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東京都のIOTとAI等の先進技術を活用した都市型スマート農業を副業にする。東京都の新品種特許を無料活用して、、


現在アメリカやEUなどが進めるインダストリー5はAIによる自動生産システムが農業の分野まで広がっている。そこでこの分野で東京都が進めている戦略を無料活用して事業構築を


試験研究推進戦略の趣旨


急峻な奥多摩の森林地域から住宅や商業地域に農地が混在する都市地域まで、また、太平洋に南北に広がる島しょ地域において、東京の農林水産業は極めて多様な経営を展開し、都民に身近で新鮮な農産物や加工品等を供給しており、農林水産業に携わる事業者(以下「事業者」)の経営力強化に向けた課題も多岐にわたっている。また、都市地域の農地や公園緑地、奥多摩地域の森林等は、健全で豊かな都民生活に欠くことのできない役割を果たしており、都市緑化の推進や森林の保全・活用等への期待は大きい。
近年、環太平洋経済連携協定(TPP11)や日 EU 経済連携協定(EPA)のもとで、わが国経済はさらなる国際化の進展が見込まれる一方、わが国と緊密な関係にあるアメリカと中国の関係に懸念が生じる等、高齢化と担い手不足が深刻化するわが国の農林水産業を取り巻く環境には不透明な部分が拡大している。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により、中小規模事業者中心の東京都の農林業は、販売先の不安定さなどこれまでにない経営危機にさらされている。
その一方では、コロナ禍で身近な農業が見直されてきていることや、都市農業振興基本法制定を踏まえて進められている各種施策が、この 10 年間で3割ほど増加した認定農業者や経営者意識の高い若手事業者を中心に、東京の農林業の課題解決に向けた追い風となりつつあることなど、新しい展開が期待されている。
このような情勢のもと、東京都の農林業において、デジタルトランスフォーメーション(以下「DX」)を推進するとともに、SDGsにも配慮して安定した経営を維持・発展していくため、近年のスマート農業等の技術展開も踏まえた、省力化や低コスト化等による生産性向上、また、消費者ニーズを的確に捉えた品質向上や安全性確保等による商品力強化がこれまで以上に重要となっている。このような取組を技術開発面で先導する役割を担う東京都農林総合研究センター(以下「農総研」)は、限られた研究資源を最大限に活用し、東京の農林業の振興、さらには都民生活に役立つ試験研究を戦略的に展開する必要がある。
本戦略は、東京都の農林業を取り巻く情勢と課題に関する基本的な認識を踏まえ、農総研のミッション、今後重点的に推進すべき試験研究の方向、効果的かつ効率的な研究推進のために採るべき方策等を明らかにし、これを全職員が共有して、一丸となって研究成果を上げていくための基本的な考え方を示すものである。

  1. 試験研究を取り巻く情勢と重点研究課題

1 農林業を取り巻く情勢

  1. 国際化の進展

世界的な人口増加や気候変動、新興国の台頭など、国際的な食料需給は不安定性を増している。また、それに伴い肥料や飼料、燃油等の農業生産資材についても、価格の高騰や調達の困難化が懸念されている。
こうした中、TPP11や日EU・EPAがスタートし、今後、関税の撤廃や引き下げによる安価な外国産農産物や加工品等の大量輸入など農林水産業を取り巻く環境にはさらに大きな変化が見込まれている。
東京都においても、これらの国際情勢の変化に対応するため、競争力のある経営を実現するための新技術の導入やブランド化推進など、生産現場の強化が急がれている。


  1. 担い手の減少と高齢化

都市化による生産環境の悪化や重い税負担、長期にわたる農産物価格の低迷など東京農業を取り巻く環境は厳しい状況が続く中、「2020 年農林業センサス(概数値)」によれば、令和 2(2020)年の都内の農家数は 9,565 戸、10 年間で 27.0%減少、平均年齢は 63.9 歳(2015センサス)、10 年間で 3.3 歳上昇など、担い手不足と高齢化が深刻化している。
林業における経営状況も厳しく、経営体数は 152 経営体と、10 年間で 71.0%減少している(2020 年農林業センサス)。一方で、木材自給率は、令和元年(2018)には全国で 33.4%まで上昇し(令和元年「木材需給表」)、都においても森林循環促進事業の推進によりスギ、ヒノキの人工林の伐採が進み、多摩産材の利用が拡大するなど、林業振興の機運が高まっている。


  1. 地球温暖化と環境問題

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した第5次評価報告書(2014 年)では、最も温暖化が進んだ場合、21 世紀末の世界平均気温が 2.6~4.8℃上昇し、異常気象についても発生頻度が高まる可能性が非常に高いと予測されている。また、20 世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因は、化石燃料の使用などによる人間活動であった可能性が極めて高いとされており、環境負荷を低減し、持続可能な開発に取り組む必要がある。農林業においても、温暖化による生育障害や品質低下等の影響が懸念されており、栽培適地の変化などの深刻な影響をもたらす可能性がある。また、温暖化に伴い、新たな病害虫や疾病の侵入・
まん延リスクも高まっている。
このように温暖化が進む中で、住宅地や商業地と隣接した狭小かつ分散した農地で営まれる東京農業においては、農薬や化学肥料などの投入削減、化石燃料の低減と再生可能エネルギーの利用など、環境負荷を抑えながら都内産農産物の安全性と安定生産を一層推進していくことがより重要となっている。


  1. 農地の減少と生産緑地の 2022 年問題

東京の農地面積は約 6,720ha であり、その約6割が市街化区域にある。農地全体では 10 年間で 13.8%減少しており減少の一途をたどっている(令和元年農林水産省「耕地及び作付面積統計」)。
市街化区域内農地の約8割は、計画的な保全を目的として所有者に営農が義務づけられる生産緑地に指定されているが、その大半は平成4(1992)年に指定されており、令和4 (2022)年には 30 年が経過し、区市町に買取申出ができるようになる。農業者の高齢化や後継者不足が深刻化する中、大量の生産緑地の指定が解除され、住宅市場等へ放出される懸念があり、
「都市農業振興基本法」が制定された現在、長期的な視点からの対策が急務となっている。


  1. 都市農業への期待の高まり

国は、平成 27(2015)年4月に都市農業の安定的な継続を図るとともに、多様な機能の適切かつ十分な発揮を通じて良好な都市環境の形成に資することを目的として「都市農業振興基本法」を制定した。これ以降、都市農地の位置づけが農業政策、都市政策の両面から再評価され、農地は「宅地化すべきもの」から「あるべきもの」へと変更されたことは、東京農業にとって大きな転換点となった。
これを受けて都では、平成 29(2017)年5月に農地保全、多面的機能の発揮、担い手の確保・育成と力強い農業経営の展開などを柱とする「東京農業振興プラン」を策定した。
都民を対象とした「2020 年度インターネット都政モニターアンケート」(東京都生活文化局)によると、82.2%と8割以上の都民が「東京に農業・農地を残したいと思う」と回答している。また、東京の農業・農地に期待する役割は、58.9%の都民が「新鮮で安全な農畜産物の供給」と回答し、「緑や環境の保全」が 51.8%、「農作業体験や食育などの教育機能」が 32.0%と上位を占め、東京の農業・農地の多面的な機能に対する期待が高まっている。


  1. 都民ニーズの多様化

近年の健康志向の高まりから、新鮮で安全な農林水産物へのニーズが高まっている。農業
分野においては、農産物直売所をはじめ学校給食やレストラン等に対して、都内産農産物の安定的な供給が求められている。また、全国的に地域の伝統農産物への評価が高まっている中、都においても江戸東京野菜や、地域のニーズを踏まえて開発された東京らしいイメージを持つ品質の優れた農産物や加工食品への関心が高まっている。
林業分野においても、林産物の生産供給に加え、土砂災害の防止や二酸化炭素吸収など環境保全、さらには、森林浴やレクリエーションなど都民の憩いの場としての役割も期待されており、多様なニーズに応える東京の森林の再生と保全が求められている。


  1. 急速な技術革新とデジタルトランスフォーメーション(DX)への社会要請

近年、幅広い分野でICTやロボット技術等の先進技術を活用したスマート農業が進展し、技術革新による競争力の強化に繋がっている。担い手の減少や高齢化が深刻化する農林業に おいても、これらの最先端技術を活用することで問題解決の突破口となる可能性が大きい。
一方、世界中で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、社会構造が大きく変化している今日、我が国においてもデジタル化の推進が大きく求められている。このような中、農総研においては、東京の農林業のデジタルトランスフォーメーションを推進するための革新的な研究開発を加速していかなければならない。また技術の普及場面では、成果発表会や主催するセミナーのオンライン化、技術相談体制のデジタル化を図るなど、従来の発想を転換していく必要がある。


2 重点的に取り組む研究課題

このような、東京の農林業を取り巻く状況の変化を踏まえ、将来に向けた農林業の持続的な発展に向け、農総研では以下の3つの研究課題に重点的に取り組むこととする。


  1. 東京型スマート農業等による高収益型生産技術等の開発

農林業における担い手の減少と高齢化の進行に対して、近年進展の著しいAIやIoTなどを活用した東京型スマート農業など、先端技術を導入した生産性や省力性を飛躍的に向上させる高収益型生産技術の開発が期待されている。
このため、これまで主にトマトで開発を進めてきた東京フューチャーアグリシステム(東京型統合環境制御生産システム)によるイチゴでの高品質多収栽培技術、果樹類の高品質化と早期成園化を可能とする根圏制御栽培技術、ブランド豚「トウキョウⅩ」の体外受精卵の凍結保存と移植技術、並びに伝統的な林業技術のAIを活用した継承・発展や東京の急峻な森林地形に対応した獣害防止技術などについて、科学技術を活用して一層の高機能化を図る
とともに、さらなる可能性に向けて新たな研究分野に積極的に取り組む。


  1. 高い競争力を有する東京オリジナル農産物の開発

東京の地域性や生産現場の特徴を踏まえ、他県産や海外産に対して優位性が期待される品目や生産技術等について、バイオテクノロジー等の先端技術や在来遺伝資源等を活用し、高い競争力を有する東京オリジナルのブランド農産物の開発を進める。
このため、東京の地域特産品を中心に新品種や画期的な作型・生産技術、東京の伝統的な江戸東京野菜の生産技術等の開発に取り組む。


