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【ポートフォリオ用作品】早期退職した男性、ホームで妊婦を助けたことで運命が動き出す。


登場人物

長野勝彦:主人公。53歳男性。子供用品メーカーの窓際社員。
人事部長:主人子が勤める大手子供用品メーカーの人事部長。45歳男性。
長野由美:主人公の妻。53歳女性。
長野真美:主人公の娘。27歳女性。
お婆さん:70歳女性。ホームで主人公と出会う。
宮本奈緒:妊娠中の子連れ女性。32歳女性。
宮本勇気;5歳の男の子。奈緒の子供。
宮本優和;生まれたばかりの女の子。勇気の妹。
宮本優斗:32歳男性。奈緒の夫。最近評判の子供用品メーカーの社長。
担当者:35歳女性。宮本優斗社長が経営する会社の社員。
社員A:25歳男性。宮本優斗社長が経営する会社の社員。

1.状況設定(1028字)

人事部長「長野さん。大変申し訳ないんですが……早期退職のこと、考えてくれませんか?」

その日、ミーティングルームに呼び出された俺は、リストラ宣告を受けた。
あまりの衝撃で開いた口が塞がらない。

人事部長「うちの経営も厳しくなってきましてね。商品開発も若手が活躍しているから正直、長野さんに出来ることはないと思いますよ。早期退職者が出てしまうのは仕方のない事だと思って、どうか理解して頂きたい。
悪い話ではないと思うんですがね。退職金も出ますし……」

長野「そんな……!これまで以上に働きますのでどうか!」

俺が必死になっても、人事部長が早期退職の話を取り下げることは無かった。

俺の名前は、長野勝彦、53歳。
大手子供用品メーカーに勤めている。
商品企画部に所属し、親や子供が楽しくなるような商品を生み出してきた。自分の考えた商品が店舗に並ぶのは嬉しかったし、この仕事が大好きだった。
会社は人件費削減に乗り出し始めた。
ここ数年、商品の売り上げが落ち、会社の経営が上手く行っていないと社内では噂になっていた。
そこで俺のような年齢の高い社員を対象に、早期退職を促す流れとなったのだ。
家のローンや家族のことが気がかりだった。
それだけじゃない。
俺は窓際社員として、一日の大半を資料の片づけや掃除にあてがわれてしまう毎日が苦痛だった。
本当は定年するまで耐えれれば良かったのだろうが、限界だった。
体調を崩した俺は遂に退職を決意したが、本当はまだ仕事をしたい気持ちが強かった。

俺はもっと働けるのに……。

そして退職の日。
会社から萎れて帰って来た俺を家族は失望するのではなく、温かく受け入れてくれた。
妻の由美は

由美「今まで頑張って来たんだもの。ここで少し休んだら?私はパートをしているし、真美も働いているんだから大丈夫よ!」

そう言って優しい言葉を掛けてくれた。

真美「そうそう。今の時代、同じ会社でずっと働き続ける方が少数派なんだから!私も転職してるし。もっといい会社があるかもしれないわよ!」

そんな風に娘の真美も明るく励ましてくれた。
家族の励ましがあって俺の体調は回復し、元気を取り戻したのだが内心焦っていた。
早く就職先を決めて家族を安心させてやりたい。
そんな気持ちとは関係なく、中々就職先は決まらなかった。
面接にすら進むことができない。
求人票に応募しては不採用を繰り返す中、一社から書類選考通過のメールを受け取った。これでようやく面接を受けることができる。
俺は飛び上がるほど嬉しくて、気合を入れて面接準備に取り掛かった。

2.事件が起きる(802文字)

いよいよ面接日の当日。
俺は駅のホームで背筋を伸ばし、履歴書と職務経歴書の内容確認をしていた。
応募した企業は小さな子供用品を扱うメーカーだが、最近経営が好調らしい。
採用されるか不安だが、何事もやってみなければ分からない。

