2019秋南京歴史紀行超初心者編(with台風と黒猫)その4
南京で「羅小黒戦記」を見る。
これまでのあらすじ:
池袋で見た中国発の黒猫アニメ「羅小黒戦記」に嵌まってしまったのに追加のチケットが売り切れで、すっかり黒猫ロスになってしまったマキノさんは、たまたま南京旅行の予定があるのをいいことに、まだ上映中の中国本土で映画を見ることを企てました。中国の映画検索アプリで調べてみると、何と宿の向かいのシネコンで上映している様子。マキノさんは、無事、黒猫映画を見ることができるのでしょうか?
予告編:
映画の予告編です。正直なところ、これだけでは、超絶キュートな黒猫が主人公らしいこと、ジブリっぽい絵柄とテーマらしいこと、アクション・シーンがあるファンタジーらしいことくらいしかわかりません。なにごとも、百聞は一見に如かずなのです。
夜の地下鉄:
さて、空港から中心市街へは地下鉄で。実は、中国に旅行するというので、「羅小黒戦記」の地下鉄シーンは目を皿のようにして予習していたのだった。本当に、改札口の手前に手荷物検査の機械と金属探知機がある。
切符売り場も大体映画みたいな感じだったが、颯爽と切符を買う筈が、入国直後で手元に高額紙幣しかなく、受け付けてもらえない。慌てて買い物して崩したら、今度は未開封のペットボトルが要注意物件だったらしく、あからさまに疑いの目でいじくり回される羽目に。無辜の海外旅行者をがっつり見張っても何も出ないから、ズルして金属探知機をすり抜ける、映画の中の「密航者」をちゃんと監視してください。
南京の地下鉄の車内は映画とはデザインが違い、通路の真ん中に手すりがあるので、戦闘シーンには不向きな感じだけれども、お互い確認しあってマナーの悪い客を注意するような場面はあった(隣のおじさんに何か熱く語られたのは、多分、そういうことだと思う)。駅の構内は広くてまっすぐで、東京の地下鉄によくある謎の段差や柱などはなく、全体に新しく、ぴかぴかしている。エスカレーターでゆっくりホームに降りていく時、思わず「ながーい車だ」と、映画の中の、主人公のこどものせりふが口をついて出た。
宿最寄りの新街口の地上は、高層ビルあり、商業施設あり、人も車もスクーターも自転車(電動が多い)も途切れることなく、ぴかぴかで、夜でも明るい。東京でいうと、大手町から日比谷・銀座あたりの雰囲気。通りの向こうにひときわ明るく光り輝いている巨大商業施設が、シネコンのあるショッピングモールらしい。徒歩5分くらいの街区ひとつ、まるまる敷地という大きさにびびり、ホテルの部屋の窓から見える建物の形と地図アプリを付き合わせ、翌日の動線を検討した。そもそも、ショッピングモールは何時に開くのか。
朝のショッピングモール:
ホテルの朝食バイキングが、これまで食べたことのない超絶美味な中華だった。これまで食べたことのないレベルの美味しさというのと、これまで食べたことのない魅力的な味の両方の意味で。普段の食生活があまり充実していないところに不意打ちされて、「うふ〜ん…!」と変な息を吐いて目が星になった。映画「羅小黒戦記」では、主人公の小黒(シャオヘイ)が美味しいものを食べては目が星になるシーンが頻出して、定番のギャグ表現ねと思いながら見ていたけれども、ごめん。美味しい中華は食べると目が星になる。
朝食をたらふく食べた後は、いよいよ映画のチケットを買う(本日最大の)ミッション。目当ての上映回は夕方だが、ここまで来て見はぐるリスクは避けなければならない。
ショッピングモールに来てみると、開館時間前にもかかわらず、出入口は平然と開いていて、誰もが当たり前の顔をして通り抜けていた。公開空地のような扱いなのかもしれない。多分都心の一等地の立地ゆえ、居並ぶ店舗はどれもこれも、とにかくありとあらゆる超有名ブランドばかりで、あまりにあっけらかんとした資本主義的万能感に、一応資本主義の国から来た人間としても少々鼻白む。各階には著名な現代芸術家によるアートワークが設置されており、そこら辺は、80年代から90年代のぶいぶい鳴らしていた当時の日本の百貨店をほのかに連想させた。最上階には美術館も入っているらしいし。
おなじみ草間彌生の水玉南瓜。
若手アーティストに作品を描いてもらうらしきスペースも。こちらは推測の余地なく哪吒ですね。それにしても、金に糸目をつけていなさそうな内装といい、その割に敷居が低い感じといい、巨大な吹き抜けといい、何だかレベル99に進化したイオンモールに来たみたいだ。戦闘シーンで破壊されればさぞかし気持ちいいに違いない(こら)。
ボックスオフィスにて:
ガラス張りの店舗の向こうで店員さんが床に掃除機をかけているのを眺めたり、バケツを持った清掃担当の人にエスカレーターで追い抜かれたりしながら、最上階マイナス1へ。レストラン街の先のゲームセンターめいた空間の奥が、映画館のボックスオフィスだった。まだ早い時間だからか、人っ子ひとりいない。カウンターの奥で、店員のお姉さんがポップコーンの機械をメンテナンスしている。
「にーはお」とお姉さんを呼び止めて、中国の映画検索アプリの画面を示しながら言ってみた。「I'd like to watch this movie. How can I buy this ticket?」