  1. SDGsに貢献する生産管理技術の開発

社会の持続的な発展に向けた課題として、SDGsが世界的な共通目標となっている。農業分野では、顕在化する都市化や地球温暖化の影響を踏まえ、化石エネルギー削減と再
生可能エネルギー利用、病害虫総合管理(IPM)、環境負荷低減型土壌肥培管理等、環境負荷の軽減・抑制と安全な農産物の安定的な供給を両立する技術開発に取り組む。
緑化・森林分野では、都市の景観向上と環境改善に向けた新たな緑化樹種の選定・導入や先進的な緑化技術の開発、また、都民共有の財産である森林の再生・保全に向けた花粉症対策品種の開発、地域に適した広葉樹林の育成、野生生物被害の防止等の豊かな森づくりに向けた技術開発等、産業振興に加えて生活環境の改善に資する技術開発を推進する。

  1. 試験研究推進の基本的なあり方

東京都の農林業分野における唯一の公設試験研究機関である農総研には、広汎な事業者や都民の大きな期待に応え、大都市東京における農林業を取り巻く環境の変化に的確に対応し、チャレンジ精神に溢れる積極的な研究推進により、重点的に取り組むべき研究開発課題等に着実な成果を積み重ね、これを広汎な事業者や都民に還元していくことが求められている。
このような取組に着実な成果を挙げていくため、全職員が常に心掛けるべき、農総研のミッション及び研究推進における基本的なスタンスを以下のとおり定める。

1 農総研のミッション

生産・流通・消費の現場を踏まえた研究開発により、事業者に価値あるサービスを提供し、東京の農林業の振興に貢献する。
都民及び東京を訪れる広範な人々のニーズを踏まえた研究開発により、健全で豊かな都民生活の発展に貢献する。
多様なセクターとの積極的な連携により、東京の農林業に新たな可能性を切り拓く研究開発に果敢に挑戦する。

2 試験研究推進における基本的スタンス

  1. 都民や事業者に密着した戦略的な試験研究の推進

豊かな都民生活に貢献し、事業者の経営を技術開発の面から支援していくためには、幅広い都民や事業者との日常的なコミュニケーションにより情報の交流を活発化させ、経営の実態や研究開発に対するニーズの把握に努め、これを的確に試験研究に反映させていくことが重要である。
また、試験研究の推進に当たっては、農林業の現場が抱える技術的課題や幅広い都民や事業者のニーズに的確に応える技術開発を着実に進めるとともに、将来を見通して東京の農林業の発展に有用な技術開発に先導的に取り組み、その成果を積極的に行政・普及機関や事業者等に提案するなど、戦略的な取組を重視する。

  1. 東京の公設試験研究機関として独自性の高い試験研究の推進

東京には 1,400 万人の都民が存在する一方で、全国的にみても小規模で集約的な農業経営が行われており、東京の農林業を取り巻く経営環境は他の道府県とは大きく異なっている。
このため、限られた農地で高い収益を上げるための経営モデルの構築や加工・販売・サービスなどの多角的な経営展開を視野に入れた研究開発等、東京の公設試験研究機関に求められる役割とポジションを明確にし、東京ならではの研究開発を推進する。


  1. 多様なセクターとの連携と自由闊達で質の高い試験研究の推進

世界的に見ても多様かつ技術力の高い産業や大学等の研究・教育機関が集積する東京の強みを最大限に活かし、産学公連携や外部専門家の活用、情報発信力の強化、多様なセクターとの連携による効果的な研究開発の推進と研究力の向上によって、事業者や都民に対する質の高いサービスの提供に努める。
また、東京の農林業の将来を切り拓く技術シーズの涵養に向けて、研究者の自由な発想に基づき、これまでの枠にとらわれない新たな取組に積極的に挑戦することを通じて、都民から信頼される質の高い試験研究機関を目指す。


  1. 新たなサービスを創出するDXの推進

農総研におけるステークホルダーは、都民や事業者をはじめ、都の行政・普及部局、他の試験研究機関など多岐にわたる。こうした様々な主体との情報のやり取りや発信を効果的・効率的に行うためには、DXの推進が不可欠である。
とりわけ、都民や事業者に、より質の高い新たなサービスを提供していくためには、これまでのやり方にとらわれず、研究成果の公表や事業者からの技術相談など、あらゆる分野でDXを積極的に活用した新たな仕組みを構築していく。

  1. 分野別試験研究の方向

1 スマート農業分野

〔基本的な考え方〕
政府が提唱する「Society 5.0」では、IoT、AIなどの進展が社会の課題や困難を克服するとともに、新たな価値創造をもたらすものとされ、農業分野では「スマート農業」等により現場での活用が進められている。
東京農業の「稼ぐ力」を高めるため、様々な産業や研究機関が集積する東京の強みを活かし、多様なセクターと連携・協力することで、小規模・多品目でも高収益や省力化等を実現する、先端技術を活用した東京型スマート農業の確立に向けた研究開発を推進する。


〔具体的な取組〕

東京型スマート農業研究開発プラットフォームの運営
スタートアップを始めとする民間企業や大学、生産者など多様なセクターで構成する「東京型スマート農業研究開発プラットフォーム」を運営し、民間等の技術シーズや発想を研究開発に活用する。
Web 講演会・勉強会、情報交換会等を開催するとともに、研究開発に活用できる、企業等からの新たな研究提案を募る。


② 東京フューチャーアグリシステムの新展開

農総研が独自開発した小規模でも高収益が可能な「東京フューチャーアグリシステム」をさらに進化させ、これまでのトマトやキュウリ、パプリカに加え、イチゴに品目拡大するとともに、小型コンピュータ等による低コスト化、無線を活用したハウス内環境の見える化など、システムの改良を行う。


③ IoT・AI等の先進技術を活用した東京型スマート農業の確立

都内生産者のスマート農業に関するニーズ調査や企業等からの研究提案を踏まえ、農総研と民間企業などで研究開発グループを立ち上げ、①「直売を主体とした経営管理システムの開発」や②「ソーラーエネルギー利用システムの開発」、③「多品目栽培用作業スケジュール管理システムの開発」、④「小型コンピュータを活用したハウス環境制御システムの開発」、
⑤「果樹根域制限栽培における環境制御システムの開発」、⑥「スマート農業技術の経営的評価・経営モデル構築」など、IoTやAI等の先進技術を活用した新たなシステム開発と実
証実験を行う。


④ ローカル5Gを活用した新しい農業技術の開発

民間通信事業者と連携して、ローカル5G環境を備えた「東京フューチャーアグリシステム」を設置し、そこからの高解像度な映像データなどを農総研内研究室と共有することで、遠隔農業指導やAIによる農作業支援などができる新しい農業技術を開発する。


2 園芸分野

東京では、園芸作物(野菜、果樹、花き)が総農業生産額の約9割を占める重要な基幹作物となっている。しかし、多くの生産者は小規模で多品目生産を行っており、輸入農産物の増大や生産コストの上昇などにより、経営環境は厳しい状況にある。このため、限られた農地でも高収益を上げる各種生産システムや経営モデルを確立する必要がある。また、環境負荷の少ない安全・安心な園芸作物や省力・低コスト化技術の開発、バイテク技術等を活用して有利販売のできる東京オリジナル品種の育成、地域の活性化やさらなる特産化につながる江戸東京野菜や伝統花きなどの生産性向上、高品質化、作期拡大等に向けた試験研究を推進し、生産者の経営力強化を図る。


  1. 野菜

〔基本的な考え方〕
野菜は鮮度が重視されることから、都内産に対する消費ニーズは高く、年間を通じて多様な品目が生産されている。しかし、国内外から多くの野菜類が流通は多様化しており、より競争力の高い野菜づくりが求められる。そこで、トマトやキュウリ、イチゴ等の高い収益性が期待できる品目では、最先端のセンシングやIoT技術を導入し、生産能力を飛躍的に高める東京型の生産システムを構築し、都市農業の経営力の向上を図る。また、都内では直売や契約出荷、学校給食など多様な販売形態があることから、一般的なハウス栽培から露地栽培まで、多品目経営に対応した新品種や収益性の高い栽培体系や、ウドやコマツナ等の伝統野菜についても、生産性と品質を高める効率的な栽培技術の確立に取り組む。


〔具体的な取組〕

生産性の安定・強化と収益性の向上のための先進技術の導入
小面積でも生産性を飛躍的に高め、農業所得の向上を図りながら、周辺環境に配慮し、地域社会にも調和した先進的生産システム等を開発し、普及推進を図る。

  1. 東京フューチャーアグリシステムの新展開(再掲)

農総研が独自開発した小規模でも高収益が可能な「東京フューチャーアグリシステム」をさらに進化させ、これまでのトマトやキュウリ、パプリカに加え、イチゴに品目拡大するとともに、小型コンピュータ等による低コスト化、無線を活用したハウス内環境の見える化など、システムの改良を行う。

  1. 小規模施設に適する気化冷却システムの開発

東京フューチャーアグリシステム開発研究で築いた技術をダウンサイジングし、都内に多い小型施設に導入しやすい低価格のネットアンドファン冷却システムを開発し、暑熱対策によるトマトの可販果収量のアップ・収益向上を目指す。


② 多品目経営を支える省力かつ効率的な生産技術の開発

東京農業の特徴である多品目経営において、葉根菜類を中心に今後有望な品目について、適品種の選定、作期拡大を可能とする技術や品質向上技術の開発等に取り組む。

  1. 露地野菜における優良品種の選定、作期拡大、省力生産技術等の開発

ダイコン、ニンジン、ジャガイモなど、都内の主要露地野菜について、学校給食などの業務用需要に応える有望品種の選定や作期拡大による端境期対策技術を開発する。また、定植や収穫・調整作業等の省力化技術の導入及び評価等を行う。

  1. 高糖度キャベツの生産安定化技術の開発

キャベツでは、差別化し有利販売が可能である高糖度キャベツ(スイーツキャベツ)が生産現場に普及しつつある。このスイーツキャベツの生産安定化に向けて、現場で利用可能な簡易な糖度測定法を確立するとともに、高糖度化に必要な条件等の解明や、被覆資材等を活用した生産技術を開発し、栽培マニュアルを作成する。


