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【対談】デジタルハリウッド大学院 事務局長 池谷和浩 × 株式会社ダラフ代表 斉脇一志

デジタルでクリエイティブな世界をゼロから作っていく

斉脇:そもそものデジハリの取り組みについて聞きたいなと思って。大学発ベンチャー創出数2位っていうのが出てくるじゃないですか。
http://gs.dhw.ac.jp/news/160415.html

池谷:平成27年度の経産省の調査で全国11位ですね。私立大学では2位。

斉脇:その辺りっていうのは、意識してるんですか?

池谷:学校を挙げて起業家を増やす目標を掲げたりとか、起業を強く促すようなことは一切してないんです。ただ、自己実現の手段だったり、自分の作りたいモノを開発しようとしている過程で起業を選択する方が毎年現れる、ということです。本学が重視しているゴールは、アイデアの実装であり、それによる産業発展への貢献です。
MBAが経営管理などビジネスそのものを研究対象にしているのに対して、本学は自分がやりたいことを形にするのに、ビジネスという手法を使うと良いですねということで。ビジネスなら、人は自分のやりたいことを継続していける。ユーザーからお金を貰って、来期に回して投資して、ちょっとずつ大きくして、仲間を増やしてということができるから、じゃあ実装したいアイデアがあるならビジネスを勉強しましょうという流れなんです。
ビジネスとクリエイティブとICTを組み合わせて、何かモヤモヤしている自分のアイデアを実装させるということをひたすら支援をしていた結果としてそうなっています。その過程で、リーダーとして目覚めていく方は多い。

斉脇:僕の外から見ているイメージとしては、他にあるビジネススクールと比較すると、あちらの方がマネージャーより上の経営者の方たちが、ハーバードのビジネススクールみたいな形でノリをやっているのかなという気がしているのに対して、こちらは比較的クリエイティブに寄っているという印象ですね。

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池谷:MBAって経営の参謀を育てるんですよね。Master of Business Administrationって経営管理の分野だから、マスターしたからといって新しいものが生まれるわけではない。本学は、デジタルでクリエイティブな世界をゼロから作っていくつもりで、新しいものを創造しようという志向が強い。だからMBAを取得してからデジタルハリウッド大学院に入学される方って一定数居るんですよ。それは「わたしは“できる”人にはなれたかもしれないけど、まだ何も“していない”」ということですね。“できる人”じゃなくて、“やる人”になろうというのが、私たちが重視するポリシーです。

斉脇:もう一個比較対象として聞きたいのが、最近インキュベーション系がたくさんあるわけじゃないですか。そちらがスクールに向かっていることについてはどのようなご意見でしょうか。

池谷:いくつもの可能性に投資して、会社というか株式を育てていくファンド型のアプローチと、一人ずつの自己実現が一歩でも確実に進むよう手を尽くす学校型のアプローチの違いに過ぎないのかもしれませんが、スクール形式をとる以上はどんなメッセージが社会に送られているか、よく考える必要があります。本学の場合は、「まず他人が触れるなにか役に立つもの(サービス、プロダクト)を作ろうよ、人に届けられるものを作ろうよ」から始まります。それを成功させるための起業の手引、ファイナンスの指導です。
ということで、事業計画だけではなく必ずデモンストレーションがあるので、本学の修了生にはベンチャーキャピタルからよく声がかかる。出資の検討がしやすいので当然です。デジタルハリウッドのグループでもインキュベーション事業があるので、起業そのものの支援が必要な場合は、その部門の専門家が担当します。

斉脇:ボトムから行くか、トップレベルをあげるかの違いというのがありますよね。今聞いていて僕が思ったのは、一応最近のインキュベーション系は「アイディア持ってきてね」がルールになっていると思うんですよ。つまり、誰々向けの何を作りますというのを持ってきてねというのがルールで、それに対してインキュベーションのプログラムの中でフィードバックをして、全然違うものになるケースもあるしそれが発展するケースもある。
僕が見ている最近のインキュベーション系はおそらく東京でもサンフランシスコでも比較的近くにはなっているのかなという気がしますね。デジハリは当然中にいる2年間で、何やるのか含めて形にするところですよね。

池谷:もちろんです。入試のプレゼンの時点では何をしたいのか、というのは問いますね。そのプランの実現性が高ければ、授業料を減免するなどの奨学金が出たりします。特に社会人の場合は自分の専門を持った状態で、たとえば今年度の入学者ですとテレビ局の方、医師、政治家、大手広告代理店のクリエイティブ・プランナーとか。そういう自分の専門がある人がまだ開けていない扉はたくさんあるということを分かっていて、多様な科目による新しい出会いがあったりするわけなんですよね。第一線の実務家教員の方々と出会って、まだ開けていない扉を開けていきましょうと。そして、縦軸として、2年間の最後の修了要件で新規事業プランとデモコンテンツをアウトプットするからここまでに形にしようと。だからスタート地点から2年間の変化率や到達度は高いです。
たとえば昨年ハードウェアのスタートアップが生まれました。。代表をしている方は、入学した時点でスマホゲームのイラストレーターでした。自分は絵を描くのが大好きで絵を描くことに集中したいがためにいろんなことをやっていて、絵を描くビジネスをしたかったんです。そこから、世界中のクリエイターは絵を描くのが好きなのに、なぜか利き腕以外の様々なデバイスの扱いに悩まされているという問題に注目して。イラストレーターの仕事に革命を起こすハードウェアのスタートアップを立ち上げたんですよ。これは本人も想像していなかった起業ですが、彼のイラストレーションの仕事をより良くしたいという思いは本質的に変わっていないので、客観的には機会に導かれて目覚めていったように見えます。

