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トラウマの再演。

トラウマの再演。

性被害者の中には、性的なことを避けるようになる人がいる一方、過剰になってしまう人もいます。

私は両方でした。


事件直後の私

最初は、彼氏との性的な行為への恐怖感。

顔を近付けるだけで、涙が出るほどでした。
彼は何も知らないし、何も悪くないのに。

これが、事件後最も嫌悪感を抱く出来事でした。

広告に出てくるような男性向けのエロ漫画だけではなく、
ごく普通の少女漫画さえ私は読めなくなっていました。


事件から1ヶ月後の私

ここから、徐々に自分を傷付ける方向へ行くようになります。

1ヶ月経ち、私は自分にとある異性の友人の誘いを断らなくなりました。

この友人は、毎日毎日ひたすら事件の話を聞いてくれていた人でした。

なぜ彼は、そんな苦行とも言えることに耐えてくれていたか。

それは、学生の頃から何年もずっと、私のことが好きだったからでした。

私はそれを知っていて、ずっと利用していました。

こんな私の話を無限に聞いてくれるのは、この人しかいなかったのです。

だからこそ、下心が丸見えなのにも関わらず

「夜に公園で会おう」

という友人の要求を断らなくなってしまった私。

でもこれは、あくまて“自分の意思”だから。

全く問題ないんだ。

これは性被害では無いんだ。

自分を安く売ってるわけでは無いんだ。

つまらない話を、何度も聞いて貰ってばかりではいけない。
励ましてもらってばかりではいけない。

何かしら、私は相手に応じなければいけない。

これは当然のこと。

そう思って過ごしていました。

今思えば、
それ以外の答えを出さないよう、
自分に言い聞かせていたのかもしれません。

学生の時は、
この人に無理矢理手を繋がれても必ず振りほどいていたのに。

少しも握り返したことすら無かったのに。

寒気がするくらい、生理的に無理な人でした。

しかし、全く同じ相手なのにも関わらず 

私は公園で何をされても抵抗せず、

全て受け入れるようになっていました。

何より見放されるのが怖かったから。

正直、今ではもうこの頃のことはあまり思い出せません。

思い出したくもありません。

しかしその後、
なぜか突然私はこの友人のことが信じられなくなります。

ある日突然
“私は捨てられた”

と感じ、一方的に連絡先をブロックしました。

その頃の私は、とても人間不信に陥っていたのです。

この友人の電話の出るタイミングが遅くなると

「もう向こうは私に飽きたんだ」
「もう向こうは私に満足したから捨てるんだ」
「愛想をつかされたんだ」
「どうせ私に非があると思っているんだ」

と思い込んでしまいました。
そして、八つ当たりもしてしまったと思います。

事件後の私は、人を信じ続けるということが
とても難しい状態になっていました。

相手の一挙一動を、
異常なまでに気にするようになっていました。

そして、この一件から

「自分はただ対価を求められるだけの人間である」

と気付いてしまいました。

ここで、世の中の男性一般全てを信じられなくなりました。


事件から3ヶ月後の私

それから2ヶ月後、
私はマッチングアプリのサクラを始めました。

昔、ポイント目的でインストールしたことがあるのを
ふと思い出したからです。

当時は、
「アプリを起動してアンケートに答えるだけ」
という簡単そうな謳い文句に完全に騙されて、
内容を知らずにインストしました。

。。。色々運が悪いですね。

事件後の私は、
ふとこのアプリの存在を思い出してしまいます。

思い出して「これだ」と
ピンと来てしまいました。

これなら
自分の苦しみも和らぐのでは無いか、と。

男性のことは、とても憎かったです。

おじさんにレイプされかけて、汚いわたし。
どうせ価値のないわたし。

もうどうでもよかった。
これ以上傷付くことなんてないと思いました。

私を苦しめたおじさんどもを、今度は私が
手のひらで転がしてやりたい。

勝ちたい、記憶を塗り替えたい。

そう思いました。

マッチングアプリのサクラは、
副業というよりポイ活の一種です。

報酬といっても、毎月貰えるのはギフト券レベルにしかなりません。
(当然、確定申告レベルまで行かないものです)

