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加賀ゆびぬきについての本を3冊読んでの比較感想

加賀ゆびぬきを作ろうと思い立って、とりあえず本を読んでみるかと以下に記す3冊を手に取りました。

私が感じたそれぞれの特徴を以下にまとめます。

概観

3冊とも基本的な工程(土台作りから基本的なかがり方、糸の終端処理等)について一通り説明にページを割いていますが、それぞれに微妙な相違があり、著者ごとの各作業に対する把握の違いが感じられます。かがり目を揃えるために重要な引き締めについて、Cにのみ急所をはっきりと記載してあるのは少し意外でした。Aにこそ載っているべき情報だと思いますが、案に相違して記述がありません。Aの著者が実演している動画(美のまち いしかわ手帖 004 大西由紀子 https://www.youtube.com/watch?v=73hGSMY0W0g) の6秒から15秒あたりで一目かがっている)を見る限り、引き締め工程でCに書いてあるような動作をしていません。にも関わらず目がきちんと整っているので、糸を引き締めるベクトルか何かの大事な点を私は見落としているようです。教室の類に行けば解決しそうではあるのですが。

3冊とも作例写真が数多く掲載されているので、写真集的な楽しみ方もできます。ABは手工芸としての精密さ正確さを強調するという編集方針なのかして、あまり影の落ちないフラットなクローズアップ撮影が目立ちます。結果、絹糸の光沢を感じる写真の点数は多くありません。Cでは一貫して、ゆびぬきに付された銘と背景/小道具をマッチさせ、ゆびぬきのある空間を魅力的に捉えてた写真を多く掲載していて見応えがあります。

以下3冊それぞれについてのメモです。

A: 大西由紀子 著『はじめての加賀ゆびぬき 1本の糸から生まれる美しい模様135点』について

最初に書いた通り、最初に1冊を選ぶならAの『はじめての加賀ゆびぬき』がおすすめです。本の冒頭で宣言している通り、トリッキーなかがり方をしない伝統柄のみを紹介してあり、かがる順序、回数、糸の管理などをあまり気にせず基本的な動作に集中できるパターンばかりです。この入門書としての役割を重く見る編集方針がBCと比べて際立っているポイントです。土台/糸の色の組み合わせ例も豊富で勉強になりますし、写真を眺める嬉しさが軽視されているわけではありません。

また、よくある失敗についてのページや、配色の具体的なヒントにしっかりとページを割いてあり、初心者の自習にも向いています。教室を開いて実際に多く出る質問に対処してきた蓄積を感じる構成/内容といえるでしょう。2023年2月に第2版が出ているため入手性も問題なし。糸の色指定は一部を除いてオリヅル(https://kanagawa-online.shop-pro.jp/?pid=127408057)のラインナップからです。

B: 加賀ゆびぬき結の会 石井康子 著『四季を彩る 加賀のゆびぬき』について

Bはタイトルの通り、四季それぞれをテーマにした作例とパターンが多数収録されています。伝統柄をベースとしていますが、Aと比較すると凝ったかがり方をする作例が多く掲載されています。夏のビールがテーマの作例は、伝統柄にちょっとしたくぐりを組み合わせてとても楽しく仕上がっており、工夫に脱帽です。全体にテーマと色柄を調和させる工夫が参考になりますし、眺める楽しさもある一冊です。真綿の扱いの説明(決定的な1行でした)がとても参考になりました。糸の色指定はAと同じくオリヅルです。

C: 寺島綾子 著『愛らしい加賀のゆびぬき 』について

Cは判型も一回り小さい変形判で、写真集的な性質の強い一冊です。基本的な作り方は省かれていませんし、伝統柄も一通り紹介してあるので、入門書としての性質もぬかりなし。糸の引き締め工程の急所(p46 の3)はこの本から学びました。また土台の分割法がABと違う、なるほどなと思わされる方法です。本書の魅力の大部分は、LESSON 02 以降の作例にあるでしょう。凝った銘をそれぞれのゆびぬきに付けて、背景/小物/照明と調和させた作例が多数掲載されています。経験者向けの凝ったかがり方に付いていくのが大変ですが、著者の工夫と想像力には驚かされます。糸の色指定は他の2冊と違い都羽根(http://www.daikoku-ito.co.jp/kateishi/detail1_1.html)がメインです。

まとめ

どれを選んでも作る手順はきちんと紹介されていますし、きれいな写真も山盛りですから、安心して買いましょう。
あえて選抜するならば、最初の1冊としてはAを、もっと凝った作例を見てみたい場合はBCを、と考えています。

みんなも作ってみよう加賀ゆびぬき!

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