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【19才のシルバーリング】第5話 ~涙の獅子座流星群編~

【獅子座流星群】というものが初めて大きく騒がれた年だった。

学校の友達たちの間でも、

ミンナどこで見る~!とか

誰と見に行く~とか大盛りあがり!

ある種のビッグイベントだったわけ。

私はもちろん大好きな彼氏の翔と見に行く約束をしてた。

門限はなかったものの、ものすごく厳しいお家で育った私は

夜中の外出なんてバレたら大変!

『夜中の2時に○○ね!』

ってこっそり会う約束をした。

すんごく寒かったのを覚えてる。

私は夜中の2時にこっそり家を出た。

翔が自転車で1時間近くかけて来てくれるから

寒くないように、翔の分の【ホッカイロ】もあたためておいた。

防寒対策バッチリで完全装備で待ち合わせ場所に向かった。

風をさえぎるウィンドブレーカーの大きな前ポケットには

・翔の分の手袋

・翔の分のカイロ

・翔の分のニット帽

・翔の分のあったかい飲み物

お腹がパンパンに膨らんでる人だったけど、

そんなこと恥ずかしくもなんともなかった。

自分のことよりも、翔が寒くないように・・・ばかり考えてた。

それが、2時を過ぎても翔の姿はない。

しばらくはウロウロしたりしてたんだけど、

変な車が何度も往復して、見てきて怖いから

コンビニに入った。

そしたら、お腹のポッケがパンパンだったから

万引き犯に疑われてか、店長にあとをつけまわされるものだから

仕方なく店を出て、怖かったから家の前まで戻った。

《翔、なにやってるんだろ??》

ただ遅れてるだけとは思えなかった。

なんかあったんじゃないかってすごく心配になった。

だって、こんなの初めてだったから。

今までこんなこと1度もなかったから。

当時、翔は携帯電話というものを持ってなかったから

ポケベル(なつかしい)でしか連絡をとる手段はなかった。

私の友達でもある翔の親友たちに連絡して聞いてみた。

彼らとはしょっちゅう一緒だったから、

その日も一緒にいるんじゃないかって思った

…というより、思いたかったから。

『あれ?翔?じゅりサンと一緒じゃないの??』

逆に聞かれてしまった。

『え?一緒にいないの??約束してたんだけど来ないの、どうしよう、何かあったのかな?』

『約束してるなら、大丈夫だよ♪俺もみんなに聞いたり調べてみるよ!』

『ありがとう・・・』

『そーんなに心配しなくたって大丈夫だよ!
 あいつはじゅりサンにゾッコンなんだから!!自信持ってよ!!』

あっけらかんと笑って話してくれた友達のおかげで少しだけ冷静に戻った。

その後連絡をくれた友達によると、

自転車がないから出掛けてはいるみたい。

“どこに行ったの?浮気?まさか翔がそんなことするはずない”

“事故ってナイよね??”