斉脇:そう考えるとデジハリ大学院という存在ってかなり贅沢ですよね。2年間という時間と大学院という存在がそれを実現できているというか。普通のMBAだったり、ベンチャーキャピタルだったりにはそれができない。企業も少し前まではMBAに盛んに行かせてましたけど、そこら辺の状況ってどうなんですかね。

池谷:実は企業派遣で毎年デジハリに社員を送り込んでくださる企業様があるんですけど、そちらが僕たちをどう見ているかということが非常に象徴的です。デジタルハリウッド大学院を学校というよりは、、新規事業開発の装置のように見て、活用いただいています。
本学は修了の要件が新規事業プランとデモコンテンツを修了することなので、自社の課題や戦略を初めに要件として設定して送り込んでいただけます。修了すると、新規事業の担当として、それをじっさいに自社で始めることができるのです。

プロトタイピング道場はエンジニアの世界からのメッセージ

斉脇:今回プロトタイピング道場を入れ込んでもらって、これアリだなみたいなポイントはどの辺りだったのか聞きたいなと。

池谷:まずどの状態になったら正しく発注できるのかが明確にわかったということですね。プロトタイピング道場を見ていて、正しくモックを作るためには、発注先から正しい質問を受けなければいけないんですよね。この道場のすごいところは正しい質問を受けられる、というところだと思います。かつ段階が分かれていて、考える時間があって、それをエンジニアが教えているということですね。「こう発注してくれれば、おれたち正しいもの出してあげられるのに」というエンジニアの世界からのメッセージが聞こえてくるわけです。そこが私たち教務側にとっては新しかった。
開発において質問って必ずイレギュラーが来るわけじゃないですか。これに答えられないと次のこの質問が来ないっていうのが実際はあるわけで。やっぱり自分のやりたいことか新規事業の形がクリアになっていかないと最後までいけない感じとか、あるいは聞かれたから気づくこととかというのがあるっていうのがすごく大事ですね。
もちろん自分の考えたモノのモックが出てくるということ、デモをプレゼンできるようになるというのは大学院の出したい成果としてものすごく素晴らしいことだと思う。というのが表面的にはあるんですけど、その学びというかカリキュラム開発者の視点でいくと正しい質問をしてくれるコースになっているということによって初めて自分のやりたいことに気づいていく。これがとてもリッチですよね。

斉脇:そう言われると、正直あんまり意識していないといえば意識していなくて。いつもやっていてこういうケースが困りますというのが前面に出ていて、単純にその課題を丁寧に解決していくようにカリキュラム含めて作っているので自然とそこが土台のメッセージになっているかな、という感じです。ビジネスサイドが立ち上がることが当然重要だけど、作る都合上それだと作れないというケースを解消してあげるのが重要なので。
あと最近思うのは、合意形成のタイミングです。つまりビジネスサイドとエンジニアリングサイドの合意形成をどのタイミングでどう取るのかというのが実は全体において難しいことで。いわゆるビジネスモデル上もそうだし、コミュニケーション上も合意形成のタイミングがずれるときがあって、それが結構致命的に尾をひくというケースがありますね。なので、プロトタイピング道場は全3回発注して3回納品くるので、そこが合意形成のポイントとしてちゃんと設計した形になります。

池谷:プログラマブルな世界が到来して、リーダーにとって大切なのはプロダクトやサービスを成り立たせているエンジニアリングについて体感的にも理解していて、そこでコミュニケーションが取れることなんですよね。

斉脇:そうです。なので、エンジニアサイドも最近の論調としては、ビジネスサイド見られる人じゃないとエンジニアサイドもだめだよって感じで。これって結局ビジネスサイドの人への諦めなんですよ。
ビジネスサイドの人だしどうせ分からないから、エンジニアサイドが経営視点と顧客視点でビジネスサイトの人を飛ばしてエンドユーザーの声として意思決定しようよって。でも僕からすると、ビジネスサイドの人が売るじゃんって話なんですよね。だってその人たちが売って金になって事業のエンジンになっていくんだから、ビジネスサイドの人たちが意思決定したほうが売れると思うんですよね。