絶対にこのチャンスを掴んでやる。

ホームの電車を待つ列に並び、
面接に向けて気持ちを盛り上げていた時だった。

勇気「ママ!こっち、こっち!早くしないと電車来ちゃうよ」

奈緒「ゆうき。分かったから引っ張らないで」

俺の隣の列に若い母親と男の子の親子が並んだ。
見ると彼女のお腹は大きく、妊娠中であることが分かった。

小さな子もいて妊娠だなんて……大変だな。
真美が小さい時はどんなだったけ。

ぼんやりそんなことを考えて、慌てて我に返る。
子供に気を取られている場合じゃない。
今は面接に集中しなければ!
自分の人生がかかっているんだから……。

俺は再び書類に目を落とした。

勇気「ねえ、ママ。お腹すいた!お菓子ない?」

奈緒「……我慢しようね。家に着いたら……食べましょう」

勇気「えー?やだよ。今食べるからちょうだい!」

男の子が駄々をこね始め、ホームが少し騒がしくなる。
少し気になったのは、彼女の声に元気がないことだ。
男の子の会話に応じる声がどこかぎこちない。
俺は気になって彼女の方に視線を向けた。
彼女は額に汗を浮かべ、明らかに具合が悪そうだった。
俺は彼女のことが心配になった。
すると彼女の後ろに並んでいた杖をついたお婆さんが

お婆さん「あんた顔色が良くないよ。そこのベンチで座っていたらどう?」

と心配そうに声を掛けた。

奈緒「そうですね……。ありがとうございます」

彼女は微笑んで礼を言うと、ホームのベンチに移動していった。
俺はほっと一安心すると前に向き直る。
その直後、男の子が大きな泣き声が聞こえてきた。
驚いて振り返ると、
なんと、彼女が苦しそうにベンチの前で蹲っていたのだ。
そして彼女の周りには買い物袋から飛び出した食品やお菓子が辺りに散らばっていた。

3.女性が苦しみ、助けに入る(543文字)

勇気「ママー!ママー?うわーん」

男の子は母親が苦しみだしたのに驚いたのだろう。
急に泣き出してしまった。
同時に電車が到着するという案内放送が流れる。
周りの人達はスマホを見ていたり、イヤフォンをしていたりと異変に気が付いていないようだった。
電車が到着しそうなので、殆どの人がホームの方を向いている。
彼女が苦しんでいても男の子が泣いていてもお構いなしだ。

俺もこれから大切な面接が控えている。
でも彼女達をこのままにしておくこともできない……どうすればいいんだ!

彼女達を助けたい気持ちがあっても動けずにいる自分がもどかしく思えた。

駅員さんはどこにいるんだ?

俺は辺りを見渡すが、近くに駅員を見つけることができなかった。
そんな中、先ほどの杖をついたお婆さんが彼女に駆け寄る。

お婆さん「大丈夫かい?赤ちゃんが生まれそうなのかもしれないね……。坊やも泣かないのよ~。大丈夫だからね~」

そう言ってお婆さんは彼女の背をさすりながら彼女が地面に落とした荷物を拾い上げようとするのだが、杖をついているので上手く行かない。
男の子も泣き止まず、助けに入ったお婆さんは困り果てていた。

お婆さん「みんなしらんぷりなんて。こんなに困っているのに。
もうちょっとだから我慢してね~。これからどうしようかしら、困ったわ~」

俺は彼女達の側に近づいた。

4.主人公が立ち上がる(1672文字)

やっぱり見て見ぬフリなんてできない!

面接や自分の将来の不安はいつの間にか吹き飛んでいた。

とにかく今は目の前の困っている人達を助けるんだ!

