修学旅行事件簿 ~一般編~

はじめに

GWも終わり、早くも修学旅行シーズンの幕開けとなった。
いや、遅くも、と言うべきだろうか。実に3年ぶりの本格シーズンだ。
最近は1年生の冬や2年生の春という高校も多いらしい。
私は高校の修学旅行は秋の台湾だったが、もう10年近く前のことだ。

今回は、その修学旅行での貴重な経験を紹介しよう。
事前準備や"映え"関連などは割愛する。

事件前夜


「全日程を通じ、飲食は原則禁止」

修学旅行の直前に開かれた学年集会。開口一番、学年主任が言い放った。
信じられるだろうか? 学校生活で最大の華たる修学旅行だ。
飲食禁止などどういうことだ。

ひょっとして行先が台湾だというのは我々生徒の思い込みで、本当はタイで修行僧の体験でもするのだろうか?
否、台湾で全日程飲食禁止である。なお、3泊4日の予定である。

断っておくが、私は公立の学校にしか通ったことがない。
これは県立高校の修学旅行である。

今から振り返ってみるとこれは確かに当然の言いつけである。
日本とは衛生のレベルが全く異なるからだ。
台湾や諸外国を悪く言うつもりはない。日本があまりにも清潔すぎるのだ。もちろん、断食せよというものではない。
教師陣と現地ガイドが練りに練った計画の中で、生徒は食事を与えられる。
その食事と、各生徒が日本から持参した非常食以外摂食禁止というわけだ。

その言いつけを胸に、我々はLCC(PEACHだったと思う)で台湾へ飛んだ。そして訪れたのが国立故宮博物院。……とその他もろもろ。

正直、細かくは覚えていない。第一の事件が起きたのは、何かの資料館を見学した後だった。

事件発生

修学旅行で資料館の見学が終わったとなると、生徒がやることは1つだ。
古今東西、土産物の物色と相場は決まっている。

基本的に旅行は貸切観光バスでの移動だ。バスが来るまでに時間があった。
そして秋とはいえ台湾は蒸し暑い。屋内の冷房に当たりたい。

生徒は土産物屋……のように見える出口付近の建屋に殺到した。
私は流れに任せてとりあえずその土産物屋を覗いたが、すぐに出てきた。
第一に、冷房が強すぎたのだ(私は暑がりだが強い冷房も苦手である)。
同じく冷房が苦手な同級生の女子と2人で外のベンチに座って、駄弁りながら資料館の冷房で冷えた身体に暖気を取り込むのを優先した。
蛇足ながら、この修学旅行で最も楽しいひと時だったかもしれない。

その土産物屋に長居しなかった第二の理由、それは

そこは土産物屋ではなく、アイス屋だったからだ。

アイス屋、というとサーティーワンを思い浮かべるかもしれない。
しかし、そんなご立派なものではない。
明らかに日本人観光客向けの、日本企業製の大量生産氷菓の販売店だった。

コンビニのアイスコーナーにドリンク販売が付いただけの簡素な店舗だ。

ここで振り返ろう。この修学旅行において、飲食は?
そう、原則禁止である。

私は真面目で堅い生徒だったので、「これは買うものがない」と判断した。
さらに「食べ物買ったらダメやろうが」と人混みに声をかけた。
ここまで大したトラブルもなく進行していたのだから、食い止めたかった。
なお、私は生徒会長でも何でもない、ただの一般生徒である。

しかし、無駄だった。
15℃の資料館から28℃・湿度100%の環境に放り出された高校生。
ショーケースの見慣れたアイス。現地の食べ物の範疇外では、という期待。手元には充分な外貨。初めて見るお金を使いたいという欲求
人混みのあまり、購入している様子は教師に見つかりづらい
集団に蔓延る罪悪感がどんどん薄らいでいったのを覚えている。

「ハイ、ゴジュチョウド。アリガトウゴザイマシタ」

そこからは集団真理の暴力である。
次から次へとレジに並ぶ制服の列。
その手には、強く禁止されていたはずの鮮やかで冷たいパッケージ。
止められない。そればかりか、私自身も呑まれてしまう。
それで、逃げるように退店したのである。

そして観光バスが到着し、所定の座席について出発した瞬間――
「お前ら、何やっとんの」
静かで低く、バスの最後列まで通る鋭い担任の声。

曰く、出発前から何度も言いつけたルールを守らない遵法意識の低さ。
曰く、体調不良者が出る可能性を考慮しない危機意識の甘さ。
曰く、安全を最大限に考慮した現地ガイドの配慮を踏みにじる行為である。
曰く、最初に買った生徒も流されて買った生徒も買わなかった生徒も同罪。
曰く、止めようとして止められなかった生徒も同罪(担任と目が合った)。

不条理だ。最後のは特に不条理極まりない。だが反論はできない。
もっと大きな声で叫んでいれば。最初にレジに並んだ誰かを止めていれば。
土産物屋が見えた時点でせめてクラス全体にルールを再確認していれば。

だが後悔先に立たず。そもそも一般生徒が何かを言っても集団は従わない。

生徒会長になっていれば?当時の私は部活を2個かけもちしつつ片方は部長を務め、そのうえ学業では学年のトップレベルでしのぎを削っていた。
そんな時間はあるはずもない。

愚かな集団真理が悪いほうに働けば、真面目な生徒が不利益を被るのだ。
実際、他クラスのバスでは女子生徒がアイスで腹を下し、あわや危機一髪となっていたらしい。幸運にも私のクラスではそのようなことは起きなかったが、この移動時間の空気は最悪であった。

まとめ

高校生がこのnoteを読んでいるとは到底思えないし、高校生だったらこんな駄文よりも教科書や新書を読んでいた方がよっぽど有意義だ。
しかしここで敢えて言っておこう。
「先生の言いつけは絶対に守れ! できればその理由も考えろ!」

※衛生状態に問題がなくても、海外修学旅行という高ストレス下で冷房環境と高温多湿環境を反復横跳びしながら内臓を冷やすのは明らかに良くない。遠出をしたときはなるべく温かいものを食べよう。

よい修学旅行を。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?