どうしよう・・・どうしよう・・・

《イマ、ドコニイルノ??》

《シンパイダカラレンラクシテ》

《ナンカアッタノ?ダイジョウブ??》

《トリアエズレンラクシテ》

《マッテルカラ・・・》

何通ポケベルをうったんだろう。。。

あんなに楽しみにしていた【獅子座流星群】どころじゃない。

時計は4時を回ってたかな。

しばらく一人で【獅子座流星群】ってヤツを

見てるんだか見てないんだかわかんない感じで

ボーっと眺めてた。

一人で見てたって涙でぼやけたりして

ちっともキレイじゃなかった。

バレないように、そーっと家に入った。

次の日は学校だったから

もう寝なきゃいけない時間なのに眠れなかった。

枕が涙でびしょびしょで冷たかった。

そんな時、ケータイが鳴った。

━━━━━━公衆電話━━━━━━

無視しようと思ったけど、

なんとなく、出てみようという気になった。

『じゅり、マジごめん!今どこにいる!?』

息を切らせながら話してたのは、翔だった。

『・・・どうしたの?ベル見た?ずっと待ってたんだよ。。。
純くんたちもみんな心配してくれてたんだよ?』

翔『もう着くから、出てこれる!?その時説明するから!!!』

切羽詰まった翔の声を聞いて

さっきの、完全防寒装備に着替えて

待ち合わせしてた場所に行った。

翔は息をきらせながら急いで私のところに来て、ギュッて抱きしめた。

『ずっと待っててくれたの?』

冷えたあたしの体に触れてわかったのかな。

『あたりまえでしょ!!』

『もー、ずっと待ってたんだよ?どうしたの~?心配したんだからー!!!
  レンラクくらいちゃんとしてよね!』

と、私が言うと

『違う、マジごめん。』

翔はうつむいて、何度も何度もそればかり繰り返し言ってるから

『もう、いいよ♪』って言いながら

翔のために持ってきた帽子と手袋とマフラーを装着させて、

『ほら~、せっかくあっためてたのに冷たくなっちゃったじゃん!』

って、冷めかけたホッカイロを渡したら

泣いてしまった。

こっちがビックリした!

だって、翔は泣かない人だったから

初めて翔の泣いた姿を見たから。

『なんで、じゅりはそんなに優しいの??』

と泣きながら言う。

『だって、寒かったら翔がかわいそうでしょ?普通のことじゃない?』

と私が言うと翔は

『俺、じゅりにホントに申し訳ないことした。』

と、泣きじゃくっていた。

『なにしたの??』

私は遅れた理由を聞いてみることにした。

『実はバイト先の子にさっき告られたんだ。』

頭が追いつかない。

『え?なんで?今まで一緒にいたってこと??』

『うん。じゅりと約束する前に獅子座流星群見に行こうって誘われてたのを忘れてて。』

なんで?彼女がいるって知らないのかな…

『で、行ったんだ。。。』

『前からそんな感じのこと言われてて、ずっとそのままになってたけど
  ちゃんとじゅりと付き合ったこと言わなきゃと思って、迷ったけど行った。』

家にもラブレターよく届いてたの知ってるし(オープンだったからね)

その子からハート付きでベルが入って来てたのも知ってた(オープンだったからね)

でも本人がその気ないの知ってたから、

ちっとも気になんてしてなかった。

『付き合って欲しいって言われたから、
  彼女がいて、彼女と流星群見る約束してて今もずっと待ってるから
  行かなきゃって、付き合えないからごめんって言ってきた。』

『だったら、最初からそう言ってくれれば良かったじゃん・・・』

その子とは、私と出会う前から知り合いだった。

両方と約束しちゃったことに後から気がついて

言い出せなかったらしい。

でも、

『その子と一緒にいる間もずっと落ち着かなくて
  じゅりに早く会いたくって、獅子座流星群なんて見られなかった。』

って言ってた。

『じゅりに悪くて、もう合わせる顔がない。』

と、泣きじゃくっていた。

『それだけ?なんかした??』

『なんにもしてない!誓ってしてない!』

『チュウもしなかった?』

『してない!』

『手もつないでない??』

『つないでない!』

『・・・だったらもういいよ。途中で私を思い出して来てくれたんでしょ?それだけで充分だよ。』

『え?だって俺、約束守れなかったし…許してくれるの??』

『おかえり♪』

私は大人の男があんなに号泣する姿を初めて見た。

鼻水が地面についてたんだよ。

ふだんなら爆笑な話だけど、

嗚咽を漏らして泣いてる彼を見て、逆に愛しくなった。

その子と一緒に居た時、

なんか違うって思って

私への想いを再確認できたって言ってた。

じゅりじゃなきゃ嫌だって言ってた。

さっき息を切らせて会った時よりも

もっともっと強く

ギュッて抱きしめてくれた。

苦しいくらいに抱きしめてくれた。

『もうどこにも行かないから!』

翔は号泣したままずっと私を離さなかった。

私も一緒に泣いた。

今までだってずっと大事にしててくれたのに、

翔の私に対する愛は更に深まったし

もっともっと大事にしてくれるようになったんだ。

『愛してる。』

涙がだんだん笑顔に変わって一緒に混ざって、そんな言葉が飛び交ってた。

獅子座流星群なんかより、ずっとキレイな涙が流れていた。



#創作大賞2024 #恋愛小説部門

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