ステイホームーコロナに揺れる、ひきこもごもな生活ー 4

4.離れたい、だけど、離れられない
 ひきこもりは自宅で生活する。年を重ねても、自宅での生活を続ける。困った家族が相談に来る。ひきこもりが成人年齢であれば、出て行ってもらえば良い。そう周りから言われる。家族もそう思う。自分たちの年齢を考えれば、それが普通だと思う。でも、本人にいくら言っても、本人は動かない。

 本人が動かないのであれば、親が家を出て行けば良い。そうとも言われる。でも、家は自分たちが長年、住み続けてきたところ。そこを離れ、新しい環境で生活するなんて考えられない。新しいところに移るお金なども考えると、とてもできない。でも、このままでは困る。だから、本人が出て行き、仕事につけば良い。同じところをグルグル回る話を続け、抜けることができない家族の相談を私は多く受けます。

 以下、そんな親子を巡る事例を見ていきたいと思います。なお、取り上げる事例は個人の特定ができないようにいくつかの事例を組み合わせるなど、加筆修正を加えます。

 カズトさん(仮名)は30代の男性。高校時代に不登校を経験。高校は通信制に転籍し、卒業。卒業後に他県の大学に進学し、卒業。卒業後はコンピューター関連の会社に就職しました。新たな生活をスタートさせたい、そんな気持ちを持ち、仕事に就きましたが、就職した会社が行っている仕事内容と、自分が当初したいと思っていたこととが違っており、熱心に取り組むことができず、仕事上でのミスが目立つようになりました。ミスをすれば上司に怒られ、段々と仕事を休むようになりました。休みが続けば、仕事に行くことができなくなり、就職して半年で仕事を退職しました。

 退職後はコンビニなどのアルバイトを見つけ、仕事につくものの、長続きはせず。仕事に就いては辞めるということを繰り返しました。年齢が30歳になって以降は、就職活動をすることもなくなり、自宅でひきこもる生活を続けるようになりました。

 自宅は両親と弟と本人の4人暮らし。母は専業主婦で自宅におり、父は定年退職後も、元の職場でパートとして勤務し、弟は自動車販売店に勤めていました。家で一緒にいることが多い母は本人に今後のことを聞くと、本人からは「考えているから」との返事。「考えているって何を考えているの?」と聞けば、「具体的になったら言うから、少し時間をくれ」と言うのみ。母がそれ以上のことを聞こうとすると、本人は拒否をするように自分の部屋に入ってしまう、そんな状態が続きました。

 時間だけが経過するため、母は弟に相談。弟が本人に話をしました。そうすると、本人は「資格の勉強をしようと思う。年齢を考えれば、簡単には仕事につけない。会社に所属し、人間関係を要求される仕事は俺には向かない。ある程度、自分自身の裁量でできる仕事につきたい」と話しました。弟は「どんな資格を取ろうと思うの?」と聞くと、本人は「公認会計士になろうと思う」と答えました。これまでそんな勉強をしたことがないのに、公認会計士を目指すというのが現実的なのか?弟は思いましたが、それ以上言ってもダメだと思い、その時の会話を終えました。

 それからまた月日が経ちましたが、本人が動く気配はありませんでした。公認会計士になると話していましたが、それに向けて勉強している様子は見られず。弟は何気に「勉強は進んでいるの?」と聞くと、「考えているから。自分で勉強ができるのか、学校に行かないとダメなのか、学校に行くのであればどんなところが良いのか、考えているから」と本人は話しました。考えるだけでなく、行動してほしい、弟はそう思いましたが、それを言っては本人が嫌な気持ちになると思い、言いませんでした。

 そんな状況が続く中で、父が脳梗塞を起こし、自宅で倒れました。病院に行き、処置を受けたものの、麻痺が残り、介護が必要な状態になりました。介護保険を申請し、ホームヘルパーの支援を受け、在宅での生活を送ることになりました。

 父が病院から戻り、在宅生活を始めるに辺り、本人、母、弟で話し合いが持たれました。弟は仕事があり、日中に自宅を空けるため、ホームヘルパーが入らない時間帯の介護は母と本人が協力しながらやっていく、母と弟は本人を交えた話し合いの前にそう決めていました。本人は自宅におり、何もしていないのだから、やって当然、そう思っていました。

 弟から方針が伝えられると、本人は「俺は自分の就職に向けて活動しないといけない。親父のことをやっている時間はない。勉強もしないといけないし、介護で度々呼ばれたら、勉強に集中できない。父が倒れる前にお前は自分のことをやれと言われた。だから、できない」と答えました。弟は勉強の支障にならない範囲内で母が介護をするのを手伝ってほしいと伝えますが、本人は首を縦に振りませんでした。話し合い後、弟は母に話をしました。

弟:「兄貴に何を言っても無駄だ。兄貴は何もやる気がない。やる、やると      言って、この何年も動いていない。それなのに、家族が大変な状況の中で手伝おうともしない。兄貴に少しのお金を渡して、自分でやるように言い、家から追い出そう」

母:「そうは言っても、カズトが自分から出て行くとは思えない。あの子は頑固だから」

弟:「お母さんがそうやって甘やかすから、兄貴がそうなるんだよ。大体、父さんも母さんも今の今まで兄貴に何をやってきたんだよ。このまま行ったら、家族は崩壊だよ。父さんと母さんが動けなくなったら、兄貴の面倒を俺がみることになるんだよ。そんなの嫌だよ。父さんと母さんがいる間に何とかしてよ」

母:「そんなことを言ったって。私たちだって努力してきたの。我慢してきたの。でも、カズトがあんな感じだから。分かってくれないのよ」

 沈黙の時間が流れました。その話し合いから1週間後、どうにかしなければと弟が調べ、私のところに弟と母が相談に来ました。年齢が若く、職業経験がなければ、まずはやってみるという話で本人が動くこともあります。ですが、年を重ね、職業経験があると、まずはやってみるという話に抵抗を示し、答えが予測できなければ動かないという状態になることが多くなります。そもそも答えは誰にも分からないものですが、その中でも分かるものがほしいと希望し、資格取得を考えていますとカズトさんのように話す人は多くいます。そして、本人たちが望む資格は公認会計士、税理士、司法書士など、簡単に取ることが難しいものが多いように感じます。

 家族の気持ちとして良い年なのだから、自分で考え、仕事に就き、自立してほしいと考えるのが普通なのかもしれません。でも、その考えでやってきて、時間が経ってしまったのであればそれを続けても上手くいきません。であれば、家族として本人に対して援助できるのはここまでと数字や文字にして表に出し、それを元に本人と話をしていく必要があります。離れたい。だけど、離れられない状況に置かれてしまう本人と家族。そこで必要になるのは感情ではなく、至ってドライなお金の話。感情では人はなかなか動かないし、動けない。私はそう思います。

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