③ 東京ならではの品種の育成・導入評価、生産力の強化

東京の地理的優位性や生産現場の特徴を活かせる品目や品種特性等を調査するとともに、消費動向等を踏まえた普及性の高いオリジナル品種の育成に取り組む。また、伝統野菜で あるウドやコマツナ、シントリ菜等については、生産性や品質向上のための技術開発等に取り組む。

  1. 東京農業の魅力を高める品種育成及び育成品種の生産技術の開発

露地用イチゴ新品種「東京おひさまベリー」や弱休眠性ウド等、育成品種の普及を促進するため、品種特性を踏まえた栽培技術や増殖技術を開発する。また、今後の品種育成に向けた体制作りを進める。

  1. 幅広い視点からのコマツナの商品開発

東京の伝統的かつ主力野菜であるコマツナについて、近年の多様な品種開発状況を踏まえ、食味に関係するアミノ酸組成の解明など、幅広い視点から品種特性を明らかにするとともに、その遺伝的背景を検証し、新商品や新品種開発等に結び付ける。

  1. 伝統野菜の生産性向上・品質改善技術の開発

江戸東京野菜の生産振興・普及促進のため、生産性や品質から有利販売が可能な品目を選定し、作期拡大や高品質化等に向けた栽培技術を確立する。また、関係機関の連携による普及拡大、販売戦略等の検討を進める。

  1. 東京に適した新品種の選定

東京都種苗会等と連携して、主要な野菜品目について新品種の栽培・比較試験を実施し、消費者ニーズ等を捉えた東京に適した品種を選定する。


〔今後の研究素材〕

  • 都市環境に調和しつつ、生産性、収益性を高められる先進的施設栽培

  • 地産地消を推進するための品目選定及び生産技術開発

  • 多品目栽培を支えるための省力・軽労化技術及び生産体系

〇 都民の食生活を多様で豊かにできる東京ならではの特徴のある品種育成

  • IoTやAIを活用した生産性の向上や効率的な営農管理システムの構築


  1. 果樹

〔基本的な考え方〕
東京の果樹生産は、直売を中心に様々な品目が栽培されている。それらの中でも、収益性の高いナシやブドウは、栽培の歴史が古く、現在も果樹経営の主力品目となっている。しかし、ナシでは高樹齢化(30~40 年生)や土壌病害などにより生産性の低下が問題になっており、また、ブドウにおいても高樹齢化に加え、消費面から品種の更新サイクルが短期化する傾向にあり、いずれも改植が求められているものの、果樹栽培では、定植から収穫までの未収益期間が長いことに加え、土壌病害やいや地などが改植の障害となっている。そこで、積極的な改植技術を確立し、生産力の維持・強化を図る。東京の特徴的な品目であるブルーベリーは観光摘み採り園を中心に生産量・栽培面積が増加しているが、東京の気候に適した品種が求められており、東京オリジナル品種の育成に取り組む。平成 25(2013)年度に品種登録したキウイフルーツ「東京ゴールド」については、生産力強化のための取組を継続する。さらに、省力化や低コスト化など、より高収益な果樹経営の実現に向けた技術開発を推進す
る。


〔具体的な取組〕

生産性を高める栽培技術の開発
東京の果樹生産における主力品目であるナシやブドウについて、単位面積当たり収穫量や品質、収益性を向上させるための栽培技術、ブドウの着色不良等の高温障害対策技術の開発に取り組む。

  • ナシ・ブドウの高収益型栽培技術の開発

生産現場の状況を踏まえ、作業能率や収益性を一層高めるため、ナシでは盛土式根圏制御、ジョイント仕立て等を活用した栽培技術、ブドウでは施設における根域制限栽培技術等の開発に取り組み、東京に適した栽培技術と経営モデルを確立する。

  • ナシの東京型改植モデルの作成

現地で導入が進んでいる盛土式根圏制御栽培やジョイント仕立てを使用した改植技術を確立し、東京型の改植モデルを作成する。

  • 盛土式根圏制御栽培の推進

盛土式根圏制御栽培は、ナシを中心に都単補助事業で導入が急増している。導入が増える中で出てくる新たな課題などに迅速に対応していく。また、導入者の技術向上・習熟、指導者の育成等を推進していく。技術開発元の栃木県をはじめ、導入他県との連携を維持していく。

  • ブドウ「高尾」の再ブランド化

現地で着色不良などが問題になっているブドウ「高尾」について、その発生状況や被害程度を把握するとともに、対策技術を検討する。また、生産組合(稲城市等)と協力して優良系統を選抜するなど、「高尾」のブランド力を一層高める。

  • 果樹根域制限栽培における環境制御システムの開発

消費者の人気が高く高単価が狙えるブドウで、野菜で行われている最先端のセンシングや IoT 技術を導入し、生産能力を高め、高温障害等を回避できる東京型の生産システムを構築し、果樹生産の経営力向上を図る。


② 魅力ある東京オリジナル品種の選定・育成と普及

ブルーベリーやキウイフルーツについては、東京オリジナル新品種の育成とその普及に向けた技術支援を図る。ナシやブドウの新品種育成についても中長期的な計画により着実に実施する。

  • 「東京ゴールド」の増産に向けた取組

キウイフルーツ「東京ゴールド」について、農総研での栽培試験や現地実証試験を踏まえて作成した栽培マニュアルを活用し、生産者や行政・普及機関と連携し、高品質・安定生産のための栽培技術の普及をさらに加速させる。長期貯蔵のための収穫後果実管理温度の検討や、果肉色安定のための栽培技術確立などに取り組む。

  • ブルーベリー新品種の育成

摘み採り観光園として生産が増えているブルーベリーでは、東京の気候に適した品種の育成に取り組む。農総研で育成・選抜した系統について関係機関と連携して現地評価などを行い、品種登録を行う。

  • 東京オリジナル果樹品種の育成

東京オリジナル品種の育成・登録に向けて、優良系統の選抜と栽培試験を実施する。現在、現地実証試験中のナシ育成系統「TN-1」は、関係機関と連携し、品種登録に向けた取組を進める。また、中長期的な取組として、ナシ・ブドウ・キウイフルーツなどについて、育種目標を定め、交配育種や突然変異育種等の手法により優良系統の育成・選抜を進める。

  • 東京での栽培に適した果樹品種の選定

ナシ、ブドウ、カキの農研機構育成系統に関する系統適応性検定試験を中心に、都内外で育成された有望品種を導入・評価し、東京の果樹経営(小規模、直売)に適合する品種を選定する。


〔今後の研究素材〕

〇 果樹のボックス・コンテナ栽培等の屋上・ベランダ農園や移動式観光果樹園等のための低農薬で省力的な栽培技術
〇 野菜生産者等も対象とした多品目生産における補完的作物としてのイチジクやパッションフルーツ等の栽培技術
〇 6次産業化への取組(下物、未利用物の活用)


  1. 花き

〔基本的な考え方〕
居住環境等ライフスタイルの変化による花き消費の低迷、物日出荷への過剰生産による価格下落、異常気象による品質低下等により、花き経営の安定化が妨げられている。これらに加えて、都市部では宅地造成や高層化等による東京農業に特異的な栽培環境の悪化が問題と
なっている。こうした課題に対処するためには、高品質化や生産性向上を目指した生産技術開発が必要であり、品質劣化や生産コストを抑え、かつ作期の拡大を実現する、高度化された環境制御技術による施設園芸を推進するとともに、消費者と距離が近いという利点を活かしたもの、あるいは江戸の伝統花きを取り入れたものなど、東京の地の利を活かしたオリジナル商品を開発し、付加価値の高い花きを提案していく。さらに高齢化に対応し、作業労力を軽減できる生産技術を確立する。

〔具体的な取組〕

高品質生産を妨げる要因の解明と対策技術の開発
異常気象やヒートアイランド現象、宅地造成や高層化等に伴う都市農業に特異な栽培環境の悪化に起因する生育障害や開花遅延等の要因を解明する。それに基づき、簡易ミスト冷房等高温抑制技術や日照不足を解消するLED補光技術を開発する。

  • pHと生育温度による花壇用花きの生育障害症状の解明

生産現場で多く見られる花壇用花きにおける生育障害を解決するため、栽培の基本となる培土のpHと生育温度に着目し、それらと障害症状との関連性を明らかにする。得られた成果を事例集としてとりまとめ、花きの品質向上と経営の安定化に資する。


② 省エネに配慮した生産性の高い施設園芸の推進

都内では温室等の施設による花き生産が多いことから、環境制御技術の開発・導入等により施設栽培技術の高度化を目指す。

  • 品質・生産性の向上と省エネに向けた環境制御技術の開発

地中熱利用によるヒートポンプ冷暖房、ミスト冷房、遮光や保温資材を活用し、また、 EOD(日没時に集中して加温)や局所温度管理技術を応用して、高品質かつ省エネルギーで効率的な花き類の環境制御栽培技術を開発する。


③ 豊かな空間を創出するための高付加価値な花きの提案

大都市における急激な社会構造の変化やライフスタイルの多様化に伴い、花きの新たな利用提案が求められている。利用者に満足度の高い屋外・屋内空間を演出できる新しい花き商品や機能付与技術を開発し、東京ならではの高収益で魅力的な花き経営を確立する。

  • 鉢花・花壇苗等の付加価値付与技術の開発

育種技術を活用した新規花色や芳香等の新たな形質の付与、屋内における新たな花の観賞アイテムとしての「花活布®(はなかっぷ)」、パンジーやポインセチア等のわい性品目の切り花への応用技術や高性切り花品目の鉢物化、江戸・東京の伝統を受け継ぐシン
ボリックなアサガオ等の利用拡大技術検証、新規花色を有する花壇苗品種の創出など付加価値の高い新たな花き商品を開発し、東京ブランドとしての都内産花き類の利用拡大を図る。


④ 新品種・新品目の積極的導入と普及

めまぐるしく変化し多様化する消費者ニーズを的確に捉え、耐暑性を有する等東京に合った新品種や新品目を積極的に導入するとともに、その栽培技術を確立する。

  • 新品種・新品目の選定と栽培技術の確立

東京都種苗会等と連携して、主要な花き品目について、新品種の栽培・比較試験を実施し、東京に適した品種を選定する。また、新品目について、植物調節剤の登録拡大を図るとともに、栽培技術を確立し、栽培マニュアルを作成する。


