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烙印



なぜ夜になると眠たくなるのだろう。
なぜ眠りにつくと夢をみるのだろう。
そして、その夢の殆どが明晰夢なのはどうして。

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気がつくとそこは薄暗い工業地帯だった。
もうここ数年ずっと青い空を見ていない気がする。灰色の煙や濁った湯気で、あたりいったいすっかり包み込まれてしまっていた。

わたしは茶色のようなカーキ色のような燻んだ軍服に身を包んでいた。
その周りには、わたしより一回りくらい身体の大きい人達がいて、皆同じような服をきている。
きっと同じ隊のメンバーだ。
そしてそこは自由や平和がまるで忘れ去られたような場所だった。

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さて、今回はどんな世界なのだろう。

夢の世界はきまぐれで、ふと意識の矛先を変えただけで、すぐに場面が飛んでしまう。
いちど違う時空にいってしまうと、前いた場所や時間なんてすぐに忘れて、目の前の情景に没頭してしまう。

だから、明晰夢にいるとわかった時点で、その瞬間にみえてる光景を存分に味わう。
そしてどんなことが起きようと、より良い自分であることに努める。
それが簡単ではないんだけどね。

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5人くらいで、戦火を中を移動していた。
周囲は地獄絵図のようなひどい光景にもかかわらず、仲間と共に移動しているという事実が、わたしたちにささやかな幸せを感じさせた。

わたしは最年少で、背丈も1番小さかったことから、みな子どもに語りかけるようにあたたかく話しかけてくれた。

けれどそのとき、背の高いリーダーがさっと蒼白い顔になり、「この先はお前自身でも気をつけろよ」と目で訴えたその瞬間、場面が切り替わった。

4畳半くらいの小屋の中だ。
さきほどのメンバーが小屋の中で一列に並び、その向かいに威圧的な男女が立っていた。
私たちとは違った綺麗で整った漆黒の軍服を身につけ、みたものを一瞬で萎縮させるような佇まいをしていた。

「所持品を全てこの線の中においてここに並べ」

一人一人が指示に従っていく。

わたしの番がくると、わたし以上に他のメンバー達が緊張しているのが伝わってきた。

所持品を線の中におき、並ぶべきところに行く際に、わたしはわけもなく回り道をした。

わけもなく、回り道をしたくなってしまったのだ。

進むべき方向と違うほうに足を動かし始めた瞬間、メンバー達の顔から血の気が引いたのをみたのを最後、気がつくとわたしは倒れていた。
殴られて倒れたらしい。

「お前は何歳になる?」

漆黒の軍服をきた男に聞かれる。

「15歳です」

男があごをしゃくると、そばにいた女が合図した。

わたしは取り押さえられ、胸元を露出された。
男は焼きゴテを持ち出して、わたしに見せた。

叫びたくても声にならない。
一度おされた烙印はどれくらいで消えるのだろう(そもそも消えるのだろうか)...
わたしの胸元の火傷をみてもあの人はまだ好きでいてくれるだろうか...
そんなことを咄嗟に考えながら、意識がプツッととぎれてしまった。

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目が覚めた。

まだ部屋は真っ暗で、隣には家族の寝息がきこえる。
クーラーのよく効いた四角い和室で、わたしは寝ている。

平和から程遠い世界にいた15歳の少女は、あのあとどうなったのだろう。
もしわたしの意識がその平行世界を創っているのなら、どんな続きを紡ごうか。

心臓がバクバクしながら、祈るような気持ちでまた深い眠りに落ちていった。

thank you as always for coming here!:)