正統派演奏と技巧派演奏

こんにちは。

今回はマリメ演奏について、私の考え方のひとつをご紹介しようと思います。すごくマニアックでコアで難しい話になってしまいますが、興味ある方は見ていってください。

それではいきましょう




定義

○導入

演奏コンテストの結果発表を見てくれた方は覚えているかもしれませんが、こんなことを言いました。

「Mαiさんの演奏って現代の『正統派演奏』って言うのかわかんないけど、なんか終着点というか結論な感じがするんですよね」


何を言ってるんでしょうか

私もよくわかりません

伝わらないだろうな〜とは思いつつ、これ撮った当時は上手い表現が見当たらなくて、何と言ったらいいか…という感じでした。

その結果案の定あんま伝わってなかったので、改めてじっくり考えながら文字に起こしてみようかなと思います。



まず、画面が進むことで音符が読み込まれ音楽が鳴る演奏(私が『スクロール演奏』と呼ぶもの)についてですが

スクロール演奏は、制作する上でどこに力を入れるかという点で大きく2つに分けられると考えています。

それが、正統派演奏技巧派演奏です。

この言葉は私が勝手に作った言葉なので、よそで言っても何にも通じません(通じないのに結果発表のときいきなり正統派演奏とか言うから訳わかんないことになるんですが)。

それぞれ、制作する上でどこに力を入れるかが大きく違います。例をお借りしながら説明しようと思います。


ただし、先に断っておきますが、どちらが優れていると言いたい訳ではありません。どちらも優れています。優れているベクトルの違いを説明するものだと思ってください。



○正統派演奏

これは「音楽的な要素」に力を入れた演奏のことです。

具体的には
・音色のバランス
・音の密度
・展開や抑揚のつけかた  など。

どのように音や雰囲気を作ってどういう表現をしていくか、を追究するのが正統派演奏です。


例えば今回のコンテストで言うと、先述の通りMαiさんの『残酷な天使のテーゼ』。それからまよねぇづさんの『星喫茶店』などが該当します。

音色やオトアソビで「音楽として」の魅力をつくる。これを正統派演奏と呼んでいます。



○技巧派演奏

これは「技術的な要素」に力を入れた演奏のことです。正統派演奏との対比となっていますが、決して邪道と言いたい訳ではありません。

具体的には
・パーツ節約
・尺延長  など。

1コースという限られた空間でどこまで音が出せるのか、を追究するのが技巧派演奏です。


例えば今回のコンテストで言うと、あっきくんの『盗作』、ましろさんの『チチンプイプイ』などが該当します。

節約などの技術で「1コースとして」の魅力をつくる。これを技巧派演奏と呼んでいます。




正統派演奏の終着点

では正統派演奏を突き詰めると、どのような演奏に収束するのでしょうか。

これに関しては、答えは無数にあると思います。無数に用意できる、と言ったほうが正確かもしれません。

例えば、何度も例に出すようで悪いですがMαiさん。どんな音色で、どのくらいの密度で敷けば、どんな演奏になるのか、感覚的に理解している。今回のテーゼもそうですが、『パリプロムナード』とかと比べて聴くと、同じMαiさんでもまた雰囲気が違ってわかりやすいと思います。こういう曲にはこういう演奏を、という答えが、本人の中で出ている。それが、結果発表のとき「正統派演奏」という言葉を通じて言わんとしていたことでした。

しかし先ほども言った通り、正統派演奏の答えは無数にあります。今言ったのは「Mαiさんの答え」です。

さらに例をあげるならAnnieさん。Annieさんもどちらかと言えば正統派演奏の方だと思っています(『又三郎』『八月、某、月明かり』あたりではかなり技巧派なこともこなしてますが)。Mαiさんの演奏とは明らかに雰囲気が違うと思います。題材曲の違い等はあれど、仮に2人が同じ題材曲を扱っても、似たような演奏にはならないと思います。もちろん2人とも音程やリズムは正確に捉えた上で、音色や抑揚で各々の個性を出してくる。つまりAnnieさんも、Mαiさんとはまた別の「Annieさんの答え」を持っている訳です。

このように答えが1つに定まらないのは必然的なことです。なぜなら、先述の通り正統派演奏は「音楽」として演奏を追究しているからです。

音楽の表現に正解はありません。この人の作風が好き、あの人の作風が好き、その判断は作り手と聴き手の感性に問われる側面があります。

正統派演奏の結論としては、音程やリズムを正しく捉えてさえいれば、そこからは作者の個性が出るところであり、ただ1つの終着点は存在しない、ということです。


しかしこれに対して、技巧派演奏の終着点については、暴論を言えば存在すると思っています。



技巧派演奏の終着点

正統派演奏の終着点は無数にあると言いました。では技巧派演奏は、突き詰めるとどこに収束するのでしょうか。

本当に暴論ですが、私はレール演奏に収束すると思っています。

スクロール演奏の話をしていたのにレール演奏?という話ですが、まずはこう考える根拠を説明します。


今回の演奏コンテストで、私Cobaltは『Hello World!』を提出しました。結果発表の中では「スクロール演奏からレール演奏に移行したら面白そうだったから作った」という旨の話をしました。

