ステイホームーコロナに揺れる、ひきこもごもな生活ー 3

3.本人と家族の間で切れてしまう関係
 コロナ渦による経営不振により、解雇になる人がいる。その点、公務員はそのようなことがない。でも、財政状況が厳しくなる中、多くの業務を一人で背負い、その負担から休職、退職し、その後ひきこもり生活を送る人に出会います。以下、そのような事例を見ていきたいと思います。なお、取り上げる事例は個人の特定ができないようにいくつかの事例を組み合わせるなど、加筆修正を加えます。

 エイスケさん(仮名)は30代の男性。大学卒業後、安定した仕事を希望し、地方公務員になりました。元々、真面目で、一つのことにコツコツ取り組む性格だったため、仕事を頼まれることが多く、やりがいを感じ、仕事に取り組んでいました。時間外、休日出勤は当たり前。そんな生活を続けていました。そんな生活が続き、段々、朝の出勤時間になっても起きられなくなりました。職場を休むようになり、1日、2日と休みが続くようになりました。初めはどうにか仕事に行こうという気持ちもありましたが、張りつめていた糸が切れてしまったのか、休みが1週間を過ぎたころになると、昼夜逆転の生活となり、起きるのは昼過ぎという状態になってしまいました。不規則な生活から体調を崩すようになり、自宅近くの内科を受診し、診断書を書いてもらい、暫く仕事は休むことにしました。

 エイスケさんは両親と妹との4人暮らし。両親の仕事は農業。天候により収穫量が変わる安定しない仕事のため、両親は息子に同じ思いはさせたくないとの思いから、公務員になることを幼い頃より勧めました。その通り公務員となったエイスケさんは自慢の息子でした。

 エイスケさんが仕事を休むようになった時、両親は少し休めば元に戻ると思いました。でも、1日、2日と経っても、本人の状況は変わらない。誰かに相談しようとも考えましたが、自慢の息子がこのような状況になったことが受け入れられず、誰かに相談する気持ちになれませんでした。

 職場の上司からは本人の様子を確認するため、連絡が入りました。本人に連絡をしても、本人は寝ていて、電話に出れず。結果、上司から母に連絡が来るようになりました。「エイスケさんはどうですか?」、上司から聞かれる質問に、「横になっております。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。少しすれば仕事に出られるようになると思います」と答え続けていました。

 休みが1か月を過ぎた頃、「本人が職場に来て、直接様子を教えてほしい。本人にその旨伝えて下さい」と上司から母に電話がありました。この1か月、両親は本人と話したい気持ちでいましたが、「本人が大変なのだから」と自分達に言い聞かせ、話をするのを避けてきました。ただ、今回は上司からの申し出のため、母は本人と話をすることにしました。

 昼過ぎに起きてきて、昼食を食べ終えた本人に上司からの電話内容を伝えました。暫くの沈黙のあと、本人は「辞めたい」と話しました。なぜ?どうして?本人の言葉を受け入れられない母。「丸々1日行かず、数時間ずつ仕事をしたらどう?」、「配置を変えてもらったら?」、どうにか仕事に戻れないかと声をかけるものの、本人の答えは「辞めたい」。「上司が今回、話をしたいと言ってきたのだから、まずはそれに行くことにしよう」と本人に話しても、本人の答えは「行けない」。どうにか仕事を辞めるという決断を先送りしたい、そんな気持ちから、母は本人に退職するのは待つように伝え、上司との話し合いは母が行くことにしました。

 話し合いの当日、母は上司に「本人が伺う予定でしたが、体調を崩しており、お伺いできず、申し訳ありません。もう少しお時間を頂ければと思います」と話しました。上司は本人が来ると思っていたところに母が来て、そのような話をされたため、それ以上の話はせず、その場は終わりました。

 時間は経つものの、本人の状況は変わらず。母の気持ちは焦るばかり。そんな気持ちを父に話しても、「仕方ないじゃないか」との返事。その返事に腹が立ち、夫婦間で言い合いになることが増えてきました。本人に休職するように伝えましたが、本人は「辞めたい」と繰り返すばかり。休めば元に戻ると思いたい母、退職したい本人、どうして良いか分からず、仕方ないと話す父。そんな家庭の状況が嫌で、会社から帰ると、自分の部屋に入ってしまう妹。家族間での会話はなくなりました。

 エイスケさんはその後も仕事には戻れず、退職となりました。退職しても、本人の生活状況は変わらず。これまでは職場があり、上司からの電話があった時など、本人と母が話すキッカケがありましたが、退職後は本人と母が話す機会はなくなりました。また、家族が居間にいる間は本人が部屋から出てこなくなりました。本人と話ができず、心配した母がテーブルの上に「どうしたの?」と手紙を置くと、翌日に返事が置かれていました。

 手紙には、「退職金と貯金から毎月2万円、支払います。ご飯だけ下さい。今後のことは考えます。ほっておいてください」と書かれていました。一緒に家にいるのに、本人と話ができない。その状況が続き、困った母が調べ、私のところに相談に来ました。

 相談に来られる人のうち、初めから、本人と家族の間で会話がない状況は少ないように感じます。元は会話があり、話をしていた本人と家族。本人は置かれた環境で努力していた。家族は本人のことを考え、行動していた。本人も家族も頑張っていたのに、すれ違い、その後会話がなくなっていく。一度、会話がなくなると、元のように会話をすることが難しくなっていく。私のところにはそのような状況に置かれた本人、家族から相談が入ります。

 一度、切れてしまった本人と家族の間の糸をもう一度結びなおしていくためには、私がその結び目になる必要がありますが、それが本当に難しいと感じます。この文章を書き進めながら、どうしたら良いのか、考えられればと思います。

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