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なぜ缶詰工場を作ろうと思ったのか その2

 2月の初めの日本では、コロナウイルスというのは、ダイヤモンド・プリンセスの船内にかろうじて留まっていて、まさか今のように世界的に蔓延するとは、私には想像も出来なかった。2月28日のツイッターにはこう書いてある「こういう時こそ店は続けるべきだと思います。コロナウイルス対策をしながら出来るだけ営業を続けます」とある。イタリアやイギリスで感染が拡大し、都市は封鎖され、死者が増え始めた。日本ではマスクの買占めが始まり、それがトイレットペーパーに飛び火し、やがてドラックストアでは様々な紙製品が消えていった。苦々しい思いでそんな光景を眺めながら、コミュニティを保とうと思っていた。そう、こういう時だから。

 武漢では都市が封鎖され、工場生産や交通が止まったので、中国の大気汚染が激減した、という記事を3月1日にリツイートした。ベネチアの水路にイルカが戻ってきたと報道されたのもこの頃のような気がする。そして3月2日に全国の小中学校が休校になった。今思えば、3月は踊り場のような時だった。じわじわと迫ってくるコロナの脅威に、出来るだけ冷静でいようと思い、わざと日常を崩さずに生活していた。実際、若者はコロナウイルスを気にせず普通に来店し、店の売り上げにはさほど影響がなかった。無症状の若者が感染を広めているという批判がぽつぽつと報じられるようになったのもこのころか。

 緊急事態宣言を出すべきだ、という声が3月も半ばを過ぎると聞こえるようになってきた。そうなると東京も、ロンドンやニューヨークのようにロックダウンされ、外出も出来なくなるのではないかという恐れが、じんわりと沁みてきた3月26日に「レトルト食品が棚から消えている。原価の500円で販売します」と呟いた。スーパーには人が山のように押し寄せ、奪うように保存食品を買う様は、マスクやトイレットペーパーの買占めにうんざりしていた私にとって、なんとも嫌な光景だった。皮肉なことに、店には山のようにレトルトカレーがあったので、こういう時に出来ることとして、原価での販売を決めた。

 これに共鳴してくださる方は多く、リツイートやいいね、をポチッとしてくれるだけでなく、実際に注文してくれる方が大勢いらした。儲からないのだが、人が反応してくれるというのは、とても嬉しいことで、せっせと梱包し発送をした。ちなみに、3月28日には「雪がどかどか降っている」とある。今年の春、満開の桜に雪が降り積もったあの奇妙な(不吉な)景色を見た方はどれくらいいるのだろうか。

 毎日と言っていいくらい、この時期は心が揺らめいていた。3月の末になると、さすがに客足も減っていき、まばらなカウンターを眺めながら、これは引き時かもしれないなと思い、斎藤さんとも相談し、4月1日に自主的に一時休業を決めた。この休業にも多くの賛同の声を頂いた「英断です」という過分な誉め言葉も頂戴した。ちなみにこの時期は、なんの保障も決まっていなかった。東京都からの休業協力金も、政府が出した持続化給付金も、まったく見えてはいなかった。一世帯に35万円支給する、という政府の方針があったのだが、後に公明党の反対で一人につき10万円の給付する方針に、4月20日の閣議で決定された。

 店の休業と同時に、心配してくださった方々からレトルトの注文が殺到した。応援のメッセージとともにくださる注文は、ありがたく、またとてもうれしいものであった。ここまで気にしてくれる方がいるとは思ってもみなかった、というのが正直な気持ちだった。

続く

続く


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高円寺にある古本屋と居酒屋がいっしょになった店、コクテイル書房を営んでいます。文学をテーマにしたおつまみやお酒を提供しています。店の外には本の交換が出来る「まちのほんだな」があり、お金を介さずに本を手に入れることが出来ます。2月9日には文学カレー「漱石」をレトルトで発売します。