この話に嘘はありません。構想自体はかなり前から思いついていたので、あとは良い題材曲と良い機会さえあればという感じでした。

ただ、現実的に見ると「そうは言ってもスクロール演奏が土台だな」と思うところはあって、レールで補える(節約できる)部分はレールを使って、それ以外は普通に音符を鳴らそうと考えていました。

『Hello World!』ならいけそう、と目処を立て、ドロップでレール節約を混ぜようと構想を練りました。その結果、ベースはレールでいい、ドラムはレールでいい、定期的に鳴るシンセサイザーみたいなのもレールでいける、と進んでいき、結局ほぼ全部レールになりました。

「スクロール演奏にレールを混ぜる」
「レールが使えるところは可能な限りレールを使う」
この2つの方針を極端に進めると、スクロール演奏だったはずがレール演奏になってしまう。これは自分の中で非常に面白い結果だったと思っています。

技術面「だけ」を意識すると、レール演奏に収束する。


ただ、実際問題はそう単純ではありません。なぜならスクロール演奏の中で、技巧派演奏に全振りしている作品は無いからです。

例えばポチさん。今回は『熱異常』を提出してくれました。後半ではレールでメロディが大きく節約されています。しかし結果発表でも言った通り、この演奏の良いところはここだけではないと思います。前半、早口パート手前を見せることで、後半への期待を高める効果がある。この展開の組み方もまた良いところです。しかし「展開」は技巧派演奏ではなく正統派演奏を定義する中で出した言葉です。つまり、一見すると技巧派演奏に見えるこの演奏にも、正統派演奏の要素が少なからず含まれている。

さらに例えればあっきくん。今回は『盗作』を提出してくれました。全体を通してレール節約が多いこちらの演奏ですが、やはり正統派演奏の要素を含んでいます。例えば音色選び。Aメロではメロディを1UPキノコで控えめに奏でているのに対し、サビではUSAキノコで強めに主張して、メリハリをつけている。いずれもキノコで挙動は同じなので、どちらか片方に統一することもできたところを、敢えてこのように使い分けていると考えられます。これはまさに正統派演奏の発想ですよね。

つまり、100%技巧派に振るとレール演奏になる、と言ってしまいましたが、実際は100%技巧派に振っているスクロール演奏など無いということです。


パーツ節約、尺延長という点だけに特化して考えた場合、行き着く先はレール演奏です。なぜならレール演奏は、立ち止まっていれば鳴る音の数も無限だし、尺の長さも無限だからです。

しかし、レール演奏でメリハリのある音使いや展開を表現するのは難しい。それはスクロール演奏だからこそ表現できる部分です。

例にあげたポチさん、あっきくんも、技術とともにそういった正統派演奏の要素をあわせもっています。


正統派要素と技巧派要素の比率によって作風に違いが生じているとも考えられます。


さて、では結局私は何が言いたいのでしょうか




考察

よくわかりません。

まず1つ言えるとすれば、スクロール演奏にただ1つ定まる答えは無いということでしょうか。レール演奏ではない時点で、展開のつけかたや音色選びなどに正統派演奏の要素が介入するという話をしました。また、正統派演奏にただ1つ定まる答えは無いという話もありました。以上を踏まえると、スクロール演奏にはただ1つ定まる答えは無いということになります。


そして私は、正統派要素と技巧派要素の比率で演奏に個性が生まれると考えています。

正統派演奏は音楽としての表現は充実していても、すぐにパーツが足りなくなってしまう。

技巧派演奏の技術でパーツ不足は解消できるけど、やりすぎるとファイアフラワーにしたかったところをキノコにせざるを得なくなったり、音楽としての表現に難が生じる恐れがある。

「パーツ制限がしんどくても音作りを優先したい!」という人は正統派要素の比率を上げればいいし、「音作りは妥協してでも音数を優先したい!」という人は技巧派要素の比率を上げればいいと思います。要は好きにしろってことですね。

結局この比率がある種の個性として作品に出ると思うので、それがまた演奏を面白くしているのではないでしょうか。


正解はありません。

それではこのへんで。最後まで読んでくださりありがとうございました。