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Moon Patrol

優れた芸術を消費して明日への活力を得たいと考えたとき、絵画音楽演劇といった鑑賞型よりも、コンピュータゲームという擬似創作型の名品に触れるというやり方がある。 擬似創作型とは、消費者がキャラクタークリエイトやクラフトができる型という意味である。しかしその多くが、体験のためには何時間以上ものコストを必要とする。 人生の残り時間は限られており全てを知ることは不可能だが、それでも、製作者の集中力と忍耐とが生み出した、素晴らしい作品たちの気配をそばに感じていたい。 プレイすらしないGame_DJ_NIWAKAが、来世もし時間の存在しない世界に生まれたならじっくりやってみたいゲームたちを紹介していく。

Moon Patrol:irem社(オリジナルは1982年)

サスペンションのストロークが大きい6輪車がひたすら前進していく。 Apple2を含む様々な機種に移植されているが、なんとも言えぬ寂寥感を醸し出す白黒画面はこのゲームボーイ 版だけである。 このゲームを初めて見たのは20代の頃で、確か学校のパソコンでだったが、即座にあるゲームに非常に似ていることに気づいた。 それは、ファミコンの「トランスフォーマー コンボイの謎」である。 垂直方向と前方への短射程攻撃、走行中の挙動が非常にそっくりなのだ。 コンボイの謎は、とてもつまらないという評価で知られており、その最大の理由に、開始直後の敵弾がほぼ見えないにも関わらず高速でありまず避けれない、というものが挙げられる。 このように理不尽な仕打ちを受けたなら、原作ファンだったとしても多くのプレイヤーは遊ぶのが馬鹿馬鹿しくなるだろう。にも増してこれどころではないほど理不尽な仕打ちを、この「トランスフォーマー」の開発者たちは受けていたのかもしれないのだが...

ここでトランスフォーマーの起こりについて少しだけ触れたい。 1983年ごろのタカラ社は「ダイアクロン」と「ミクロマン」という、精巧なフェアレディZミニカーやソニーウォークマンのモックなどがロボットに変わる変形玩具を日本で販売していた。それをハズブロ社が北米向けにコンセプトをリデザインしたのが、誕生のきっかけだ。 そしてトランスフォーマーは日本や北米その他の国で大ヒットしたのだが、幼いながら気になる点があった。 それは、アメリカで作画されたアニメが、おもちゃの実物とかけ離れているのだ。 例えば、ラチェットとアイアンハイドという、ワンボックスカーのフロントガラスが迫り上がった顔面をしたロボットに変形するおもちゃがある。しかしテレビに登場する彼らは全く別で、整った顔をした普通にかっこいいロボットだった。 だから、似た顔をおもちゃのフロントガラスの上にくっつけて頭の中で補正しながら、つじつまを合わせて楽しんでいた。 実はゲームのトランスフォーマーは、この「見立てによる補正」を織り交ぜることにより、以下に挙げる欠点を補い非常に面白いものに変わる可能性を秘めている。

1. 敵の弾が速くて見えにくく、しかも1発被弾すると死ぬというストレス。
→メディアミックス戦略を失敗し当初日本非公開となったが、実はゲーム版と非常に密接な関係にある1986年の劇場映画「トランスフォーマー・ザ・ムービー」では、 主人公ウルトラマグナスをはじめ自軍の仲間が敵の一撃や爆発に巻き込まれてことごとく戦死している。 よって、ゲームで映画を再現したという意味では、再現性は高い。
2. ただ画面右に向かって進んでいく変化に乏しい単調さ。
→ウルトラマグナスは副司令官という肩書きにも関わらず、代々受け継がれる指導者の証「マトリクス」のチカラを扱えなかった。 よって、実質の役回りが「伝令の運び役」と「後継者のスカウトマン」である彼の性質の再現性は高い。
3. 結局コンボイの謎がどんな謎なのかが解明されない不満。
→テレビアニメのシーズン2から3に変わる際、旧玩具商品を入れ替えて新規キャラクター玩具を売るために正義軍と敵軍もろとも全て戦死したのだが、先にも述べたようにそのシーンが描かれている劇場映画が日本では公開されなかった。 よってタイトルを正しく書くならば「トランスフォーマー: リーダーコンボイの死と、次期後継者についての謎」となり、その点はゲーム内で7つのアイテムを揃えることによって明らかになっていると言える。

以上を踏まえて再度プレイしてみると、非常によくできた作品であることがわかる。 ステージ全体を通して漠とした寂しさが漂っているのだが、仲間や部下が皆倒れた中、自分だけが生き残ってしまった ウルトラマグナスの後ろめたさと無力感が、そこには重なってくる。そして最大の目玉は、ボスの圧倒的巨大感だ。 ブルーティカス、メナゾール、ダイナザウラーといった、大型サイズ高額ラインのおもちゃがボス敵として登場するのだが、 これがまた主人公とのサイズ比が良いのだ。ストレスがたまりがちのステージ道中から抜けられたという解放的な高揚感を得られる。 そして、アイテム7つを揃えれば2周目は主人公グラフィックが変わり、ロディマスコンボイとなる。 暴走族のようなホットロッドに変形し、正義のリーダーの証「マトリクス」に認められて新たにチームを引っ張っていく若きロボットだ。

最後に、Moon Patrolとコンボイの謎が似ている気がする理由についてもう少しだけ触れたい。
繰り返しになるが、劇場版トランスフォーマー・ザ・ムービーでは、テレビ版の主人公がなぜ交代したのかについてを描いている。 そしてなぜかこれほど重要な映画作品が日本では公開されず、「コンボイの謎」というゲームだけが発売された。この謎を解く鍵が以下の時間関係で、


戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー(TVアニメ放送期間)
アメリカ 1984年9月17日 - 1986年1月9日
日本 1985年7月6日 - 1986年11月7日

トランスフォーマー・ザ・ムービー(劇場アニメ公開)
アメリカ 1986年8月8日
日本 1989年10月21日(小規模チャリティ上映のみ)

コンボイの謎(日本でのみ発売)
1986年12月5日

戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー2010(TVアニメ放送期間)
アメリカ 1986年9月15日 - 1987年2月25日
日本 1986年11月14日 - 1987年6月26日

こうして見ると、TVアニメ新シリーズの「トランスフォーマー2010」に変わる猶予期間が、アメリカでは8ヶ月あるのに対して、日本ではなんと6日間!?しかない。 これほど短い期間であっては、権利調整や宣伝を含む「劇場映画公開」という非常にコストのかかる仕事に見合った興業収益は見込めないだろう。そこで、「ならばゲームを作って映画の代わりにしよう!」と決まったのではないか?
そしてその決定直後から、あまりにも短いスケジュールの中で、ゲーム開発者達は作品を完成させねばならなかったのではないか?

Moon Patrolは「スコット津村」というコンピュータゲーム界の名裏方がプロデュースしていて、彼は名作「ブラックオニキス」の作者と親友であり、その花嫁探しを手伝ったという逸話もあるほどに日米を軽々と行き来する強者ビジネスマンだ。 そしてMoon Patrolのオリジナルはアイレム発売だが、M5とPC-8001mkIIというパソコンへの移植版が、何と、トランスフォーマーの「タカラ」から、どちらも1983年に発売されているのだ!!
もしかしたら彼こそが、このMoonPatrolに似た「トランスフォーマー "存在の謎"」を解くためのキーマンかもしれない…



ラチェット: おもちゃ版
ラチェット: アニメ版

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