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人生の選択

「あのとき、ああしておけば良かった」

と、人は考えるけど、それは果たして、現実的に可能なことなのだろうか。

 例えば、「Xさん」という架空の人物がいたとする。
 Xさんには好きな人が二人いて、AとBどちらか選んだ方と結婚することになる。
 選択権はXさんにあるとして、どちらを選んだらより幸せになれるのだろうか。
 悩んだ結果、XさんはAを選ぶこととなる。
 すると数年後、Aが浮気をして、これが原因で離婚することになった。
 Bは、別の人と既に結婚しており、とても幸せそうにしている。
「ああ、本当は、あの隣にいたのは私だったのに。あのとき、Bを選んでおけば良かったな」
と、Xさんは考えた。

 もし、時間を戻せたら、きっとXさんはBを選ぶのだろう。

 では、時間を巻き戻してみよう。ついでに、記憶もリセットする。

 Xさんは悩む。AとBどちらと結婚したら幸せになれるだろう。
 ここでの正解は、Bである。しかし、Xさんは「やっぱりAだ」と結論を出してしまった。

 「Aと結婚したら不幸になると解っているXさん」はBを選べるが、その結末を知らないXさんがBを選ぶには、決定打になる何かが足りていなかった。

 Bを選ぶには、自力ではない何かが必要になってくる。つまり、周りの誰かからのアドバイスとか、意図しない偶然によって思いがけず良いムードになったとか。酔った勢いか雰囲気に流された結果として子どもが出来たとか。自分では決められない何かによって、自分の思考とは別の力が働かなければ、自分の判断を覆す選択は不可能なのではないか、という話。

 もし、競馬でどの馬が勝つかわかっていたら、当然そこにお金を賭ければ儲かるのだが、それが出来ないのは、結果が解らないからだ。

 ここで、現実問題として重要になるのは、結果がわからない状態で、どうしても正解を選びたいと願ったときに、もしそうではない悪い結果になってしまっても、それでも後悔しない為にはどうしたら良いのか、という心構えの問題の方ではないだろうか。
 偶然に身を任せて、運よく正解を選べたのなら後悔はしないが、運悪く間違った方を選ぶと後悔してしまう、としたら、それは後悔してもどうしようもないことで後悔しているということになってしまうだろう。

 運の問題で失敗してしまい、後悔したとしても、その結果は自分で決めたことにはならないのだろう。自分の意思で選択したと言うのとは、少し違うから。
 たとえもう一度やり直すことが出来たとしても、運で決めるのなら、また同じ結果になるかもしれない。もし運よく良い結果になったとしても、その場合は、別の問題も浮上してくる。つまり、他の運が良かったこともやり直すことになってしまって、それによってダメな結果になってしまったり、運よく成功したその先に、もしかすると別のもっと不運が待ち受けている可能性だってあり得る。

 そうなると、運に頼る限りは、全て幸運でなければ後悔する、という考え方に落ち着いてしまうのではないだろうか。

 しかしそれは、確率的に考えてどうしたって無理だと解る。ギャンブルで絶対に勝たないと落ち込むというのであれば、その人はいつか必ず、確率的に落ち込むことになるだろうということは想像に容易い。それは、どんなに運が良くても、試行回数で不運が起こる確率も上がり続けるからだ。低確率の幸運が連続して成功すればするほど、不運が訪れる確率は高まっていかなければ、確率の法則を無視していることになる。

 必ず幸運にならなければ後悔する。その考え方は、あまりにむちゃくちゃで、現実度外視の要求をしている、と考えることが出来る。確率的にいつか必ず訪れる不幸な出来事に対して、人がもし時間を巻き戻してやり直せたとしても、それが上手くいった分、きっと他のことで上手くいかなくなって、結果的に帳尻が合ってしまうのだと、確率的な視点から前もって理解しておく必要があるのではないか。

 一回の幸運で、人生の成功が確定するような大きなイベントに勝利する意味は、とてつもなく大きい。しかし、どんな幸運でも、それは、選択したのではなく、運が良かったに過ぎない。

 人生の選択は、運に頼らないところにあって、その選択は、自分の考えをねじまげるような周りの何かに影響されるか、結末を知って回避するのでなければ、変えられないのではないか。…果たして、どうなのだろう。

 私の場合は、まず直感でどちらかを決める。そのあと、未来について考える。リアルに想像してみて、想定外の何かが起こるだろう、と考慮して、ぼやけていくイメージを出来るだけ見失わないようにしながら、どうにか結論らしきポイントに辿り着いたら、それが良かったかどうかを客観的に考え、そして、改めて選択肢の時点に戻る。
 それによって、未来から戻ってきた自分になって、考えなかった自分とは異なる選択を可能にする。もし、その選択が間違えていたら、未来を想像するイメージに問題があったということだから、次はもっとリアルにイメージしたい、と悔しく思いながら反省することが出来る。

 どうしたって後悔することになるのなら、運や周りの何かに運命をねじまげて欲しかった、と後悔するのではなく、自分の想像力が足りなかった、と後悔したい。

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