今はもうない、好きだったあの店

その店は百合ヶ丘からさらにバスに乗って10分ほど、なんでこんなところに?というような住宅街にあった。たまたま何かで見つけ気になっていたので、イタリアンが好きな僕は早速訪れた。そして、とても気に入ったのでまた再訪したのだ。今回先客は若い男性1人。その先客もほどにすぐ帰り、その後の来客はなかった。
混んでいる時はかなり時間がかかるとのことわりがあるが、今日は待たされることなく、頼んだものは次から次へと出てきた。
薄くカットされた、口の中で溶ける生ハム、ビールに合うホクホクのひよこ豆のフリット。味付けはシンプルでいろんな貝の旨味たっぷりの蒸し物。
大きな石窯で焼いた自家製サルシッチャとモッツァレラのピザ、これも自家製パンチェッタのカルボナーラ。もちろん生クリームは使っていない。
カルボナーラで思い出したが、子供の頃、スパゲティといえばナポリタンしか知らない頃、テレビでカルボナーラを初めて見て、いつか食べたいと思った。
そして近所の小さなレストランでメニューにカルボナーラの文字を見つけ、迷うことなく頼んだ。すごく楽しみにしていると、出てきたものは卵に火が入りすぎて炒り卵になっていた。そして何故か玉ねぎも入っている。テレビで見たものとは全然違う。食べてみても、なんだかボソボソした焼きそばみたいな感じだった。「これはカルボナーラじゃない。ソボロナーラだ」と子供心に思った。
それからカルボナーラへの探求が始まった。
しばらくは生クリームが入っているものがカルボナーラだと思っていたが、イタリアでは卵とチーズのみで生クリームは入れないらしい。生クリームを入れるのはアメリカで、入れるとより濃厚になり、卵も固まりにくい、というのが理由らしい。そして本場はベーコンではなくパンチェッタがグアンチャーレ。。。。

話が逸れてしまった。

イタリアンといえば、ざっくりとイタリアの料理、というイメージしかなかったのだが、ここのシェフはシチリアの港町で修行をしていたらしく、素材の味を生かしている。そして自分にはこのシチリア料理がとてもしっくりきた。
2度目の訪問となる、今日も美味しかった。店は町の食堂といった感じでゆったりとしている。
ただ以前訪問した時には居た、サービス担当の女の子がいない。なのでまだ若いだろうシェフひとりで切り盛りしている。きっといい人なのだと思うが、サービスは、ぶっきらぼう。
場所は駅からだいぶ離れていて、住宅街の静かなところにあり、今日は雨だったということもあって、これで活気があったらもっと印象は違うのだろうと思う。でもそんなところも含めてこの店は好きだ。応援したいと思っていた。
帰りはシェフがお店の外まで見送ってくれた。「今日も美味しかったです」と伝えると、はにかんだように笑った。 


その後この店は閉店してしまった。Facebookだけは残っていたので、しばらくしたら自由が丘に開店するとの情報があり。しかしその店もまたすぐ閉店してしまった。。あの若い店主はとても不器用そうだった。。でもだからこそ飾り気のない素直な料理が作れたんだろうな。
また食べたいな。
その店の名は「urugus」という名だった。

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