪い気もしますが…)ということですね。
実は、今回結果は割愛しますが、図の右下(門前守備型)は3着率がもっとも高い領域でした。この結果が平均着順の悪化につながっていると考えられます。


局収支に対する影響

結果は以下になりました。

局収支に対する影響

横軸は有意な影響がない一方で、縦軸は有意に正の影響がありました。

すなわち、
・「図の上側(攻撃型)ほど局収支が高い」
・「図の下側(守備型)ほど局収支が低い

傾向があることが分かりました。

これまでの結果と合わせると、
攻撃型ほど局収支で殴っていくトップラス麻雀を、守備型ほど局収支が低くなることがあってもラス回避を優先しがちということになります。
局収支とポイント効率は異なると言われることがありますが、図の下側ほどその乖離が大きい選択を取ることが多そうです。


和銃差に対する影響

結果は以下になりました。

和銃差に対する影響

横軸・縦軸ともに有意な負の影響がありました。

すなわち、
・「図の左下(副露守備型)ほど和銃差が高い
・「図の右上(門前攻撃型)ほど和銃差が低い
傾向があることが分かりました。

和銃差が高い副露守備型は、なるべく安全に多くのアガリを取るプレイスタイルであり、「他家のアガリを蹴る」頻度が高い可能性が考えられます。


調整打点効率に対する影響

調整打点効率とは、和銃差に打点の要素を加味した指標として定義しました。すなわち、以下のように求められます。

調整打点効率 = アガリ率 × アガリ打点 - 放銃率 × 放銃打点

結果は以下になりました。

調整打点効率に対する影響

縦軸は有意な影響がない一方で、横軸は有意に正の影響がありました。

すなわち、
・「図の右側(門前型)ほど調整打点効率が大きい
・「図の左側(副露型)ほど調整打点効率が小さい
傾向があることが分かりました。

和銃差は副露型の方が高いという先ほどの結果に対して、調整打点効率は門前型の方が高いという結果になりました。

調整打点効率は大きい方が良いんだよね?」と思うかもしれません。
この質問は基本的にはYesですが、本解析の文脈ではNoとも言えます。

Yesの理由は、当然、基本的に調整打点効率が大きい方が麻雀が強いからです。
しかし本解析のように、強者に限定した「麻雀のスタイル」の観点からはNoとも言えます。
なぜならば、調整打点効率は局収支を構成する一つの指標に過ぎないからです。局収支は、リーチ棒損失などを除けば、簡単には以下により求められます。

局収支 = 調整打点効率 - 被ツモ時の失点 + 流局時得点

実は、調整打点効率が優れている門前型は、流局時得点が低い傾向があります(スタイル分類図で「流局平得」の矢印が左方向に伸びていることからも分かります)。
また、和銃差が優れていたのは図の左側(副露型)でした。副露型は他家の手を蹴る頻度が多くなるので、被ツモ時の失点が少なく抑えられると考えられ、反対に調整打点効率に優れる門前型は被ツモ失点が相対的に大きくなるでしょう。
実際に、「局収支」は副露型と門前型で有意な差はありませんでした。

したがって、局収支を高める戦略として、和銃差を高める副露方針を採用するか、調整打点効率を高める門前方針を採用するかは、これもまたプレイヤーのスタイルに依るということになります。
(ただしこれは超トップ層の話であり、基本的には麻雀が強いプレイヤーは和銃差も調整打点効率も高いです。普通のプレイヤーはどちらも高める方針で頑張りましょう。)




まとめ


攻撃型は局収支が大きいトップラス
傾向にあり、守備型はラス回避の傾向がありました。
また平均着順は、アガリ率がもっとも高い全局参加型の副露攻撃型で小さく、アガリ率が最も低い地蔵型である門前守備型で大きくなりました。

副露型(特に副露守備型)は和銃差が大きい一方、門前型は調整打点効率が大きい傾向がありました。
副露型は、流局時に聴牌料を稼ぎやすいことや、自らのアガリで他家の手を蹴ることから被ツモ失点を防いでいると考えられました。
実際に、門前型と副露型で局収支に大きな差はありませんでした。

結果的に、4つのスタイルでネット麻雀の成績は同程度に収まったのは興味深い発見でした。


自身がどのプレイスタイルに該当しそうか、どのスタイルのプレイヤーを参考にしたいか、といったことを考えるのも楽しいかもしれません。

本記事が読者の麻雀に対する理解を深める一助となれば幸いです。

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引き続きよろしくお願いいたします。

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