⑤ 省力的かつ高生産性・高品質な花き栽培の実現

資材費の高騰、鉢花単価の低迷、高齢化などで花き経営は年々厳しくなっている。冷暖房コストや作業労力を抑えつつ、高品質で高生産性を有する花きを栽培する技術を開発する。

  • 鉢物栽培用ベンチの新たな利用技術の開発

作業労力の軽減、高生産性を目指し、作業性に優れる鉢物栽培用ベンチを活用した切花栽培技術を確立する。また、シクラメンなど高温に弱い品目に対して、根域冷却による高品質化技術を確立する。


〔今後の研究素材〕

〇 公園の公共緑化スペース等の花き利用現場における管理作業軽減化技術

  • 花型や花色に新規性を有し、室内環境にマッチしたハイセンスな花き品目の開発及び情報収集

  • 品質保証に向けた施肥管理や出荷前順化等による鉢花の日持ち延長技術

  • 処分が容易な焼却可能な鉢用土の開発〇 画像診断による成長制御技術の確立


  1. バイオテクノロジー

〔基本的な考え方〕
新品種の開発は、農産物の生産性や品質を高め、地域ブランドを形成する上で有効な手段
であり、その効果は生産者に留まらず、流通、加工、販売、消費者まで広い範囲に及ぶ。多品目少量生産を特徴とする東京農業では、各地域で種々の魅力的な特産作物が生産されているが、これらのマイナー作物では民間企業による品種開発は期待できない。また、栄養繁殖系作物は、ウイルス感染により生産力や品質が低下し、農業所得に甚大な影響を及ぼすため、ウイルスフリー苗の利用が不可欠である。一部の栄養繁殖系作物は、挿し木・株分け等による増殖が困難であり、苗の確保が課題となっている。そこで、バイオテクノロジーを用いて、東京の特産作物や都市環境向上に寄与する作物を中心に、東京オリジナル品種の開発を行うとともに、ウイルスフリー苗の作出及び大量増殖系の開発を行う。


〔具体的な取組〕

バイオテクノロジーの利用による新品種の育成
組織培養等のバイオテクノロジーを用いて、東京特産作物の新品種の育成や花粉発生源対策としての無花粉スギの作出などに取り組む。

  • 東京オリジナル品種の育成

温暖地適応性が高く、食味が良く、夏休みに収穫できる等、都内での栽培に向くブルーベリーや、休眠性が弱く高単価な年内採りに向くウド、大島の基幹品目であるブバルディア等のオリジナル品種を作出する等、園芸品目のブランド化や豊かな都民生活の創出に寄与する新品種を育成する。

  • 無花粉スギ新系統の作出

バイオテクノロジーの利用により新系統作出期間を大幅に短縮しつつ、無花粉で東京都精英樹の形質を兼ね備えたスギの新系統を育成する。


② 優良種苗のウイルスフリー化・大量増殖法の開発

バイオテクノロジーを用いて、東京特産の栄養繁殖性作物のウイルスフリー苗の作出と大量増殖法の開発を進める。


〔今後の研究素材〕

  • 東京特産作物等の品種育成におけるゲノム編集等の新しい育種技術の利用可能性検討

  • 島しょ特産作物(パッションフルーツなど)や伝統野菜(アシタバなど)の生産振興のため、時代のニーズに対応した新しい栽培技術や新商品の開発を可能とする新系統の作出

  • 都民の健康増進や都市環境の向上に資するため、健康機能性や環境浄化能、環境スト

レス耐性などを強化した園芸作物・観賞用植物の開発

  • 育種の効率化やオリジナル品種の保護を図るため、品種識別や育種用選抜マーカー等のDNA解析・利用技術の導入・確立


3 生産環境分野

農作物に最適な生産環境と農産物の安全性を確保するため、生産の阻害要因である病害虫の防除対策や、土壌の適正管理、肥培管理技術、農薬の安全使用と残留特性などに関する研究開発を行う。さらに、難防除病害虫や自然災害等緊急対応が求められる事態が発生した場合は行政機関や外部組織と連携し、原因究明や対応策を検証し、早期解決と復興支援に努める。


  1. 病害虫

〔基本的な考え方〕
海外から様々な農産物や種苗等が輸入される中、多品目少量生産が中心の東京農業では、消費者ニーズに対応するために、新たな品目や品種の導入が進められている。一方で、奥多摩から島しょ地域まで環境条件が大きく異なる生産現場において、病害虫感受性、環境適応性が異なる品目等では未確認の病害虫も新たに発見されることが多い。こうした生産現場で発生する新たな病害虫をはじめ、各種の生育異常症状の原因を究明し、その防除対策を構築する。また、化学農薬の低減を可能にする病害虫の総合管理技術の開発に取り組み、東京農業の安定生産を支えると同時に、都民、消費者に安全・安心な食の提供に資する。さらに、関係機関との連携を強化し、ウメ輪紋病やキウイフルーツかいよう病、ツマジロクサヨトウなどの重大な侵入病害虫の早期発見及び防除対策に取り組む。

〔具体的な取組〕

新発生・異常発生病害虫への緊急的対応
都内の生産現場で新発生・異常発生した病害虫について、原因生物やその生理生態を速やかに解明する。得られた同定結果に基づき、迅速かつ的確な防除対策を構築することで、生産現場での被害を最小限に食い止める。

  1. 地域特産作物における未報告病害虫の原因究明と対策(大学等との共同研究)

アシタバ、ブルーベリー、ウド等地域特産作物に発生する原因不明の障害に関与する病原生物を究明する。また、登録農薬が少なく、化学農薬による防除が困難なため、病原の種類と生態的性質に基づいた耕種的防除を検討し、予防対策を含めた総合的な管理技術を確立する。

② 病害虫総合管理技術(IPM)の開発

東京の主要な野菜類・果樹類について、薬剤防除と物理的・生物的防除を組み合わせた病害虫の総合管理技術を開発し、各種作物におけるIPMマニュアルを作成し、取りまとめる。同時に、東京特産農作物に使用できる薬剤の適用拡大を積極的に行い、安定生産に向けて支援する。

  1. 露地ナスにおける物理的防除技術を用いたアザミウマ類の管理対策

都内露地ナス栽培で、国等で開発した昆虫の光や色に対する反応を利用した害虫防除技術、土着天敵の温存に有効で天敵に影響が少ない農薬を組み合わせた防除試験を実施し、アザミウマ類管理技術を開発する。

  1. 都内重要作物における農薬の登録拡大

コマツナ、エダマメなどの東京特産野菜やウド、アシタバ、亜熱帯果樹及び観葉植物などのマイナー作物では、病害虫防除に使用できる登録農薬がきわめて少ないことから、当該作物に対する新規農薬の防除効果や薬害等を検証し、効果が高く、より環境負荷の低い農薬の登録拡大を図る。


③ 農総研育成品種における病害虫管理技術の構築

ワケネギ「東京小町」、キウイフルーツ「東京ゴールド」及び露地用イチゴ「東京おひさまベリー」等の農総研育成品種について、病害虫に関する品種特性を踏まえた防除モデルを構築し、安定生産に向けて支援する。

  1. 農総研育成品種の病害虫に関する特性把握と安定生産のための防除体系の構築

農総研育成品種について、主要病害虫に対する感受性について明らかにするとともに、品種特性に応じた防除技術を構築し、安定生産の実現を支援する。


④ 先進的栽培システムにおける病害虫管理技術の開発

近年、都内で導入が進んでいる有機質培地を用いた養液栽培システムにおける病害虫発生実態を調査し、システムの特性に応じた病害虫管理技術を開発する。

  1. 有機質培地を用いた養液栽培における病害虫管理技術の確立

農総研が開発した統合環境制御生産システムをはじめとしたトマトやイチゴ等の養液栽培における病害虫発生消長を把握し、作物及び病害虫の特性に応じた病害虫管理を確立する。

〔今後の研究素材〕

  • 遺伝子解析による病害虫診断及び発生予測

  • 光や音波等による物理的防除技術、抵抗性誘導及び生物間相互作用に基づく病害抑制技術の検証

  • 東京版ヘソディム(健康診断に基づく土壌病害管理)の検討

  • 遺伝子情報に基づく薬剤抵抗性検定技術を活用した効果的な防除体系の確立


  1. 土壌肥料

〔基本的な考え方〕
農耕地土壌は自然災害等により大きく変動するが、その一方で、生産に伴う人為的処理や気象等の影響を受けることでも日々変化している。こうした土壌の変化に的確に対応し、健全に管理を行うことで生産は維持・持続できる。このため、都内農耕地土壌を定期的に調査・分析し、現状や課題を把握するとともに、地域ごとに異なる土壌特性や露地・ハウス・人工培地利用等の栽培形態に応じて、作物の生育に最適な土壌環境の維持・創出に取り組む。また、環境に配慮した土壌及び肥培管理技術を開発するため、これまでも温室効果ガスとしての亜硝酸窒素の発生や堆肥施用による炭素固定能把握等の事業を行ってきたが、今後もさらに環境負荷を低減させる肥培管理技術等の開発に取り組む。


〔具体的な取組〕

土壌特性や作物に応じた土壌管理技術の確立
将来にわたり農耕地土壌の生産力や環境緩和機能を維持・増進するとともに土壌の悪化を防止し、作物の良好な生育環境を確保するための土壌及び肥培管理技術を確立する。

  1. 土壌の総合的管理技術の開発

都内農耕地土壌のモニタリング調査を実施し、農地の管理実態と地力変動の状況を把握・解析するとともに、適切な土壌管理技術を開発し、それらの技術指針を作成する。また、各島しょの土壌を定期的に調査し、土壌環境の悪化防止や地力の維持向上に対する技術支援を行うとともに、火山噴火等の自然災害発生時の対策指針に活用するデータを蓄積する。

  1. 各種作物の適正施肥モデルの構築

都の施肥基準がない特産作物について、施肥量と収量の関係や肥料吸収特性などを明らかにし、適正施肥モデルを作成する。

  1. 有機質資源の施用による土壌・環境・作物生育への影響評価

土壌環境を維持向上するには有機質資源を活用した土づくりが欠かせないが、これらは種類、腐熟度、施用量等によって作物や環境等にも大きな影響を及ぼす。このため、有機質資源の施用や連用が土壌や作物に与える影響を把握するとともに、養分供給能等を評価し、施肥設計に反映させる。

