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海産物解体備忘録(3)

生命を剥奪した魚たち


ヒラマサ
 なんか戦国武将みたいな名前しとる。
 2300円で買ったら8食分取れた。
 買う時は正直ブリじゃんお前と思って、開いたら全く違った……
 何だろうこの……白身っぽい?劣化は遅そう。
 味はブリよりすきかもしれない。
 マリネにしたら異常に美味しかった。
 これでブリ御三家は残るはカンパチだけ。


マサバ
 そういえば今まで買ったことなかったな……と思って買ってみた。
 800円で肉が900g取れた、国産鶏もも肉より安い。
捌きやすいし安い……が、血抜き処理を駆使しないとくさすぎる。
 その日上がった鯖でも独特の生臭いサバ臭がする。
 鯖の生き腐れってこれかあ……
 しかしサバ臭の対処を覚えると冷凍もできる。
 解答したら塩を入れて湯引きするだけ。
 アニサキスがいると聞くが発見したことが一回もない。
 そういえばブリも結構捌いたが線虫に出会ったことがない。
 目黒寄生虫博物館もなぜか上京するたびにタイミングが合わなくて行けていない。
 昔ギョウチュウ検査に引っかかって虫下しを飲んでから、寄生虫とはあまり縁がない気がする。


ジンドウイカ
 ヒイカの方を標準和名かと思っていた。
 丸ごと食えるらしいが何と無く不安で全部捌いて胴とゲソだけにしてしまった。
 どれだけ火を入れても柔らかいフニャイカ。
 揚げ物にすると冒涜的にまずかったが、逆に煮つけると非常に美味しい。
 洋食が好きなので全部オリーブオイルで煮た。
 食えたはいいが、下処理の正解全くわからないので調べても、みんな好き勝手捌いているとしかわからない。
 多分好みの領域なのだろう。
 食べ比べたら良さそうだがなかなか時間がない。


カタクチイワシ
 マイワシを買ったらなんと1匹だけ混ざっていた。
 見れば見るほど、そのまんま巨大化した煮干しの姿をしている。
 オリーブオイルで焼いて食べてみたが……これは……煮干し?
 煮干しは煮られなくても干されなくても煮干しの味がすることがわかった。


クロダイ
 くせえ
 チヌはくさいというのは聞いていたが、くせえ。
 なんだろうこの……腐敗臭ではなく、自宅に岩礁を移設したような臭気。
 家中のゴキブリがフナムシになってもおかしくはない。
 ウロコが臭いのかと思って剥がしたら、岩礁が拡大した。
 この生き物は皮が臭いのか。
 磯臭自体には慣れているのでまあ食えるだろうと、皮をひいたら無臭になってしまった。
 何だかそれはそれでガッカリ感がある。
 引かれた皮の方からは濃厚な海岸の漂着物臭が漂っている。

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マダイ(刺身)
 タイは三角骨というが、言われてできたら苦労しねえ。
 腹骨が全く外れない。
 頭も落ちない、というか自分は上から体重をかける動作がめちゃくちゃ下手で危ないのでやりたくない。
 お作りの如く頭を残したまま身を剥がす。
 お腹の部分以外は取れたがへたくそ。
 もったいなので残った身をそぎ落として、アラで取った出汁と米ぶち込んで炊いた。
 あら汁を取るのがやたら下手で滅多に成功しないのだが、初めて「全部消費する」に成功した気がする。
 あと卵が出てきたのでそれも食べた。
 この個体、私が買うまでは生存していた。
 25cmぐらいの彼女は1000円と引き換えに刺身になった。
 この立派な生き物の命は、講談社学術文庫より軽いのだ。


チダイ
 ついにマダイとチダイとキダイの区別がつくようになってしまった……
 解体する上ではあんまり変わらないと思う。
 というか味も変わらないと思う。うまい。


クロウシノシタ(n回目)
 家族が好きで、剥くから食べたい!というので買ってきた。
 頭を落としてパスする。
 今まで両面剥いてから三枚おろしにしていたのだが、動画を調べたところフランス人が骨つきでムニエルにしていたのでやってみた。
 結論から言うとこの方が食うところが多くて良い。
 中骨がないので食いやすい。
 おまけにクロウシノシタの骨は、ご丁寧に全部先が丸いので全く刺さらない。
 ついでに冷凍にも強いことがわかった。


シマウシノシタ
 家族が好きで以下略。
 クロウシノシタとの勝手の違いに大苦戦していたので助け舟を出したりした。
 私は魚の解体は一応15の時からチマチマやっていたが、頻度が少なかったのでそんなに腕がいい訳ではない。
 が、家族はまず調理の経験がない。
 私が全部セッティングした方がいいのだが、それでは教えたことにならないので頑張って剥いてもらう。
 最終的には、私がいなくなっても好物のウシノシタのムニエルを作れるようになっていただきたい。

