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趣味としての西洋剃刀の話

私の趣味のひとつに西洋剃刀によるひげ剃りがあります。
"straight razor"や「西洋剃刀」といったキーワードで画像検索をすると出てきますが、理容師さんが昔に使っていたような、一枚の鋼板からできた自分で研いで使うタイプの剃刀です。
替え刃式の剃刀や電気シェーバーが圧倒的に使われるようになってからも、一定数の熱心な、あるいは頑固な向きが使い続けていたようです。

近年では伝統的な暮らし方への再評価や、2012年の映画『007 スカイフォール』で西洋剃刀を使うシーンが印象的だった事("skyfall straight razor"で検索してみてください)などがきっかけで、欧米では新たなユーザーやウン十年ぶりの復帰組が出てきているとの事。

私にとってのきっかけは、趣味の分野で非常に信頼できる方が発した「西洋剃刀」の文字でした。
テイストが合わない事はあっても、いい加減な物をよろこばない人が好むのだから、きっと良い物に違いない。
と思って検索すると、なじみのない物ばかりが出てきます。革砥ってなんなんだ。
ともあれ生活上の道具を自分で維持するのは楽しそうだと感じ、剃刀や砥石を揃えてみることにしました。
思い返してみると、なんでそこまでの行動力を発揮できたんだと不思議な感じもします。

砥石や剃刀を少しずつ買い足しながら1年ほどが経ち、刃物研ぎの講習を受けるなどしながら試行錯誤をして、最近ではそこそこ安定して快適な刃が付けられるようになっています。
思えばかなりな労力を注ぎ込んできたのですが、なぜ続いているのかを考えてみるに

1:刃物を研ぐのは面白い
刃物が切れる仕組みを把握し、あるべき理想の刃に近づけるべく手元の資材と交渉するプロセス。これは当初の予感どおり、挑戦しがいがあると同時に楽しいものでした。練習すればするほど上達しますし、結果が顔に反映されますから真剣にならざるを得ません。

2:ひげ剃りが手段から目的へと変化
どんなことにも当てはまりますが、非効率と過剰を受け入れさえすれば、プロセスそのものが趣味になりえます。
自分なりの手順を洗練させると同時に、目的に直結しない遠回りなこだわりを持ち込むことも出来ます。
「ひげのない顔面にする」という結果に至る道筋は、効率的な方法でも儀式的なやり方でも、自分で選べるようになったわけです。

3:コレクション性
剃刀を始めとして、使う道具類がほどよいサイズで、実用一点張りから美観にこだわった品物まで幅広いバリエーションがあります。19世紀の製品(完全に機能しえます)が平気な顔をしてネットオークションに出品されていますし、ナイフスミスに今から一品物をオーダーすることもできるでしょう。フランス製品しか使わないだとか、メーカーロゴが動物の所からしか買わないだとか、自分でテーマを決めて集めるのも楽しいものです。
お気に入りの道具を公開する #SOTD (Shave Of The Day) というタグをSNSで検索してみると、Shoe や Song に混ざってShave が見つかると思います。
天然砥石という世界にも入り口が開いていますし、揃える楽しみも満たしてくれる趣味です。

特に1が強いものの、おおむねこの辺りが理由かなという感じがしています。
おまけとして
・何かしら新しい体系が身に付く事で、自分の可塑性への信頼が増す
・理容師さんの道具に対する把握の的確さや繊細さ、使用や維持の技術がいかに高いものかが感じられる
などの良いことがあり、西洋剃刀を使う世界を知ってよかったなとしみじみ思います。

もしあなたが
・なにか新しい趣味を始めてみたい
・ひげ剃りシステムに漠然と不満がある
・刃物研ぎに興味がある
などに当てはまる場合、西洋剃刀を使った体毛ケアは新しい趣味として良いかもしれません。
最初は恐ろしげに見えますが、すこし昔の人が生活の一部として行っていた事です。やってやれない事ではありません。
新しい事柄への挑戦は楽しいものですし、試してみようと思う人がもっと増えてほしいなあと思っています。


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