  1. 都市環境に適応した農地管理の提案

貴重な都内農耕地土壌の保護および農地と近隣住民との共存を図るため、冬季の土壌飛散実態を把握するとともに、土壌飛散に及ぼす管理方法の影響を検証・評価することで対策に結びつける。


② 土壌管理に起因する作物の生育障害を回避する技術の確立

東京の特産作物について、土壌管理に起因する生育障害の原因を解明し、土壌を適切に管理するための指針を作成する。

  1. 生育障害の迅速診断に活用可能な症例集のデータベース化(普及センターと協力)

生産現場で発生した生育障害事例を収集・整理して、障害症例のデータベース化を進める。さらに、土づくりコンソーシアム等を活用して他県と情報共有・連携を進め、利便性の高い検索システムの構築をめざす。

  1. 高EC施設土壌における土壌診断技術の確立及び管理指針の作成

降雨による養分の流亡がなく、乾燥により表層に塩類が集積しやすい施設栽培で問題になっている高EC(電気伝導度)土壌について、予防や対策のための土壌管理指針を作成する。


③ 先進的栽培システムにおける肥培管理技術の確立

都内で導入が進んでいる東京エコポニック(東京式養液栽培システム)の適切な肥培管理技術を確立する。

  1. 養液栽培における肥培管理技術の確立

東京フューチャーアグリシステム(東京型統合環境制御生産システム)以外にも、単独での導入が進む東京エコポニックを用いたトマトやキュウリ、イチゴ栽培等での養水分動態を把握し、作物の特性に応じた肥培管理技術を確立し、技術指針を作成する。

  1. ヤシガラ等の軽量・低密度培地で測定可能な水分センサの開発・利用

ヤシガラのような軽量・低密度培地でも精度よく測定できる水分センサを製品化する。さらに、この水分センサを用いて水分・養分管理技術の高度化を進め、東京エコポニックでの高糖度トマト栽培等の管理方法を確立する。

〔今後の研究素材〕

  • 蓄積された農総研の土壌調査結果や普及センターの土壌診断結果、さらに生産者の土壌管理実態を、デジタル土壌図等を活用して圃場毎に記録できる仕組み・体制の構築

  • 作物の生育障害事例に関する他県との共有・連携、検索システムの構築

  • 火山噴火等の災害発生時における生産土壌等の復興対策

  • 物理性、化学性に加え、生物性も踏まえた診断・評価の検討

  • 埋立地等の人工改変土での土壌調査及び土壌管理方法の提案

  • 国内外で規制される有害成分(カドミウム等)について、規制基準や対応技術に関する国際的な動向を踏まえ、必要に応じて農作物等への蓄積防止技術を検討


  1. 農薬安全性

〔基本的な考え方〕
多品目少量生産が行われる東京農業では、消費者ニーズに応じて新たな品目が導入されるとともに、それらの施設栽培も増えてきている。しかし、そうした新作目や栽培環境の変化は、農薬残留の挙動にも大きな影響を及ぼすことが考えられる。また、島しょ地域で栽培されるマイナー作物については新たな農薬の登録が求められている。こうしたことから、都内産農産物の安全性を確保するため、より安全な農薬の使用法や農作物・土壌に残留する農薬等のリスク分析を行うとともに、マイナー作物における農薬の登録拡大試験に取り組む。


〔具体的な取組〕

多様な栽培環境における農薬の安全使用技術の確立
東京に特有な栽培形態や島しょの土壌条件下における農薬の残留特性を解明し、より安全に使用するための技術を確立する。

  1. 農薬の環境挙動に関わる試験

農薬が農地土壌や農業用水などの農地周辺環境に及ぼす影響や農薬散布時の作業者暴露について評価する。


② 農産物の安全確保のための調査分析

都内産農産物の安全確保のため、残留農薬をモニタリング調査するとともに、問題が認められた場合には対策技術を提示する。

  1. 主要作物における残留農薬の調査分析

都内産ウリ科野菜について、ドリン系農薬の残留を調査し、農産物の安全性の確保を図るとともに、検出された場合には、作物や土壌を詳細に分析し、原因究明と必要な対策を講じる。

  1. 新たな利用方法・新作型・新品種における残留農薬の調査分析

軽量で栽培期間が短いミニ野菜・ベビー野菜、近年栽培されるようになったカリフローレなど、新たな作型や新品種における農薬の残留挙動を調査・解析し、都内産農産物の安全性を確保する。

  1. マイナー作物等における農薬の登録拡大

アシタバなどのマイナー作物やパッションフルーツやレモンなどの亜熱帯性果樹には、病害虫防除に利用できる登録農薬が少ないことから、生産者からの要望に基づき、防除 価が高くかつ薬害の少ない有望農薬の作物残留試験を実施し、登録拡大に向けたデータ収集を行う。


〔今後の研究素材〕

  • 養液栽培など農薬の多様な使用場面における環境負荷に関する調査・研究

  • 精度向上及び低コスト、低リスク、省力・省時間の残留農薬分析技術の開発

  • 作物への残留や環境負荷を低減する農薬使用法の開発

  • 植物に含まれる天然毒素や病害虫防除に関する成長ホルモン等の調査・研究


4 緑化・森林分野

都市の景観向上と環境改善、植木産業の育成に資する技術開発を推進するため、都市空間における緑化技術の開発や様々な緑化場面に対応した新樹種の選定、苗木の先進的生産技術を確立する。また、豊かな森づくりに向けた技術開発を推進するため、新たな花粉症対策品種の開発や種子の増産、地域に適した広葉樹林の育成並びに野生生物被害の防止などの技術を確立する。


  1. 緑化

〔基本的な考え方〕
近年、公共工事の減少などに伴う樹木の需要低迷が植木生産に大きな打撃を与えている中、人工地盤による乾燥化や猛暑日の増加、集中豪雨の多発など都市環境の変化、メンテナンス 費の低減が求められるなど、都市緑化を取り巻く環境は厳しい。一方、都は 1960 年代に植栽
した街路樹の老木化による植え替えや、サツキ、オオムラサキツツジなどに偏って植栽されてきた低木の種類の増加を検討している。また、これまでに開設された公園の樹木においても、街路樹同様老木化による植え替えが検討されており、ここにきて樹木の需要拡大の契機が訪れている。このような状況の中、緑あふれる東京を創出するとともに、東京の植木生産の振興を図るため、緑化樹木の生産技術に加え、様々な都市空間における緑化技術の開発や緑化場面を彩る新しい樹種の選定に取り組む。

〔具体的な取組〕

緑化植物の効率的な生産技術の開発
街路樹や人工地盤・壁面をはじめ、緑化の進んでいない空間において活用できる緑化樹木等の効率的な生産技術を開発する。

  • 緑化植物の挿し木環境制御システムの開発

緑化植物の挿し木繁殖は、夏期高温期の発根不良や施設導入コストなどの課題がある。これらを解決するため、ドライ系ミスト散水、補助光、炭酸ガス施用などを組み合わせた挿し木環境制御システムを開発し、緑化植物の効率的な繁殖方法を確立する。


② 樹木機能に注目した多様な緑化場面に活用できる緑化技術や新樹種の選定

様々な都市空間における植栽環境に応じた緑化技術を開発するとともに、様々な緑化場面に応じた機能性及び大きさや樹形、被覆性、色彩などの樹木特性、植栽後の剪定などの維持管理特性を調査し、優れた新樹種を選定する。

  • 植栽環境に適応した街路樹の樹形管理方法の確立

街路樹の本来の機能を発揮したうえで道路施設を維持し、利用者や地域住民にも受け入れられる街路樹の選定や、剪定などによる樹形の管理方法を確立する。


〔今後の研究素材〕

  • 花や枝葉に芳香がある樹木や食用可能な樹木などの新たな機能性に着目した樹種の探索

  • 都市緑化の視点からみた新樹種活用による都市デザインへの提案

〇 AIやロボット等を活用した植木産業に適する効率的作業体系や生産管理システム等の構築


  1. 森林

〔基本的な考え方〕
1960 年代を中心として、多摩地域に多くのスギ・ヒノキが植栽され、現在、これらが多くの花粉を飛散させている。また、東京における林業及び木材産業は、高コストであることなどから、縮小の一途をたどっている。そこで、都は、スギ・ヒノキを伐採し少花粉スギ・少花粉ヒノキなどを植栽、育成することにより森林の循環を進め、花粉の削減と多摩産材の安定供給を図っている。一方、森林は、土砂災害の防止や二酸化炭素吸収、またレクリエーション、環境学習の場としての役割なども期待されている。このような状況の中、スギ・ヒノキ花粉を削減するとともに、東京の森林産業を育成し、都民共有の財産である森林をより価値あるものとして再生、保全するため、花粉の少ない針葉樹林や広葉樹林など、将来を見据えた多様な森づくりに向けた技術開発に取り組む。さらに、先端技術を活用したスマート林業の実証等により、林業・木材産業の省力化や低コスト化の実現を目指す。


〔具体的な取組〕

花粉の少ない針葉樹の造林技術の開発
花粉の少ない森づくりを目指し、スギ・ヒノキなどの木材生産の中心を担う針葉樹の森林循環を促進するため、少花粉スギ・少花粉ヒノキ種子の良質化や大量生産技術、無花粉スギの導入技術を開発する。

  1. 採種園種子の良質化並びに大量生産化

少花粉スギ・少花粉ヒノキについて、採取種子の発芽率向上などの良質化を図るとともに、種子を大量生産するための技術を開発する。

  1. 無花粉スギ新品種の選抜

都産無花粉スギ採種園の造成を目標として、東京の精英樹の形質を受け継いだ無花粉スギ新品種を育成し、選抜する。


② 広葉樹の造林技術の開発

ケヤキ・コナラなどの有用広葉樹やカエデなど景観向上の役割を果たす広葉樹の特性を踏まえ、スギ・ヒノキなどの針葉樹との共存による東京の新しい森林デザインを創造しつつ、豊かで価値ある森林の育成に向けた技術を開発する。