お姉さんはけげんそうな顔をした後、私を発券機の前に連れて行き、いくつか操作をして、ポップコーン作りに戻ってしまった。しまった、アプリの画面を見せたから、予約と決済は済んでいると認識されてしまったらしい。ダメ元で発券機をいじるも、当然のことながらうんともすんとも言わないので、迷惑な客と思いつつお姉さんにもう一度声をかけて、この機械ではなく現金で買いたい旨を説明する。しかし、うまく通じないらしく、自分でも機械を操作して首をかしげるお姉さん。ううう。説明が下手くそで申し訳ない。
「I am a foreigner. So I can only pay by cash. So I want to this ticket by CASH!!!」
何度目かのやり取りで「ふぉーりなー」という単語を聞き取った瞬間、お姉さんは卒然と事態を把握したらしく、レジに行き、チケット発券の操作を始めた。「17:35からの羅小黒戦記ですね」「イエス」「席はどこにします」「えーと…」お姉さんはディスプレイをぐるっと回して見せてくれた。150席ほどのハコらしいが、中央の1割程度が埋まっているだけだ。「this seat please」と真ん中あたりの良席を指差す。「70元です」と言って(正確には、私が差し出したメモ帳に書いて)、お姉さんは発券作業に入った。アプリ経由で購入すると35元くらいだから倍の値段だが、お姉さんの人件費分だから仕方ない。それでもなお、日本で見るよりは安いし。途中、機械が固まって、お姉さんがどこかに電話をかけて指示をあおいだりしつつも、無事に発券は完了した。チケットを差し出しながら、お姉さんが不意にたずねる。「Can you speak Chinese?」
「…No, I can't」
「この映画は中国の映画なんだけど」とお姉さんは続けた。「ええ、わかってます。でも大丈夫ですよ」何故なら東京で見たことがあるんです、中文字幕がついているでしょう、だから内容は理解できるんですよ、と続けたかったけれども、自分の英語力できちんと説明できる気はしなかった。なので、単にありがとうとだけ言った。「謝謝。Thank you very much!」
昼の街へ:
さてこれで、1:私がチケットをなくさず、2:時間までに映画館に戻って来て、3:無事入場ゲートを通過できれば(ハードル高いな)、めでたく3回目の「羅小黒戦記」を見られる準備が整ったので、心安んじて市内観光に繰り出した。と言っても、人混みが苦手なので、基本的には、疲れるまでひたすらほっつき歩くだけ。
映画館でひしひしと感じた中国のキャッシュレスの進展は街中でも顕著で、意識の高い博物館などは、何とかペイに対応したチケット自販機だけおいて有人窓口は閉めていることがままあり、開いているのに入れず、涙を飲んだことも(むしろ、昔ながらの対応をする観光地の方が、現金対応してもらえるので外国人旅行者にはかえって便利だったり)。一口にキャッシュレスと言っても、中国の場合は何とかペイ系の席巻著しいところに特徴があり、クレジットカードは使えないところも多いというからわざわざ銀聯対応のプリペイドカードを作って行ったのに、店員さんがカード決済のやり方を知らず支払えなかったりもした。中国の銀行口座と紐づいた何とかペイアプリの入ったスマホが無いと、旅行者は結構詰むということを身をもって実感する。映画中の某氏、スマホ水没させている場合じゃないですよ。
湖畔の公園では、凧揚げをしている人を何人か見かけた。蝶の形の小さな凧。あまり高くは上がらないけれども、風をとらえ、ひらひらハタハタと変幻自在に舞う。
「羅小黒戦記」に登場する閔先生みたいな風体のカーネルおじさん(?)。
ところで、小黒(シャオヘイ)っぽい猫に会った話はしましたっけ? 見てください、この素敵な三白眼君を。
映画館、夕方:
ということで、チケットも無くさず、時間にも遅れず、入場ゲートにも無事バーコードを読み取ってもらって場内へ。朝見た時はまだガラガラだった座席は、実際にはほとんど満席になっていた。予告編とかあったと思うけれども、このあたり、記憶が飛んで、あまり覚えていない。覚えているのは、映画のタイトルが出る前の小黒(シャオヘイ)の放浪シーン、中国版だと監督その他のクレジットが出るのねということと、会場一体になって笑いながら楽しく鑑賞したこと。
(映画本編をここに貼る訳にもいかないから、「羅小黒戦記」のMVを2つ置いておきますね。あと、映画の公式ホームページへのリンクも)
上映終了後、クレジットカード挿入口のようなものがある別の発券機を見つけて、翌日のチケットが買えないかとあれこれ試してみたが、やっぱり駄目なものは駄目だったので、映画の余韻を心に抱いて、日は暮れたけれども相変わらず賑やかな通りを渡って宿に戻った。これが、十月末の京都出町座から始まって、2か月近く経つ年末になってもなお、そして年が明けてもさらに日本国内で「羅小黒戦記」が上映され続けている今となっては、はるか遠い昔の夢のようにも思える、マキノさんの黒猫映画南京観劇記なのでした。
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