食べていく
今日は夕飯にシチューを食べた。
具材をごろごろに切り、ぐつぐつ煮込んだ。
ルーはレトルトだが、温かくて美味しかった。
シチューはゆみこと食べた。
ゆみこは久しぶりに私の家に遊びにきた友達だ。
ゆみこと会うのは実に2年ぶりだった。
LINEやInstagramでちょくちょくお互いの近況は知ってたし、たまに話したりもしていたが、なかなか会う機会はなかった。
学生の頃は、よく私の家でななとまゆと一緒に来て遊んでいた。
ななとまゆも、最近は会っていない。
ななはIT企業に就職して忙しそうだし、まゆは大阪にいて、東京にいると物理的にも会うのは難しい。
久しぶりに会ったゆみことシチューを食べていると、ふとゆみこがつぶやいた。
「明日、仕事やめようと思う」
私は少し驚いた。ゆみこは紳士服の営業だった。ゆみこに仕事のことを尋ねると「うん、楽しくやってるよ」とか、「営業ってやっぱ私向いてるんだと思う」ということばかり口にしていて、ゆみこは仕事が嫌なそぶりを見せていなかったからだ。
急にどうしたの?と私が尋ねると、「やりたいことができた」と話す。
「私、ずっと思ってたんだ。まりなの姿見てて、好きなことやってるの、羨ましいなって。まゆも夢追いかけて大阪行って。私、今の仕事は楽しいけど、たまに虚しくなるんだ。誰が作ったかわからないスーツを、さも自分のもののように売って。私は何にも関わってないのにね。そんな風に思っちゃうのも嫌だった。好きな仕事だし文句もないけど、やりたいことやりたいよ、私。夢追いかけたい。若いんだもん。」
ゆみこの本音だった。
正直、私にはゆみこの気持ちはわからなかった。私は今たしかに好きなことをやって生きているが、とにかく金がない。できることなら、普通に就職したかった。普通の仕事が苦痛でなくて、稼ぎがあって、続けられるならばそれをしながら好きなことをしてもいいんじゃないかと思っている。
「でも、このシチュー、私の器で食べたらもっと美味しいと思うよ?」
ゆみこは陶芸家を夢見ていた。
意外にもゆみこの意思は固く、私の正論(?)はゆみこには届かないようだった。仕事をやめるのも山奥の師匠の元に弟子入りしたいだの、それなりの理由があるようだった。
決めた人間に何かを言っても、聞きやしない。
それは、私が身をもってわかっていた。
「次会う時は、私の器でシチュー食べようよ」
私はうん、とだけ伝えた。
人生、綺麗事だけでは食べてはいけないけれど、まずいものを食べるよりも、美味しいものを食べて生きていきたいよな、と思った。
思っただけで、ゆみこのような友達などいないし、今日シチュー食ってねえけどな
グァ グァー グ