マルアジ
 ついにマアジとマルアジの区別がつくようになってしまった。
 加熱用が激安で、25cmぐらいのマルアジが1匹60円ほどだった。鶏胸肉を下回る。
 鱗が多くて面倒だが身を剥がす場合の感触は体感マアジと全然変わらない。
 味は正直マアジの方が美味しいと思う。
 塩焼きにするとあんまり美味しくない。
 アジフライにするか、ローズマリーをブスブス刺してオリーブオイルで焼くと美味しい。

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コウイカ
 初めて買ってみた。
 なんもわからねえ。
 洗ってるうちに墨全部吐くなんて聞いてないぞ、墨袋が空じゃねーか……イカスミ食べたかった……
 薄皮剥がれねえ、助けてくれ。
 つぶらな瞳がこっちをみている。かわいい。
 私は海の柔らかい体の生き物が可愛くて大好きなのだが、都合の悪いことに、母がこれが死ぬほどダメなのだ。食べるのは平気なくせに、見るのは気持ち悪くて無理らしい。
 硬い部位ならよかろうと、コウイカの甲を引っこ抜いて別の部屋に干しておいたら悲鳴が聞こえた。コウイカが苦手なくせに、コウイカの甲を瞬時に鑑別出来るとは、難儀なことである。
 後で見に行ったら見当たらなかったので捨てられたかと思ったが、私の化粧台の上に投げ捨てられていた。確かに、マキアージュとフローフシの間に置いておけば、なんかの道具に見えなくもない。
 そんなこんなで開くところまでやったが、コウイカの食べ方が全くわからない。
 明日何も思いつかなかったら冷凍しよう……


ボラ
 安かったので買ったら目の前で首が折られた。
 「ボラの首って、素手で折れるんだ。」
 大出血するボラがそのままコンビニのビニール袋に突っ込まれた。血でタプタプのビニール袋を間に合わせに二重にしたが、これは設備を用意して買うべきであった。車に放血された日には膝から崩れ落ちてしまう。
 ボラ自体は、取れた場所がいいのか全くくさくない。ちょっとガッカリ。
 魚体がでかいからか鱗がクソ剥がしにくい。しかもまだ痙攣してる。
 ボラのヘソも初めて見たが、内臓類を食わない食習慣が身に付いてしまっているので同居人に押し付けた。
 そして頭を落として三枚に剥がそうとしたら、めちゃくちゃ動いて驚いた。不思議な光景だ、頭も臓器もないのに筋肉だけが動く。
 見てる分にはいいが、指先に伝わってくる感触は生命の躍動そのものなので、ものすごくびっくりする。ペットのカメを手に乗せている時、ペットの鶏を抱っこしている時、誰かと握手した時、そういう時に伝わってくる筋肉の運動そのものの感触に包丁を入れることになる。生きた魚には慣れていないので、流石にちょっと躊躇する。古い人々も、こうしたことから幽霊やゾンビを見出したのだろう。
 そういえば、現代でも、魚の筋組織を「しめたばかりの魚の肉は生きているので寝かせる」と表現する人が結構いる。これが非常に興味深い。生物としての魚と、過食部としての魚肉に、ふたつ生命が発生している。
 これは動物肉に関わる人々の、結構重要な死生観かもしれないと、ふと思った。表現上、自ら生命を剥奪した動物が、死骸ではなく、食材という別の生き物に転換したと捉えられている。
 生鮮食品の管理というのは大変な手間である。なんでも殺せば食えるという訳ではない。鮮度管理はしばしば「世話をする」とも例えられ、やはりここでも生命として扱われている。人間の愛着能力の強固さには毎度驚かされる。
 この場合、腐敗して食えなくなること、あるいは、我々の口の中に入ることが、本当の死なのだろう。魚は元の姿なくさしみの短冊になっても、食べられる限り生き続けている……と言えなくもないかもしれない……
 
 ……で、肝心のボラは、刺身にしたがなんかピンとこないのでカルパッチョにした。オリーブオイルとレモン汁をかけ、胡椒を強めに引いて塩とバジルをかける。
 生魚は刺身よりこれの方が好きかもしれない

あまり究極じゃない血抜きするアレ

 ダイソーで材料が揃うらしいのでやってみた。
 詳しく知りたい人は「究極の血抜き ダイソー」とかでググってくれ。

ジャジャーン!工具ほぼ不要!
握力18kgでもカッターナイフとヤスリで作れる、動脈に刺して血抜きするアレ!
材料:ダイソーの霧吹きスプレーノズル、化粧水用のポンプについてくる針
工具:カッターナイフヤスリ400番
1、ノズルの先端をパッキンどめまで切り落とす
2、注入ポンプの根元を張りのところまで切り落としてヤスる
3、針を噛ませてプラノズルを無理矢理締める
完成!!!!

なお肝心のホースがない模様。

だが、体感魚の尻尾から水をブッコムだけでかなり違う。
私の体感だと、死魚でも全く違う。刺身を食いたい人は絶対やった方がお得だと思う。材料費200円だし。

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