  1. 植栽環境に適した樹種の選抜及び造林技術の開発

生育環境、地形や標高などの立地環境に適した植栽樹種を選抜するとともに、種子採種や植栽の技術を開発する。


③ 新たな森林造成に不可欠な技術の開発

花粉の少ない針葉樹林や広葉樹林を新たに造成していく過程において発生する問題等を解決するための技術を開発する。

  1. 森林被害をもたらす野生動物対策

ニホンジカによる食害だけではない野生動物の新たなタイプの樹木被害や、近年増加しているツキノワグマによる樹皮剥ぎのような甚大な被害を予測するとともに、野生動物の密度分布を把握し、森林被害対策を行政と一体となって構築する。

  1. 低コスト森林施業を目指した技術の開発

森林施業において最も費用のかかる造林・育林作業について、伐採から植栽までを連続して行う一貫作業システムを見据えたコンテナ苗の導入やICTの活用により低コスト化技術を確立する。


〔今後の研究素材〕

  • スマート林業の実現に向けて、AIやロボット等を活用した多摩地域の林業に適する効率的な作業体系や生産管理システム等の構築

  • 多摩産材の利用拡大のため、産業化を目指した新製品の開発、安定供給可能な多摩産材流通体制づくりの確立

  • 山菜、動植物などの多様な森林資源や、森林体験、森林の癒し効用などに着目した新たな森林産業のビジネスモデルの開発

  • 農作物の鳥獣害対策(農業分野と連携)


  1. 緑化・森林共通

緑の地産地消による都市の暑熱対策技術等の開発
暑熱対策等、快適な都市環境の形成に向け、都内産苗木と多摩産材を活用した新たな都市緑化技術の開発に取り組む。

  1. 多摩産材を利用した可搬式緑化技術の開発

地球温暖化により、年々過酷さが増してきている真夏に街中やイベント会場等に簡易にクールスポットを提供するため、都内産植木と多摩産材を活用した移動式のコンテナ緑化技術の高度化を図る。


② 生物多様性に配慮した緑化植物の生産技術の開発

生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)の開催を契機として、都内でも「生物多様性」に関する取組が始まっている中、生物多様性に配慮した広葉樹や新しい緑化植物
の生産技術の開発に取り組む。

  1. 生物多様性に配慮した広葉樹造林や都市公園緑化植物の生産技術の開発

生物多様性に配慮した森林づくりや都市公園緑化を進めるため、東京の自生種を基本とする地域性種苗の採種・育苗・生産技術を開発する。


5 畜産分野

〔基本的な考え方〕
都市化の進展や都市計画法により規模拡大が制約される中、都内畜産農家は、意欲的な生産性の改善、都市環境を利用した経営展開、周辺住民の理解も含めた環境改善への努力などで様々な課題に取り組み、都市における持続可能な畜産を目指している。今後、東京における畜産経営にはさらなるコスト削減や生産性向上、畜産物のブランド力の強化や循環型社会への貢献が求められることから、これらの課題の解決を基本的な柱とし、都市の畜産が将来にわたり安定して継続できるよう技術開発の面から支援する。
なお、青梅庁舎では、再編整備第Ⅰ期工事が終了し、新豚舎、鶏舎での東京ブランド種畜の増産・供給拡大が始まる。その後の牛舎及び実験棟を含めた第Ⅱ期工事等においては、家畜のバイオセキュリティー強化体制の確立を目指すとともに、本戦略における試験研究推進方向を反映させた施設整備を着実に進める。


〔具体的な取組〕

畜産の生産性向上技術の開発
酪農は現在、農家戸数、粗生産額、就業年齢などにおいて、都内畜産の中心的存在となっている。また、酪農教育ファームとして地域と連携して食育の場を積極的に提供している農家も見られる。しかしながら、生産性の面では、飼料コストのほか、乳房炎や繁殖障害、連産性の障害といった多くの課題を抱えている。
そこで、限られた生産基盤を効率的に活用し、最大限の生産性を確保するため、酪農における自給飼料の確保や繁殖障害、環境ストレス等の生産阻害要因の対策技術を確立するとともに、治療等で使用される各種薬剤の使用低減技術や家畜疾病予防技術の開発等に取り組む。また、養豚では、受精卵移植技術を活用し、伝染病侵入に備えたトウキョウXの遺伝資源保存に取り組む。

  1. 乳牛における血乳症予防技術の確立

分娩後の生理的血乳症の長期化は発生機序に不明な点が多い。異常乳のため出荷でき
ない血乳症の発生機序を明らかにすることで、治療法や予防技術を確立し、異常乳の発生を防いで生乳出荷量の増加を目指す。

  1. 受精卵移植技術を活用したトウキョウXの遺伝資源保存

トウキョウXを将来に渡って安定・継続して生産できるよう、伝染病侵入に対する危機対策として受精卵の保存を進める。供胚豚からの効率的な受精卵の採取方法や移植後の生産効率の向上を図りながら、確実に再生産でき、生産現場でも利用可能な技術として確立する。

  1. 乳牛の採卵成績予測技術の開発

過剰排卵処置(SOV)を用いた採卵・移植技術は、牛群改良速度を速める効果が高いが、 SOV の反応性には個体による影響が大きい。そのため、乳牛の排卵数に関する遺伝形質および特定の血中ホルモン濃度を調査し、遺伝子型と濃度、採卵成績との関連を分析することにより、乳牛での採卵成績予測技術を開発する。


② 高収益型経営を支えるブランド畜産物の品質確保、高付加価値化

東京の養豚、養鶏は、大消費地という都市のメリットを活かし、都で開発した東京ブランド畜産物の「トウキョウX」「東京しゃも」「東京うこっけい」を活用して小規模でも良好な経営を展開してきた。近年も都内養豚農家がトウキョウX肥育農家として新規参入し、今後の増産に向けての活躍が期待されている。
将来にわたりこのような都市畜産の高収益型経営を支えていくため、青梅畜産センターと連携してこれらの遺伝資源を管理し、種畜・種鶏の安定的な供給支援に努めるとともに、東京ブランド畜産物の高い品質を確保するための技術の確立並びに畜産物の有用性に明確なエビデンスを検証し、魅力ある生産物の高付加価値化を進める。

  1. トウキョウXの肉質変動要因の解明

トウキョウXの肉質の変動要因について、止め雄による遺伝、育成期の疾病罹患、給与飼料の面から解析する。影響が強いと考えられる要因を提示し、種雄豚の選抜、育成期の飼養技術改善、指定飼料の改良などを実施し、肉質の向上と安定化を目指す。

  1. 東京うこっけいの安定的な系統維持

開発以来、閉鎖群で 20 年以上維持された「東京うこっけい」の系統維持には、高産卵率を維持しつつ、近交退化を抑制した遺伝的多様性の維持が必要である。集団内の不良因子の排除と並行して、集団規模の拡大及び凍結精液の利用により、遺伝的多様性を確保した東京うこっけいの安定的な系統維持を図る。

  1. 東京うこっけいの高付加価値化

卵黄色の差別化を目的に、産卵鶏用飼料に多く含まれるカロテノイド類は、その抗酸化作用についても注目されている。烏骨鶏に対する抗酸化性添加物の給与では、脂質代謝に関する特性がみられることから、卵及び肉の高付加価値化を目指し、カロテノイドを含む添加剤の利用によって、卵黄色の改良並びに抗酸化作用を付与した畜産物を開発を目指す。


③ 畜産環境問題を低コストかつ効率的に解決する技術開発

魅力ある東京ブランド畜産物の生産拠点が、都市と調和のとれた経営を確立していくためには、畜産環境問題の解決が不可欠となっている。住宅地に接しながら生産を続ける都内畜産農家にとって、臭気と並んで近隣への影響が大きい衛生害虫についての防除技術の開発は、喫緊の課題として求められている。また、畜舎排水、悪臭等の低コスト処理技術の開発のほか、循環型社会の構築に不可欠な有機質資源としての家畜ふんを有効に活用するため、堆肥の品質の安定化、促成堆肥化技術及び堆肥の流通促進に向けた技術開発を行う。

  1. IPMによる畜産由来のハエ防除技術開発

畜産由来のハエについて過度な薬剤防除に頼らず、物理的・生物的防除を組み合わせた総合管理が可能な技術マニュアルを作成し、環境に対する負荷低減並びに食の安全・安心を高めた都市畜産の実現を目指す。


〔今後の研究素材〕

〇 飼料添加剤等を利用した乳牛における暑熱期の生産性、繁殖性の改善〇 都市酪農におけるカウ・コンフォートに配慮した畜舎環境制御技術

  • 黄色ブドウ球菌等による難治性乳房炎に対する薬剤低減化技術の開発〇 作業ロボットやアシストスーツなどを利用した作業軽減技術の確立

  • 飼料作物圃場における効率的な雑草防除法並びに獣害対策の開発

  • 気象災害回避のための飼料作物栽培体系の確立

〇 機能性ペプチドを強化した東京うこっけい肉の高付加価値化
〇 一塩基多型(SNP)情報を利用したトウキョウ X の生産性および肉質の評価〇 家畜ふん堆肥の生産と利用の最適化による堆肥の流通促進

6 経営分野

巨大なマーケットを抱える東京の優位性を活用し、限られた経営資源を最大限に活かして高い収益を上げていくため、先進的技術の導入や経営の多角化などによる東京型経営モデルの構築や、マーケティング調査に基づく新たな流通戦略の検討など、経営分野の試験研究を強化する。


〔研究体制の考え方〕

現状では、農総研には経営に関する研究単位が配置されていないことから、技術開発を担当する各研究セクションでは、技術開発研究と並行して当該技術の経営評価や経営モデルの構築などにも取り組むこととする。また、マーケティング研究等においては、大学等との共同研究や指導研究員制度などにより外部の専門家の協力を得るなど、フレキシブルに試験研究を進める。今後は、経営研究分野の重要性に鑑み、大学や国立研究開発法人等の専門研究者の協力を得て研究職員の資質向上を図るとともに、経営分野の任期付研究員招聘や経営分析を担当する研究部門の設置などについて検討する。


〔具体的な取組〕

収益性の高い東京型経営モデルの構築
農総研が開発する東京型スマート農業技術や新品種等を実際の事業経営に活かし、収益性の高い東京型経営モデルを構築するため、事業体の経営実態や事業者の意識、経営・技術上の問題点等の把握に基づき研究課題を設定するとともに、開発技術については事前・事後の経営評価を行い、その結果を技術の開発・普及にフィードバックさせる。