そんな思いで頭の中がいっぱいになっていた。

長野「大丈夫ですか?これから助けを呼びますからね。安心してください!」

声を掛けながら俺は彼女の身体を支え、ベンチに座らせてあげた。
そして素早く散らばった荷物を拾い集める。

お婆さん「あら~。ありがとうね~」

お婆さんは突然現れた俺に驚きながらも、嬉しそうにお礼を言ってくれた。
それから、俺は電車から降りてきた駅員に両手を振って、

長野「駅員さん!こっち!こっちです!早く来てください!」

大声で助けを呼んだ。
俺に気が付いた駅員はすぐに救急車を呼んでくれた。すぐに他の駅員の応援を呼んでくるという。
それまで俺は彼女達の側に付いていることになった。

お婆さん「ありがとう。私だけじゃどうしようもなくてね~。助かったよ」

長野「いえ、とんでもないです」

俺は頭を下げながら答えた。

お婆さん「助けようとしたんだけど何も出来なくてね~。それにしても貴方、お仕事中だったんじゃないの?大丈夫?」

長野「はい、大丈夫ですよ。恥ずかしながら、仕事をさがしていまして……」

お婆さん「あら、そうだったの?人助けできるような立派な人だもの~。きっといいお仕事に就けるわよ」

長野「ありがとうございます」

俺はお婆さんの言葉に少しだけ照れくさくなった。
彼女の顔色は依然として良くないが、助けが来て安心したようだ。
先ほどよりも呼吸が落ち着いている。

やがて駅員と救急隊員が到着すると、彼女を担架に乗せた。
俺は心細そうな男の子の様子を見て、そのまま立ち去ることができなかった。
それに彼女のことも心配だ。

長野「あの……。宜しければ私も付いて行っても宜しいでしょうか。その子の面倒を見ていますから」

俺は救急隊員に申し出た。
すると担架の上から彼女が

奈緒「……ありがとうございます。実は一人だと不安で……ご迷惑でなければ……お願いしたいです」

と、か細い声で了承してくれた。

お婆さん「その人達を宜しくね~」

長野「はい、任せてください!お婆さんもありがとうございました!」

俺はお婆さんに見送られながら駅のホームから救急車へ移動した。

救急車に乗っている間、俺はずっと男の子の隣に座っていた。
男の子はまた泣きだしそうな顔をしているので

長野「名前はなんて言うのかな?」

優しく声を掛ける。

ゆうき「ぼく、ゆうき……!」

長野「そっか!ゆうき君か。これからお兄ちゃんになるんだ。お母さんを応援しなくっちゃな!」

できるだけゆうき君の不安を和らげるように話しかけてあげた。
するとゆうき君も少しだけ明るさを取り戻したようで、俺もほっと一安心する。
病院に到着すると、彼女はすぐに診察室に運び込まれた。
暫くゆうき君と一緒にキッズスペースで遊んでいると、ポケットに入れたスマートフォンが鳴った。
画面を見て、俺は目を見開いた。

なんと電話を掛けてきたのは面接をする予定だった会社からだ!
まずい、連絡するのをすっかり忘れてた!

俺は慌てて病院の外に出ると電話に出た。

担当者「長野さん!今どこにいらっしゃるんですか?面接の時間はとっくに過ぎていますけど?」

怒った担当者の声が周りの人に聞こえるぐらい響いた。

長野「申し訳ありません……!」

担当者「時間を守れないなんて、社会人として言語道断ですよ!採用は見送らせて頂きますからね!」

理由を話す隙がないぐらいに担当者に捲し立てられ、一方的に電話を切られてしまった。

あーあ……折角手に入れた面接を受けるチャンスだったのに。
あの様子だともう一度面接をしてくれそうにないな……。
でも、まあいいか。

人を助けることができた嬉しさと誇らしさで俺の心は満たされていた。

どうか元気な子が生まれますように。

キッズスペースにいるスタッフの女性にゆうき君のことを任せ、そんなことを祈りながら病院を後にした。

家に帰ると、面接を受けずに不採用を食らった俺に家族は驚いていたが、

由美「貴方、凄いじゃない!人を助けるなんて!」

真美「お父さんカッコいいー!」

大袈裟に俺のことを褒めてくれた。
喜んでくれる家族たちを見て
気を取り直して、転職活動頑張ろう!
そう思えた。

5.主人公に新しい出来事が起こる(425文字)

ホームで女性を助けた日から数日が経った日。
俺は自宅で会社に提出するための書類を作成していた。
前向きにはなったものの、選考が進まない日々が続く。
再び焦りを感じ始めた時、テーブルに置いていたスマートフォンが鳴った。
画面を見て俺は驚いた。

長野「面接をドタキャンした会社じゃないか!」

面接のことでまた何か文句を言われるんだろうか……。
俺は恐る恐る電話を取った。

長野「はい。長野でございます……」

担当者「長野様でございますか?先日は大変失礼致しました……。長野様には再度面接に来て頂きたく、連絡させて頂きました」

長野「え?面接して頂けるんですか?」

思わず声を上げてしまった。

担当者「はい。社長が是非とも長野様にお会いしたいそうです」

長野「社長が?……はい!是非、面接させてください!」

俺は戸惑いながらも大きな声で返事をした。
どうして社長が俺に興味を持ったのか分からないが、ラッキーだと思った。

このチャンスに乗らない手はない!

