ある日の芭蕉布工房にて

2020年3月1日に放送された、Eテレ日曜美術館の「琉球の風を纏(まと)う 喜如嘉の芭蕉布」に便乗して(スミマセン)、自分が芭蕉布工房で働いていた頃(1997〜2002年)のことを少し。



自分が借りていた家の前の少し傾きかけたような小さな家に、Mさんというおばさんが住んでいた。小柄で無口でがっしりとした手のおばさん。時々野菜をもらったこともあったけれど、挨拶くらいでゆっくり話をしたことはなかった。


Mさんも自分で芭蕉を倒し、灰汁で炊いて苧(ウー)引きをし、糸を績(う)んで時々糸を工房に持ってきていた。その時々で糸の質がよい時も、あまり良くないこともあったと思う。普通なら捨ててしまうような質の繊維も糸にしていることがあって、切れやすかったり色があまり良くなかったり、繋ぎ目のはた結びが弱くて抜けやすかったり。Mさんにすれば貴重な現金収入。せっかく労力をかけて採った繊維を簡単には捨てたくはなかったのだろうと思う。


ある時、工房でMさんの糸を使って帯を織っていてなかなか思うように進まずため息をついていたら、工房でも1、2の腕の先輩にピシャリとこう言われて一言もなかったのである。

「自分たちはどんな糸でも上等に織るのが仕事。」



今、私はネパールの人たちが大変な労力をかけて収穫し、繊維を採り、手紡ぎをしたイラクサと大麻の糸を使い、機織りをしている。色々な質の糸が混ざっていて、正直、参ったなあと思うこともある。


その度に、Mさんと先輩の言葉を思い出す。



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ネパールの手紡ぎイラクサの糸


「琉球の風を纏(まと)う 喜如嘉の芭蕉布」 再放送はNHK Eテレにて             2020年3月8日午後8時からです。

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西川はるえ@TextileCOCOON
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