  1. 技術開発による高収益型経営モデルの確立

技術開発に当たっては、先進的技術の導入や経営の多角化など、収益性向上に向けた経営改善の方向性を明確化するとともに、収益性や生産コスト、労働力、農地の効率的利用などに関するシミュレーションや現地実証等を通じて目指すべき高収益型経営モデルを構築し、これを生産者や普及機関に提示・還元する。


② 東京の立地を活かした生産・流通・販売戦略の構築

新製品の開発や新品種等の育成に係る技術開発研究を開始する際には、専門機関と連携したマーケティング調査などにより、目標の具体化・明確化を図る。また、東京の巨大なマーケットと多岐にわたる流通手段を戦略的に経営に活かしていくため、事業者の経営実態や消費者・実需者の動向等を踏まえたマーケティングに関する調査研究に取り組む。

  1. 品種育成・技術開発目標の具体化・明確化

マーケティング調査などを通じて、生産者、消費者が求めている農産物や製品の特徴を明らかにし、新たに育成する品種や開発する技術を具体化・明確化する。調査結果に加えて、東京都の各種振興計画を参照しながら、農総研全体としての品種育成・技術開発目標を決定していく。

  1. 東京産食材の流通促進戦略の構築

東京都では、食材として都内産農林水産物を活用・提供する飲食店等の認証登録制度を推進している(「とうきょう特産食材使用店」ガイド 2020(令和2年2月)では 382 店舗)。この事業と連携して、都内産農林水産物を料理店等へ供給することを通じて消費者の認知度を高め、新たな販路拡大を図るための調査研究を進める。


③ 都市住民と共生する農業生産環境の検討

東京都の農業経営を持続的に成長させるためには、今後、障害者や高齢者、女性、ボランティアなど多様な人材を受け入れる体制が求められる。また、東京では、農地が住宅地や商業地と近接している地域が多く、農地環境のもつ多面的機能が十分に発揮されることで、都市住民の生活を豊かにすることができる。その一方で農業生産が周囲に与える環境負荷の影響も大きく、地域環境を考慮した生産技術の開発も重要である。
このため、今後は多様な人材が活躍できる農業生産環境の整備に向けた事例調査を行うとともに、多面的機能や環境負荷の定量的把握を行い、農業経営モデルに反映していくことが必要である。


〔今後の研究素材〕

  • 市民農園、農業体験農園、摘み取り農園など都市住民と共生する農業生産環境(農地活用に向けた技術体系等)の構築

  • 生産緑地法改正に対応した経営の合理化に関する調査・分析

  • 生産・流通・消費に関する継続的なデータ収集・整理・分析


7 分野横断的研究

科学技術が進展する中、農産物や商品等の生産にあたって、事業者はそれらの知識・技術に加え、労力や経費、資材・機器、販路等の選択、環境条件、安全面など様々な角度からの経営判断が求められている。また、地域農産物等の商品開発にあたっては、食品やマーケティ
ング分野等との連携が極めて重要となっている。このため、緊急かつ適確に解決が求められる行政施策上の課題や、速やかに普及するための試験研究等については、各科が密接に連携して取り組む分野横断的研究を推進する。


〔基本的な考え方〕

農林業の現場では、直接的な作物、製品の生産技術のみならず、生産環境や経営などに関する多様な技術要素が密接に関わり合っている。このため、農総研の個別チーム単位での研究では、喫緊の課題に必ずしも的確に対応できない場合が少なくない。こうした課題に適切に対応するため、農総研の各科・チームが一体となり、分野横断的なプロジェクト研究として取り組む。さらに、東京都の他の試験研究機関や行政、普及機関との連携を深める。


〔具体的な取組〕

プロジェクト研究の推進及び戦略的な連携体制の強化
行政に対応した総合的な研究課題や農林業の6次産業化など、複数の研究分野にまたがる課題のほか、経常研究においても研究分野相互の連携をこれまで以上に密接にとり、効果的かつ効率的な試験研究の推進に努める。

  • コマツナの機能性成分の解明と付加価値を高める生産技術の開発

園芸技術科、江戸川分場と地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター食品技術センターとの連携により、コマツナの有用な機能性成分を明らかにするとともに、その価値を高める栽培技術を開発する。新たな価値・商品を創造し、さらなる生産振興とブランド化を推進する。

  • 6次産業化における生産部門と食品関係機関との連携強化

都内産農産物を活用した加工品など、園芸分野、畜産分野と地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター食品技術センターなど食品分野の関係機関との連携による、新たな東京ブランド特産物の開発に向けた取組を強化する。

  • オリジナル品種普及に向けた連携強化

農総研育成品種の着実かつ効果的な普及のため、都庁・農業改良普及センター・島しょ農林水産総合センター等の他機関と緊密に連携し、新品種に適した栽培技術・施設・病害虫防除・施肥管理技術等の開発に取り組むとともに、マーケティング・ブランディング、PR、各種助成など普及に資する取組を総合的に進める。(例:ブバルディアやウドの新品種を軸とした高度生産体系の確立など)

  • その他の連携強化

経常研究においても、育成品種の栽培技術開発における園芸分野と生産環境分野、有機質資源の流通利用における畜産分野と土壌肥料分野など、研究課題の性格に応じて各研究分野が日常的に連携を深めることにより、効果的かつ効率的に試験研究を進める。


② 自然災害等への技術的な対応

噴火や異常気象等の自然災害、震災時における原子力発電所事故に伴う放射能汚染などの予期せぬ災害に対して、都内産農産物や林産物の生産や安全などを確保するため、緊急的に災害の状況を調査・把握し技術的対策を構築する。

  • 自然災害への緊急対策

大島・三宅島の噴火時や土砂災害発生時には、本庁や支庁、島しょ農林水産総合センター等と連携して、農産物・農耕地に対する被害の把握に努めるとともに、各種対策支援のための技術開発等に取り組む。

  • 異常気象への対応

近年、温暖化への進行に伴い、夏期の異常高温、集中豪雨の発生が増えてきている。これまでも、花き栽培、野菜苗生産等の生産現場の暑熱対策や都市環境改善に向けた緑化木の活用等に取り組んできたが、今後も異常気象に対応するため病害虫対策、果樹の品質低下抑制技術開発などに努める。

  1. 試験研究推進のための方策

1 都民や事業者ニーズの的確な把握

試験研究を取り巻く環境の変化を踏まえ、都民や事業者に貢献する試験研究を推進するためには、そのニーズを的確に把握することが重要である。このため、DXの積極的推進と活用に努めながら、幅広い都民や行政・普及部局との情報交換、さらには研究発表会やイベント等の様々な機会を捉えてニーズを把握し、研究課題に速やかに反映させていく。


  • DXによる幅広い都民ニーズの把握

幅広い都民ニーズを的確・タイムリーに把握する上で、DXの活用は極めて有効である。このため、テレビ会議システムの活用やWebサイトでのアンケート調査を実施するとともに、今後、さらに様々なDXの活用手法を検討・構築していく。


  • 行政・普及部局との検討体制の充実

行政・普及・試験研究部局が参画する「専門分野別担当者会議」や研究課題の検討を行う「研究連絡会議」などの検討体制を充実し、事業者や生産現場が抱える課題を把握し、現場ニーズに即した課題立案に努める。


  • 様々な機会を捉えた都民ニーズの把握

農総研研究成果発表会や農林水産省が主催するアグリビジネス創出フェア等の展示会をはじめ、農総研が主催・参画する各種イベントなどの様々な機会を活用して広範な都民ニーズの把握に努める。


2 研究課題の設定と研究計画の作成

研究課題の設定に当たっては、東京都の公設試験研究機関としての役割を踏まえ、都の各種振興プランや行政・普及部局からの現場ニーズ、推進すべき試験研究の方向等に基づき課題を設定するとともに、研究の背景や目的、目指すべき経営モデル、研究材料、研究方法、研究成果の還元及び公表方法など、一貫したストーリー性のある研究計画を作成する。


  • 研究方向の明確化と研究課題の重点化

東京の農林業の多様で高度なニーズに的確に応えるため、現場の抱える問題を速やかに解決することに加え、将来の東京の農林業を技術開発の面から先導するための研究方
向を明確化する。また、その方向に照らして重要度の高い研究課題から重点的に取り組むこととし、設定された研究期間内に確実に成果を上げることを目指す。


  • 戦略的な研究課題の設定

研究計画の作成に当たっては、緊急的あるいは短期的(1~3年)に解決すべき研究課題、中期的(3~5年)に解決すべき研究課題、長期的(5年以上)に解決すべき研究課題を明確にし、それらを戦略的に配置する。また、比較的長期の研究期間を要する挑戦的な課題については、基礎段階・応用段階・実用段階など、基礎から実用までの位置づけを明確にして、それぞれの段階に応じた「達成度の指標」を設定する。


  • 研究成果の普及・還元を見通した研究計画

研究計画の作成に当たっては、栽培・飼養マニュアル、技術指針、研究論文、知的財産権など、事業者や都民への研究成果の普及・還元のために最適と考えられる方法を予め想定するとともに、センター内試験と現地実証試験を並行して実施するなど、研究成果の速やかな普及・還元を見通して試験研究を進める。また、食品産業、商工・観光業や教育機関などの農林水産業以外の分野とも積極的に連携を図り、研究成果の普及活用に努める。


  • 目指すべき経営モデルの明確化

研究課題の設定と研究計画の作成に当たっては、その試験研究の目的や意義を明らかにし、これを行政・普及部局を含む関係者で共有するため、対象とする事業者やその経営モデル、開発技術の適用場面など、研究開発の具体的目標を明確化する。


3 効果的・効率的な試験研究の推進

外部評価委員会等を活用して、研究課題の効果的かつ効率的な推進に努める。また、研究者の自由な発意による自律性の高い試験研究や、効果的・効率的な試験研究を進めていくため、競争的資金などの外部研究資金の積極的な獲得に努めるとともに、フレキシブルな研究推進体制を整備する。なお、研究の費用対効果の検証についても検討する。


