それはよろしく。

「そういえばお前さー、くら助ちゃんに告白したっつってたじゃん」
部活の休憩中。いつもの木陰にしれっと座り込む悪友を捕まえた。隣に堂々と座り込んで、何でもない風に切り出す。
「うん」
「結果は?」
「………ない」
「ん?」
こいつの声は静かで、あまり通らない。聞き逃すのは日常茶飯事だ。ぐっと耳を寄せてもう一回言えの態度を作る。
「返事、聞いてない」
「……は?!」
お、お前……まじか? まじまじと隣の友人を見つめる。
容姿端麗成績優秀運動神経抜群と三大ハイスペックをほしいままにしながらも常時マイペースを維持し、傍若無人は当然ながら時にはドSな態度で相手を翻弄するこの音無侑弥が、好きな子からの返事を聞いていない?
「お前本当に音無か?」
「少なくとも偽物はいない」
飄々と音無はドリンクを飲む。よく飲み干す音を挟んで、友人は再度口を開いた。
「…くら助に近い自信はある」
「散々構い倒してたな」
「でも。近いからって、俺が望んでる通りになるかは別」
「…まあ。それはそうだ」
当然のことだ。いくらハイスペックで周りからキャーキャー言われるような男でも、他人の感情をどうこうするのは至難の業。それとこれとは話が別というやつだ。
なので本当に言葉通りの感想しか抱かなかったから、口に出して同意したのだが。隣の奴はじと目でこちらを見つめてくる。
「なんだよ。本当にそう思ってるぞ」
「まだ何も言ってない」
態度に出てるんだよ。ボトルを片手でもてあそびながら、多少言葉を選んで話す。
「まだ勝算がはっきり出てない勝負を急ぐのは得策じゃないだろ。お前らのペースで進めればいい。俺は遠目で面白がってるだけだし。失恋したら慰めてやるよ」
「ニ言余計」
端的に返すと音無はまたボトルに口をつけた。喉を動かす音の後、静かな声が二言三言紡ぐ。その言葉に笑って頷いてやった。

「…それはよろしく」

(いいわけ)790字。ちょっと弱気な音無先輩と親友の話。

お菓子一つ分くれたら嬉しいです。