もちろん、サクラと言えども気に入った男性がいれば会うことも出来ます。

利用者のほとんどが下品な男性だったため、会う女性は少ないのではないかと思いますが。

実は、私の会社では副業が禁止されているので、

いくら性被害で病んでも
いくら自分をめちゃくちゃにしても良いと思い込んでいても
夜職で働くなんてことは出来ません。

無許可でやるにしても、自分のメンタルがあまりにもチキンすぎて
完全な夜の仕事をする勇気は、私にはありませんでした。

そんな時に、このアプリに出会ってしまいました。

私は若い女の子です。
だから、適当にいいねしてメッセージ送るだけで、男性から何かしらの反応を得られます。

社内的地位を失いかけてる私には、
ここはなぜか安心出来る場所でした。

だって、アプリ運営にも、男性利用者にも
私は必要とされているから。

適当にメッセージを送って、いいねされて、メッセージ貰って。 

頭悪そうな返信をして。

相手も喜んでくれて。

それだけで相手からお金をぶんどれるなんて最高じゃん。

本当にそう思っていました。

たった1日数十円の稼ぎために、空いてる時間はひたすらスマホを操作していました。

帰宅後は、電話も何度もしました。
だって、声だけなら身バレの心配はないし。

電話では、大体は性的な単語を言わされました。
でも、睡眠薬を飲んでハイになってる私にとってはそんなこと本当にどうでもよかったのです。

こんなところに課金してるおっさんバカだなって笑っていました。
完全に見下していました。

単価が高いので、数回ですがビデオ通話もしました。

身バレしたくないので、良いのか分からないけど自分の内カメを押さえて、私自身が映らないようにしました。

通話中は、相手が脱いでるのをひたすら見せられるだけです。
さすがに気持ち悪かったので、相手の映像は見ないようにしてましたが。

自分が映像をしっかり見さえしなければ、いいと思いました。

ある日、自分はこんなことをして何になるんだろうと思いました。

結局自分って、性的な目で他人に見られることによって傷付き続けてるんだなって気付きました。

それに、貰えるのはせいぜい月1000円程度のギフトカードです。

自分をズタボロにしても、たったそれだけです。

そして、、少なかったですが、本当に出会いを求めてそうな人もいました。

私は男性客を騙し続けてるんだなって。ふと我に返りました。

毎日、楽しくメッセージを繰り返して送ってくれるこの人は、一体私のことをどう思ってるんだろう。

今更だけど、とても辛くなり、罪悪感に苛まれました。

そして何より、何も知らずに私と付き合っている彼に対する不誠実ぶりに、嫌気が差しました。

当たり前ですが、
自分が辛いから。自分が性被害者だから。

なんでも許される訳では無いのです。

また、別の知人にもこの話をしたところ、
「そんなの絶対辞めた方がいい」
「傷付けるだけ」
と何度も説得されました。

こうしてサクラを初めてから4ヶ月後、
私はようやく辞めることが出来ました。

アプリをしていた4ヶ月間、私は一種の依存状態にあったのだと今だと考えることが出来ます。

自分の居場所を求めて、自分を傷付けたり危険な場所に身を置く。

リストカットのような状態。

そうでもしないと、「生」を実感することができない。

ですがこれは間違っていました。

私は後悔しています。

しかし、こんな後悔をしていても、また2ヶ月には同じようなことを繰り返すようになります。


事件から9ヶ月後の私

情緒不安定な状態が続き、私は事件から7ヶ月後に休職することになります。

ここでようやく、彼氏に事件のことを伝えますが、私の精神状態が戻ることはありませんでした。
八つ当たりを繰り返し、結果として別れることになります。

彼と別れ、さらに仕事もしていない状態。

どうか生きればいいかもっと分からなくなった私は、アマギフを貰えるからという理由で相席バーのような所に参加してしまいます。

相席バーというか、ほぼギャラ飲みみたいな感じ。

まあ、普通に気持ち悪かったですよね…。自分のせいなんですか。

また、「お金を稼がなければ」という衝動に駆られ、「チャットレディ」に応募して面接まで行ってしまいました。

やはり自分には、若さしか取り柄がないと思ったからです。

汚れた自分は、自分自身を切り売りして生きていかなければいけないし、躊躇うことなんて何も無いんだと言い聞かせました。

一応、初心者なのでノンアダルトで登録はしました。
でも、男性の視聴者に性的な目線で見られることに変わりはありません。

登録したことを思い出すと、自分は納得して登録したはずなのにボロボロと涙が出てきました。

ちょうど明日には初出勤、というタイミングで友達と飲みに行きました。
耐えきれなくて、泣きながらその話をすると
「誰もあんみつが苦しむことは望んでない。間違ってるよ。」と怒ってくれました。

友達は私のスマホを手に取り、運営に対して辞める旨のメッセージを送り、ブロックまでしてくれました。

本当に、これがなければ私は言い聞かせて初出勤を迎えてたことになると思います。
感謝しきれません。

性被害者の方には、事件後は自らの意思と裏腹に性産業に就くことも多くあると聞きます。

先程もお伝えした通り、
私には一応正社員という立場があり、なおかつ明確に副業禁止という規定もありました。

朝も早い仕事だったので、寝坊できません。
(休職前は)

私は、もう正社員になれるか分からないし、会社をクビになるということを非常に恐れていました。

だから、決して水商売の仕事に就くことはなかった。

ただそれだけのことです。
(休職中にチャットレディは応募してしまいましたが、、)

少しでも立場が違えば、もっと自分を傷付ける結果になっていたことは間違いないと思います。

強い人間ではなく、ただ“そういう環境だった”だけです。

もちろん、この職業を否定してる訳ではありません。
ネガティブな理由で就いて欲しくないと思っているんです。

性被害者の方で、自分なんて無価値だと思い込んでいる方もたくさんいると思いますが、どうか踏みとどまって欲しいです。

自分の意思で決めた事とは言えないです。
今の自分は、正常な状態の自分では決して無いから。

正常な判断は不可能だから。

痛みを感じないために、別の傷を作ってただひたすら抉っているだけです。

後で必ず、後悔します。

最後に、トラウマの再演についての記事からの引用です。

「まさに自分だ」と。これを読んだ時に思った記憶があります。

>性暴力によるトラウマの影響は、性意識や性行動の変化にはっきりと表れます。
性暴力の被害を受けた女性の中には、性的なことを避けるなどして性行動が抑制的になる人がいる一方で、無意識のうちに性行動が過剰になる人もいるんです。

>トラウマの再演には、気がついたら被害現場に立っていたというシンプルなものから、人を巻き込む複雑なものもありますが、背景にあるのは突き動かされるような衝動です。
AVなど性産業の仕事につくことが自傷的であることをわかって行っている人から、社会的なアイデンティティをその分野に求めて生き生きする人まで様々です。

>それは、被害が“相手を選べず、力ずくで行われた性暴力”であったのに対し、“自分で相手を選ぶ主体性が関与する性体験”になりうるという点で、本人にとっては一歩前進と思えるからです

NHK:性暴力を考える

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

#性被害者のその後 #PTSD

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