池谷:この道場のいいところは提供側が先生でもなければ、意思決定する人じゃないとか示唆する人じゃない、というところが院生を預ける身としてはとても信用できるところなわけですよ。院生を試したりしないじゃないですか。聞くだけじゃないですか。「それって違くないですか?」「ずれてませんか?」みたいなことを素朴に指摘したりしていく人であって、こうすればうまくいくよと教えてくれる人でもないという。それがすごい。
極端な話Webサービスプロトタイピング道場はAI化できるんですよね。講座でもなければ学校でもない、だから道場という言い方は適切ですよね。

斉脇:それはありますね。プロトタイピング道場は僕を通さないでできるようになるのがゴールだと思っていて。AI化まではいかないですけど、基本的にそういう管理画面がゴール。人がいなくてもエンジニアサイドに伝わるインターフェイス。究極ストーリー系のゲームみたいな風にやれるのなら、それはそれで理想だなと思う。1000件、2000件やれたらそっち側に落とせたらいいなという感じですよね。質問もただアンケートフォームに答えるみたいなものではなく、何を作りたいかによって切り替えられるぐらい細分化されていて、ある種機械学習されているようなものになっている。「こういうものを作りたいんですよ」という紙に書いたスケッチと誰々向けの何々を読み込ませると、適切な質問に答えが出てきて、それに答えると次の週とかにそれに適したものができあがってくるというのが理想形ですよね。

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池谷:そこは斉脇さん、エクストリームな人だなと思う(笑)。手離れできるようにといった発想ではなくて、徹底してそうあろうとしている。普通はそこまでいいものを作ったら、我が出てきますよね。特に学校や塾のような形式ですと、人間としての欲というか、俺が居るからできているって思っちゃう。でも斉脇さんは機械化みたいな方に行くじゃないですか。それってなんでなんでしょう?

斉脇:僕の中では、結局責任の範囲なんですよね。その事業が成功するのか面白いかにタッチするほど偉そうじゃないというのが基本スタンスだし、分からないからいっぱい作れるようにしたいなというのが発想なんですよ。

プロトタイピング道場のこれから

斉脇:プロトタイピング道場が終わってそれからについても悩みどころですよね。今の形だとここから先はデジハリさんにお返しするという感じになると思うんですけど、通常他のお客さんとかでやられているケースだとこのプロトタイプを作ったあとのタイミングでみなさん契約を取りに回るんですよ。当然みなさん事業なので本気でやるんですよ。そこで「これ、違うな」ってなるんですよね(笑)。これ売れないぞってなったら、次本番作っても絶対売れないんですよ。だから、そこでNOを出したお客さんに対して、どうだったら買うのかを考えなきゃいけない。
元々、コンシューマ向けにやろうと思っていたのがエンタープライズ向けになったり、スクール向けになったりとかそういう変化がそこであると、プロジェクト自体はあまり変わらないんだけど、いくつか画面を差し替えてなんとなく構成を変えただけでめっちゃ売れるとかがあるんですよ。
めっちゃ売れるってどういう状態かというと、その段階で50万円の契約書が書けるんですよね。つまり「次の半年間50万円を今出すから、1ヶ月後から使い出すね」という状態で契約しましたとなると。そうすればそこから次の開発費が出て、お客さんは確保しているわけです。本気でやっている方はそうやっています。プロトタイプの段階で売れていないのは絶対に売れないので、そこはチェックしてほしいなとは思いますね。

池谷:この道場自体が現在はプロトタイプが作れるものという枠組みですけど、事業を立ち上げるという枠組みの中の1つのパーツという方がしっくりくるんですかね? それ以降ができる人ってデジタルハリウッド大学院でもカバーできていなくて、できる人がやっているという段階ですね。

斉脇:あくまで僕の仮説ですけど、スモールビジネスが成立していれば、インターネットビジネスって絶対にスケールすると思っているんですよ。とりあえず月の売り上げ50万円作るビジネスをやるときに、誰にどう売るのかで大きく変わるんですよ。1人で50万円だったら素晴らしいけど、5万円ずつだったら10人必要なわけじゃないですか。そしたら10人にヒアリングしなきゃいけないわけで。そこのプロトタイプをテコにして売るというフィールドワークをデジハリですることができればすごく良いと思います。慣れてない方には絶対に補助がいると思うんですよ。ただ全体の流れが分かるというのはコントロールする上で重要だなと、僕は今回やりながらちょっと思ったし、個人的には歯がゆいところではあります。
本当はみなさん2年間の好きなタイミングでプロトタイピング道場に参加できるとかだと僕は超いいなと。好きなタイミングで1ヶ月間受けられる。
全員が受けられて、全員タイミングが違うと思うので。でもどこかのタイミングでこのパスを使っていただいて、全員が少なくともプロトタイプがある、先に進んでいる人は売り上げが立っているみたいなのが卒業時みたいな。これは実現したらすごいことですよね。

池谷:1年目で作れたら、2年目はじっさいに売って改良を続けているといった状態に持っていけること。それが理想の2年間です。

斉脇:本当にそれは最高ですよね。

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