忘れた傘が教えてくれたこと
昨日、閉店間際に来たお客様が、傘を忘れていた。
シャッターを閉めて、閉め作業をする時に気づいたのだ。
それと同時に、電話も鳴る。
傘を忘れたお客様からの電話である。
「先程購入したものなのですが、傘を忘れてしまって、、、」
雨は小降りになったものの、傘が無ければ困るだろう。
閉めたシャッター前でお待ちすることにした。
お客様が退店してからさほど時間は経っておらず、すぐ来るだろうと思っていたのだが、なかなか来ない。
閉め作業はもう1人のスタッフが行なっているためそちらの心配はなかったが、いつまでここに傘を持って待つのだろう、という不安はあった。
ちゃんと時間を伝えれば良かったかな、なんて反省をしつつ、道行く人を眺めている。
若い人は少なく、大体の人はスーツを着て素早く歩く。
飲んだ帰りだろうカップルの年齢も高いが、手を繋ぎ楽しそうだ。
この時間でも颯爽と歩くサラリーマンはきっと仕事ができる人なのだろう。
目つきも凛々しく感じる。
疲れた顔の人、楽しそうな人、頭をフル回転している人。
いろんな人がいた。
それが面白かった。
久しぶりに人間観察をしたことに気づいたのだ。
ただボーッと道行く人を眺めている。
このなにもない時間がなんとも幸せに感じたのだ。
ふと振り返ると、先程のお客様が小走りにやってきた。
「すみませ〜ん!」
「こちらも気づかずに申し訳ございません」
申し訳無さそうな笑顔を2人でして、お見送りをした。
残った閉め作業に取り掛かるため、椅子に座ると、なんだか清々しい気持ちだった。
いいことをした、そんな気持ちではなくて、あの待っていた生産性のない時間が、私には必要だったと気づいたのだ。
定時は21時半。
いつもなら定時で上がることがマストだったが、この一件があり、時間は伸びる。
そんなことはどうだっていい。
終わった後にスタッフルームにあったお菓子を食べておしゃべりをして、帰路に着いた。
時間通りに、予算を目標に、見られたい自分に、全てキツキツに詰めていたから私は、脆くなっていたらしい。
間違ってもいい、嫌われてもいい、出来ない日があってもいい。
もっと可愛く生きていたい。