なぜ缶詰工場を作ろうと思ったのか その3

 休業中は判で押したような、規則正しい生活をしていた。6時か7時には起床、子供と二人で体操をし(腹筋やスクワットなど)、朝食を取り(だいたいうどんと決まっています)、注文が来た本を倉庫から運び、それを妻が掃除をして梱包、その横で息子は勉強をし、その間に私は店で本の入力。昼もうちでいただき、午後は本の発送をし、店と倉庫の掃除や片付けをした。五時なると夕飯をまた三人で取り、私は夜の出勤。また本の入力をして、八時半になると店を出て、漆黒の高円寺の街を30分ほどかけて家路についた。ビールを一缶と赤ワインを少々飲んで、おやすみなさい。

 おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に、というような単調に日々だったが、我が家は落ち着いており、布団の中ではめでたしめでたし、とつぶやくような時間が流れていた。

 とはいえ、飲食店から得られる収入はなく、店は在庫の本を置く場所となっていたが、倉庫として考えるには家賃は高すぎた。落ち着いて危機に対処出来る状態になっていたのかもしれない。本の入力をしながら、ラジオ替わりに聞いていたのがYou tubeで「ウイズコロナ 飲食店」とか「アフターコロナ 飲食店」などと検索しては、同じような状況で苦悩する飲食店経営者の話を聞いていた。

 多くの方が「この事態は長期化する」と予想していた。飲食店経営者ではないが、星野リゾートの社長は「1年半はかかる」と言っていた。今後の取るべき方策としては「飲食店以外での収入を得る」「ネットで販売できる商品をつくる」「テイクアウトに力を入れる」という意見が多くあった。皮肉なことに、うちの店では「本の販売をし=飲食店以外の収入」「古本とレトルトをネットで販売しており=ネット通販の勧め」をすでにやっていた。レトルトを売ることも広い意味ではテイクアウトと言えるかもしれない。

 売り上げや利益の規模はともかく、多くの飲食店経営者が語る「アフターコロナの飲食店」の姿が、偶然だがうちの店では実現出来ていたのだった。そして、そのアフターコロナの飲食店が、大して儲からないことも知っていた。語られている「形」はすでに過去で、語られていない飲食店の「形」を作らないと、生き残ることは出来ないと思った。ここで「レトルトを自分の店で作る」というアイデアが閃いたのだった。

続く

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高円寺にある古本屋と居酒屋がいっしょになった店、コクテイル書房を営んでいます。文学をテーマにしたおつまみやお酒を提供しています。店の外には本の交換が出来る「まちのほんだな」があり、お金を介さずに本を手に入れることが出来ます。2月9日には文学カレー「漱石」をレトルトで発売します。
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