こうして俺は一度断られた会社の採用面接に向かうことになったのだ。

6.社長と面談(708文字)

いよいよ面談当日。
俺は小さなビルの前で深呼吸をして緊張を和らげる。

担当者「長野様ですね。お待ちしておりました。こちらでお待ちください」

面接を行う小さな部屋に案内された。
暫くして、若い男性が部屋に入って来る。
立ち上がって俺が挨拶をしようと口を開いた時だった。

優斗「失礼致します。社長の宮本優斗と申します。
早速ですが長野様にはお礼を言わなければなりませんね。この度は本当にありがとうございました」

突然社長に頭を下げられて、俺は目を丸くした。
社長にお礼を言われるようなことをした覚えがない。

長野「急にどうしたんですか?私とは今日が初対面ですよね?」

彼は顔を上げるとお礼の理由を教えてくれた。

優斗「先日、駅のホームで妊婦の女性を助けられたでしょう?それが私の妻、奈緒だったのです」

長野「ええ?そうだったんですか?」

俺は思わず声を上げた。
聞くと、彼女はあの後無事に女の子を出産したらしい。今は入院中だという。
社長は彼女から駅のホームで人に助けてもらったことを知り、病院で俺の連絡先を聞いたらしい。
そこで面接をドタキャンした人物と同じだと分かり、慌てて連絡してくれたのだという。

優斗「長野さん、経歴も申し分ないですし、お会いしてお話伺いたかったんですよ。是非、今までの成果と志望理由についてお話を聞かせて頂けますか?」

社長の気さくで明るい人柄に、俺も緊張せずに話をすることができた。
これまでどんな仕事をしてきたのか。
これからも商品を沢山企画して、親子を笑顔にさせていきたいという熱い思いを伝えた。
面接を終えた後、社長はにっこりと微笑んで

優斗「長野さんのような、仕事に熱い方を探していたんですよ!若い会社で経験者が不足していた所なんです。是非、うちで働いて頂けませんか?」

その場で採用を伝えてくれた。

長野「本当ですか?是非、ここで働かせてください!ありがとうございます!」

社長と俺はお互いに笑顔を浮かべながら握手を交わした。

7.エンディング620文字

この会社で働き始めて一ケ月が経とうしていた今日、
奈緒さんが俺に会いに会社にやって来た。

奈緒「その節はどうもありがとうございました。お陰様で私も優和も元気です」

そう言って赤ちゃんを見せに来てくれたのだ。

長野「優和ちゃんなんて可愛い名前ですね!2人とも元気そうで良かった」

勇気「おじさん!この前はありがとう!」

勇気君も大きな声でお礼を言ってくれた。
俺は彼女達の元気な姿を見て心が温かい気持ちでいっぱいになった。

社員A「長野さん!お取込み中すみません。この企画書のことで聞きたいことがあって……」

長野「分かった!今行く!
それじゃあ、奈緒さんに勇気君に優和ちゃん、また今度!」

俺は彼女達に手を振ると社員達の輪の中に入った。
前職よりも給料は下がったけれど、こんな風に頼られながら仕事をするのは楽しい。
窓際社員として、毎日死んだように会社に通っていた日々が嘘みたいだ。
由美や真美からも最近若返ったんじゃないの?と言われるぐらいに毎日充実している。
小さな会社だったが、着実に売り上げを伸ばし、これから大きなオフィスに移転する予定だ。
これからこの会社はもっと大きくなるだろう。
それにしても、あの時、勇気を出して彼女を助けることができて良かったなと改めて思う。
こんな風に巡り巡って、運命を良い方向に導いてくれた。
やっぱり神様はきちんと見ていてくれているのだなあ、なんて思った。
折角運命が変わったんだ、神様に失望されないよう
この会社で一生懸命頑張っていこう!
俺はそう心に強く誓った。

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