  • 評価委員会等を活用した効率的な試験研究の推進

農総研の研究管理職員等で構成する内部評価委員会、東京都が設置する外部有識者で構成される外部評価委員会等を活用し、研究の効果的・効率的な推進を図る。また、現
場ニーズに直結した研究課題等では、普及・行政部局が参画する「専門分野別担当者会議」などを通じて研究内容の妥当性を点検し、必要に応じて柔軟に研究方向を修正することにより、より現場ニーズに適合した研究成果の早期達成を目指す。


  • 外部資金の獲得と自律性の高い研究推進

東京都からの試験研究委託費に加え、研究者の自由な発意に基づく自律性の高い試験研究の推進を図るため、農林水産省や関係団体などからの外部資金の積極的な獲得に努めるとともに、自由度の高い試験研究を推進するための環境を整備する。


  • 分野横断的な研究推進

都内農林業の喫緊の課題に的確に対応し研究成果を上げていくため、各研究チームの密接な連携等により、フレキシブルな研究推進体制を構築し、研究分野の枠を超えた創造的な研究開発に取り組む。


  • 業務のマニュアル化と情報共有システムの構築

調査・分析や栽培・飼養管理などの基本的研究業務のマニュアル化を進めるとともに、研究成果などの研究情報をデータベース化し研究員が共有することにより、研究業務の早期習得や効率化・正確化を図るとともに、若手研究員の早期育成を図る。


  • GAPの認証取得

わが国の農業分野では、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保し、より良い農業経営を目指すGAP(農業生産工程管理)の普及が拡大していることから、農総研では 2020 年(令和2年)3月東京都GAPを取得した。試験研究に取り組んでいく中で、引き続き、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保していく。


4 産学公連携の推進

1,400 万人の都民を抱え、多様な産業や大学などの研究・教育機関が集積する東京の強みを活かし、産学公連携並びに農商工連携により、質の高い効果的な試験研究を目指す。


  • 事業者等との連携強化

研究成果を意義あるものとするためには、課題設定から試験実施、研究成果の普及・公表まで、事業者や関係団体などの理解と協力が不可欠であることから、意見交換会や
研究会、成果発表会などを通じて、行政・普及部局とも連携しつつ、農総研と事業者等との恒常的な連携を強化する。


  • 研究開発プラットフォームの構築

農林水産省が設置する「知の集積と活用の場 産学公連携協議会」に参加し、関係者が集まる環境を活用して、都内を中心とする民間企業、生産団体、大学、研究機関、非営利法人等と研究開発プラットフォームを構築する。これにより、生産現場や先導的な技術開発等に関する最新情報の収集や、研究成果のアピールに努め、新たな連携体制の構築を進める。


  • 幅広い機関との業務連携の推進

他の研究機関や大学、関係団体等との間で、情報交換や研究者の交流、共同研究などの幅広い連携を行う包括的な業務連携協定の締結を推進する。これまでに協定を締結した東京都立産業技術研究センターや公立大学法人東京都立大学に加え、今後は中小企業振興公社などの都関係機関、都内及び近郊の農学系大学などとの連携を強化する。


  • 共同研究の推進

農総研の研究勢力だけでは解決できない課題や、より高度な研究課題など、新たな研究分野への展開に対応し得る研究体制を確立するため、他の試験研究機関や大学、企業などとの共同研究を積極的に進める。また、新品種や新商品、新技術の開発に熱心に取り組んでいる農林業者等との共同開発も進める。


5 研究力強化に向けた人材育成

東京における農林業分野で唯一の公設な技術開発拠点として、今日の多様化・高度化する都民・事業者ニーズに的確に応える先進的研究開発を推進するため、「農総研人材育成方針」に基づき、研修制度の充実や外部専門家の活用、自主的研究活動支援などにより、研究力強化に向けた人材育成を推進する。


  • キャリアと専門性に応じた研究員の育成

試験研究推進戦略に基づく研究推進と、研究員のキャリアや専門性に応じた技術・知識の習得を促進するため、農総研が独自に実施する新規採用職員研修や研究科・研究チーム等における日常的なOJTに加え、外部講師や農総研職員によるセミナー・報告会、
大学や国立研究開発法人への派遣研修等により、計画的・戦略的に研究員の育成を図る。


  • 研究業務を支える技能職員の育成

試験作物の栽培管理や試験動物の飼育管理等の専門技術や知識を必要とする業務を担当する技能職員について、日常的な業務を通じたOJTに加えて、各種講習会への参画や視察研修、資格取得等により資質向上を図る。


  • 指導研究員制度の充実

農総研に配置されていない研究分野や極めて高度な専門性を有する研究分野について、大学や他の研究機関等から専門家を指導研究員として招聘し、研究員の研究力向上を図 るとともに、着実な研究成果の達成を図る。


  • Next New 制度の充実

試験研究機関としてのオリジナリティーの高い研究シーズの涵養と若手研究員等の研究力強化を目指し、研究員の自由な発想による調査研究を支援する「Next New 制度」を充実するとともに、その積極的な活用を図る。


  • 学位や資格の取得促進

試験研究機関としての総合力をさらに高めるため、研究成果の計画的な学会発表や論文投稿を一層促進するとともに、学位(博士)や技術士等の資格取得の奨励など、研究力向上のための環境を整備する。


6 島しょ地域の試験研究との連携・協力

島しょ地域の農林水産業振興を担う、島しょ農林水産総合センターや小笠原支庁亜熱帯農業センターが実施する農林業分野の試験研究の推進を支援するため、農総研における協力体制を充実・整備する。


  • 農総研研究管理職の派遣等

毎年度当初及び必要に応じて年度途中に、農総研の研究管理職を各島に派遣し、研究課題の設定、研究計画の策定、研究成果の取りまとめ等について助言を行う。また、研究推進上の問題等について、DXを活用し意見交換や技術支援を行い、農総研の技術支援等の協力体制を整備するとともに、必要に応じて農総研の研究課題に反映させる。

  • 研究課題の設定や研究評価等に関する協力

行政・普及・試験研究機関により開催される課題設定に向けた研究連絡会や成績検討会、評価委員会等において、農林業分野の専門研究機関として、助言や評価等を通じて協力する。


  • DX等による情報交換と研究協力の充実

島しょの研究現場からの要請に基づいて必要に応じて担当研究員を派遣するほか、島しょの現場問題解決に向けた共同研究などにより研究協力を強化する。また、島しょ試験研究担当者会議への出席、島しょ研究員来所時を捉えた情報交換などにより、日常的な研究協力を充実させる。これら、島しょとの情報交換や研究協力においては、リモートを活用した研究支援体制を構築し、研究員間のネットワークを通じた技術情報の提供や技術支援を日常的に行うなど、DXを積極的に推進する。


  • 研修会・講習会への受入れ

農総研が実施する各種セミナーや農業機械講習会などの研修会・講習会に、島しょの研究員・技能職員を受け入れる。

  1. 試験研究成果の公表・普及のための方策

1 効果的な研究成果情報の発信

都民理解を促進し、研究成果を速やかに社会還元することにより、公設試験研究機関である農総研としての使命を的確に果たすため、「農総研研究成果公表方針」に基づき、事業者や幅広い都民に試験研究成果を積極的かつ効果的に公表する。


  • 研究段階に応じた成果の公表

研究成果は研究段階に応じて、毎年の成果情報(公表資料)や研究速報(内部資料)として、速やかに行政・普及機関に提示する。ある程度まとまった研究成果は計画的に学会発表するとともに、農総研研究報告、学会誌、専門学術雑誌等へ投稿する。公表に際しては、知的財産に関わる情報の取り扱いに十分に配慮する。


  • 公表先に応じた多様な手段の活用

都民、生産者、研究機関、行政・普及機関など、その情報を提供する対象ごとに効果的な公表方法を工夫する。公表に当たっては、研究成果発表会や各種研究会・シンポジウム・セミナー、広報紙、マスメディア、展示会、イベント、技術マニュアルなど、多様な手段を活用し、幅広い機会を捉えて積極的に情報を発信する。


  • パブリシティーの強化

新品種や新商品、開発技術等の研究成果をはじめ、農総研の取組に関する様々な情報について、プレス発表等のパブリシティーを積極的に推進し、テレビや新聞等の多様な媒体を通じた情報発信により、幅広い都民の理解を促進する。


2 研究成果の普及推進

研究成果については、事業者等に速やかに活用されるよう、関係機関等と連携して効果的かつ戦略的に普及を図る。


  • 関係機関が一体となった研究成果の普及

普及体制の整備および現場における研究成果の迅速な普及においては、都の行政・普及機関、財団の事業部門、事業者組織、その他関係機関等との緊密な連携と協力により推進に努める。

  • 研究成果のデジタルライブラリー化等効果的な普及媒体の活用

これまで、行政や普及機関への研究速報や成果情報の提供のほか、事業者等が直接利用できるよう、Webサイト上から栽培技術マニュアルの提示や研究成果検索システムの構築など、利用者にわかりやすい媒体を用意し、研究成果の効果的な普及促進に努めてきた。今後は、新型コロナウイルスの感染防止に配慮しながら、さらなるサービス水準の向上を目指し、オンラインによる成果発表会やセミナーの開催、動画配信を含む研究成果のデジタルライブラリー化、また技術相談・技術支援のデジタル化を進めていく。


  • 全国の自治体や事業者等との連携による研究成果の積極的な活用

開発した技術や品種等について広範な社会還元を図るため、都内の農業者や事業者等による活用に加え、全国の事業者、国や道府県、大学等の研究機関や民間企業の研究部門等に対しても積極的に情報を提供し、幅広い地域や場面での利用を促進する。


3 知的財産権の取得と活用の推進

試験研究の推進と研究成果の普及に当たっては、品種登録、特許、商標登録等の知的財産権の取得と活用に十分留意することとし、事業者における知的財産権の取得についても、研究機関として支援していく。また、令和2年の種苗法改正に伴い、農総研が育成した登録・出願中の品種について、栽培地域の指定や自家増殖の許諾を関係者と協議していく。


  • 知的財産権の積極的取得と活用

研究成果としての新品種の登録や開発技術の特許、実用新案など、知的財産権の取得を積極的に推進する。その際、知的財産を農林水産業の振興、あるいは都民生活の向上に役立てる観点から、事業者等への積極的な広報や丁寧な支援など、知的財産を活用しやすい環境を整備する。

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