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映画『一度も撃ってません』

 シジミ汁が好きな売れない作家「御前零時」は一度成功したものの、その後は鳴かず飛ばずで、気付けば高齢者のど真ん中。親子以上に年の離れた新人編集者には、「売れない」「物語じゃない」とこき下ろされる。夜になると作家は、行きつけの酒場を回り「夜は酒が連れてくる」と長年の飲み仲間とくだをまいていた。だが、そんな落ち目の作家にはある噂があった。「あの人の小説は、殺人の描写が具体的すぎるんだ。まるでその場にいたかのように」

 老獪な役者たちによる、反新時代闘争の人間賛歌。クライム?ドラマ?喜劇?阪本順治監督だからできる、ジャンルの合間を縫うような絶妙な空気感に浸れる。登場人物1人ひとりが、登場時間が短くても存在感が強い。哀愁がありながら楽しい、コメディなようでシリアスな一瞬もある。意外とゆったり見れない映画。

2020年 監督 阪本順治 主演 石橋蓮司

 事件が起きていなくても、濃密で面白い時間が続く。一つの雰囲気や価値観だけで完結するのではなく、居心地の良さに一刺しするような辛酸を混ぜているのが良い。桃井かおりさんの絡み方がベタなんだけど、それがハマりすぎてる。役も雰囲気も、進むにつれて本物の凄みがでてくる。キャストが豪華すぎるというのもあるけれど、これは日本映画じゃないと、と思わせる作品。タイトルとか予告編は、コメディ色が強すぎる気もする。

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