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【科学夜話#19】ウソ発見器の発見!

 ビジネスシーンであれ恋愛であれ、「あの人の考えている事」を知りたい、と思うことがありますよね。
 人の考えを読むことができれば優位に立てるし、誤解も生まれません。
「心を読む」まではいかなくとも、ウソを確実に見破ることができれば、犯罪捜査に役立つことでしょう。
 ウソ発見器としてのポリグラフの活用や、新しいテクノロジーを見てみたいと思います。

Bingo NaranjoによるPixabayからの画像

ポリグラフ検査ってなに?

 むかしむかし、あの任天堂が ラブ・テスター(1969年)なるものを市場に投入して話題になった。懐かしき昭和の想ひ出、と懐古する人もいるだろう。
 本体から出ているコードの端を男女が片手で握り、もういっぽうの手を互いに握ると、愛情度の計測ができるというもの。

 実は電気抵抗を計測する器械で、互いに汗ばんだりすると抵抗値が下がって、愛情度が高く表示される、という仕組み。相手が好きで、ドキドキして手汗をかくとメーターが上がるのだと説明された。
 友だちの家にある、といえば押しかけて試したものだが、ちょっとした握り方の変化で数値はたやすく変わる。
 ただワクワク感で、テンションは上がった。

 遊び方の膨らませようがないし、われわれ子どもたちの興味が一段落したら、お兄さんお姉さんが盛り上がるために追い出されたものだ。

 ポリグラフ(poly=複数の、graph=計測値の変化記録)とは、皮膚の血流量や呼吸、脈拍などのデータを経時的に記録する器械。
 ラブテスターのように、ウソをつくとドキドキして生理反応に現れる? からウソ発見器として犯罪捜査に使われる。
 というほど単純な話ではない。

 自分は緊張しいだから、冤罪に巻き込まれるかもしれん。という心配は無用だ。

いらすとや より

「秘密の暴露」が重要

 犯罪捜査で使われるポリグラフ検査法は、CIT(隠匿情報検査, Concealed Information Test)というもの。

 例えば犯人が「凍らせた豆腐」を凶器に使って殺人を行った、としよう。
 マスコミからは鈍器を使った殺人、とだけ報道されて具体的な凶器を人々は知らない。
 被験者は次々に凶器の写真を見せられ、「バットで殺しましたか?」「水瓶で殺しましたか?」などと質問される。被験者は、すべて「ノー」と応えるよう指示される。

 そして「あなたは豆腐で殺しましたか?」という、犯人しか知り得ない情報に対して生理的反応の変化が検出されると、「コイツ、犯人ちゃうか?」となるわけだ。

 かくして現場には砕けた豆腐だけが残り、凶器が不明だった謎の殺人事件が解決に導かれる。
 マスコミが「豆腐の角で頭を打った殺人事件」と命名した、有名な事件の顛末である。

 自白にせよポリグラフにせよ、白状した人が「犯人しか知らないはずの情報」や、警察すら発見していない凶器の捨て場所、などを吐露することを「秘密の暴露、隠匿情報の開示」という。
 こうした情報の開示は、犯人を示唆する証拠能力が高いとされる。

イラストACより

「ウソ発見器」がつくウソ!

 ポリグラフは、従来「ウソ発見器」と同義で使われてきた。
 しかし実際は、ウソを見破るというよりは、記憶検査の要素が大きい。

 ポリグラフは本人に罪の意識や、犯罪の記憶そのものがなければ機能しにくい。健忘症や認知症などにより、記憶障害を起こしていればそもそも反応すべき記憶がない。このような人には、ポリグラフが通用しない。

 また女性は、自分のウソを信じ込む能力があるため「あなたのために、やったのよ!」などと、本心から外れた着地点を見出す術に長けている。
 女性にはポリグラフが通用しないケースがあり、彼女らからすると男がつくウソなどカワイイものである。

 人がウソをつくときのサインとしては、行動や動作に現れるボディ・ランゲージや、言葉の間があいたり同じ話を繰り返したり、という話の内容に関するものがある。
 こうした特徴を捉えるのがウマい人、ヘタな人というのはあるだろう。

 人間嘘発見器と言われるキャサリン・ダンス(ジェフリー・ディーヴァー小説のキャラクター)や、海外ドラマ『ライ・トゥ・ミー 嘘は真実を語る』のライトマンなど、フィクションでも、この特技は生かされている。

イラストACより

最新技術によるウソ発見器

 人が外部刺激を受けてから、0.3秒後にピークを迎える脳波をP300と言う。
 P300は一度見たことのあるものを、再度見たときにも発生する。犯人しか知らない情報に接したときの、P300脳波を測定することでポリグラフの代用ができる。

 磁気共鳴機能画像法(functional magnetic resonance imaging, fMRI)は、脳に電磁波を当てて、返ってきた電気信号をMRIで読み取る手法だ。
 脳が活動するには酸素が必要であり、酸素は血中のヘモグロビンが運ぶ。

 酸素を離したヘモグロビンは、当てられた電磁波に応じて反応するため、酸素を離したヘモグロビンが多い=脳の活動が活発、な場所を検知できる。

 ウソをつくとき脳は余分な作業を強いられるので、活動が活発になる。
 fMRIは、酸素という脳のガソリンが使われている場所を特定する。意志決定に係わる場所が忙しく働いていると、ウソをついていることがわかる。

 ポリグラフ検査を始めとする生理反応の検査では、そのやり方を周知した常習者だと、誤魔化すことができるようになる。
 呼吸や脈拍をコントロールできる修行者であっても、ウソをつくという脳の活動自体は止められないので、fMRIはより誤魔化しが効かないウソ発見器になることが期待される。

 ウソ発見器が発達したら、明るい未来になるでしょうか?
 海外ではポリグラフは、核関連施設での採用試験に使われたり、植物に意志があることを「証明」するために使われたり、とユニークなガジェットになっています。

 ディストピアを表すガジェットとして、人のウソを見破る器械が描かれることがときたまあります。
「嘘も方便」としてウソの効用が説かれるように、人は生きていくためには自分や他人をだましだまし、していかねばならないようです。
 だから「ウソをつく自由」を取りあげられた未来は、ディストピアなのでしょうね。

#ポリグラフ #嘘発見器 #ラブテスター

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