見出し画像

「鍼灸師の私にできる健康おせっかい」| 思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー

Community Nurse Company 株式会社の本社・拠点がある島根県雲南市。
雲南市では「元気になるおせっかい」を広げたいとの思いから、既にコミュニティナース的存在として活動しているまちの人を巻き込み、一緒に成果を出していきましょうとチームで動き出しています。医療職にこだわらず、お互いの強みを出し合いながら全力で議論する「地域おせっかい会議」から生まれるアクションとまちの人とのストーリーを「思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー」として連載を始めます。

私にできるおせっかい!一歩踏み出せた私のおせっかい

はじめに
地域おせっかい会議のメンバーである鍼灸師の吾郷希穂さん。
26歳の時に海外放浪旅の経験から鍼灸師を志し、国家資格を取得し、6年前に島根にお嫁に来たとのこと。「島根に来て感じることは、鍼灸になじみある人が多いなということ。じいちゃんばあちゃんたちの体験と記憶の中には、鍼灸の効果が入っているんでしょうね。」と明るく話してくださいました。

さて、吾郷さんは、地域おせっかい会議を通じて、言葉を話すのが難しくなったある利用者の方の治療の希望を叶えるため、ご家族さんに会ったり、その利用者さんに関わる医療・介護の専門職の方々に会ったりと一歩を踏み出しました。
積極的に利用者さんと関わる方たちに会うことで、どんな可能性が広がったのか?地域おせっかい会議が果たした役割は何か?お話をお伺いしました。

・吾郷希穂(あごう・きほ) 佐世の葉温灸院 代表

−−吾郷さんが地域おせっかい会議に参加するきっかけとなったのは、Iさんとお知り合いだったからとか。当時Iさんはどんなご様子だったのでしょうか?

治療を開始しましたが、ご病気の後遺症でお話することが難しいので、病院での治療経過やお薬に関する情報が分かりませんでした。聞き取れた情報で、治療を開始しましたが、本格的な鍼灸治療のために、ご家族のことも含めもっと周辺情報を知りたくて、自分としては歯がゆい思いをしていました。

−−Iさんとの関わりはどう変化していったのですか?

 鍼灸治療で訪問するうちに、だんだんとIさんのご病気も進行が見られ、途中途中で入院をされていたようでした。連絡が途絶える時は「どうしたのだろう?」、また再開した際には「以前より会話が難しそう?何があったのだろう?」と心配していました。それでもIさんは、鍼灸を受けたいという意思があり、退院された際にはなんとか連絡をしてくださっていました。そうしたIさんを見て、連絡を待つだけでなく自分でももっと何かしてあげたいと思うようになりました。そのためには「もっとIさんを知りたい。」そう思ったのです。

−−Iさんの力になりたかった吾郷さんに、地域おせっかい会議はどのような支えとなったのでしょう。

 電話でIさんが振り絞るようにして「来てくれ」と言っているのは分かったけど、家族の方とも会えないから体の状態もわからない。生活もどういう状況になっているのか気にかかり、Iさんが介護保険のサービスを使ってらっしゃることは分かったので、サービス担当者会議があれば参加したいと思うようになりました。
 ちょうどその頃におせっかい会議に参加したところ、訪問看護ステーション コミケアの中澤さんやコミュニティナースの宮本さんがおられました。そこで、どうすれば自分もサービス担当者会議に参加できるか相談してみたんです。
 すると、やはり私がまず家族の方とお会いしてお話をしてIさんの情報を得たり、サービス担当者会議に同席したい旨も家族さんと相談し、家族さんからケアマネージャーさんに相談するのがいいのでは?と、具体的なアドバイスをくれました。

−−その後、家族の方とお話ができたのは、どんなきっかけだったのですか?

 実はIさんは玄関先で小鳥を飼われていたのですが、往診の度に弱っていくのが気になっていました。そこで小鳥のお世話を申し出てると、Iさんも承諾してくれたので私の家でお預かりしていたんです。衰弱の様子も気になって病院にも連れていくつもりが、小鳥を見てもらうには松江市まで出る必要がありました。
 病院に連れていくまで少し日数がかかりそうで、そのことをIさんにお伝えしようと、往診の予約はなかったですがご自宅に行ってみました。そこで初めて息子さんにお会いできたんです。聞けば鳥がいなくて家族もびっくりしてたけど、おじいさんの言葉ではうまく状況が分からなかったと。
 そこで私の方から小鳥を預かった経緯と、Iさんのご病気のことを聞いたり、鍼灸治療のためにもサービス担当者会議に参加したい旨を息子さんにお伝えしました。

−−小鳥を預かる吾郷さんのおせっかいがあったから、ご家族さんとも会えるきっかけになったんですね。さらに家族さんを通じて、Iさんの生活を支える専門職の皆さんにもお会いできたのですね?

 息子さんとお話しした数日後に鍼灸治療で訪問すると、そこにはIさんだけでなく息子さんとケアマネージャーさんがおられて、ミニケア会議みたいになりました。私からは、これまでも何度も鍼灸をしているが、もう少し踏み込んだ治療のためにIさんの情報を得たいのでサービス担当者会議に参加したいこと、そしてIさんの担当医が鍼灸治療を許可すれば、Iさんは実費ではなく鍼灸の保険制度で治療が受けられることなどをお話ししました。
 そして後日ケアマネさんから日程を教えてもらい、サービス担当者会議に参加しました。
 そこにはIさんが利用している介護保険サービスの専門職のみなさんが複数名参加していました。

−−Iさんと繋がりがあり、生活を支える皆さんが一同に会したんですね。吾郷さんにとっては、どんなことが得られましたか?

 実は、サービス担当者会議は、ご本人、ご家族さん、介護保険や医療保険のサービス事業者の担当の専門職さんが参加することが多く、鍼灸師が参加することはあまり多くありません。そのため、私も勇気が要りましたし、他のみなさんもどうすれば良いか戸惑いもあったと思います。
しかし、Iさんは鍼灸治療が好きで、それがIさんの生活の一部となっています。言葉を話すことが難しくなった分、Iさんも要望を周りの方に伝えるのも難しくなっていたため、やっぱり勇気を出して家族さんにあったり、サービス関係者さんと会うことができたのは良かったです。
Iさんに関わるみんなが、いろんな方面から力を合わせ、協力できると、よりIさんの心と体の元気を応援できて、Iさんらしい生活をおくることができるのではないかと思いました。

−−Iさんらしい生活をおくってほしい!という目的に対し、いろんな方面の人と協力するため、「地域ケア会議に同席する」という手段を取られたんですね。

 そうですね。他職種、今回でいう鍼灸師が会議に同席するという在り方についてはいろんな意見も出てきそうですが、「チーム医療に、鍼灸師が参加するっていう在り方もありかもしれない」と考えたため、今回勇気を出して鍼灸師として地域ケア会議に参加するという挑戦をさせていただきました。
 関東での鍼灸師会の中では病院で鍼灸師が働き、ケア会議に参加しているという例や、訪問診療のチームに鍼灸師がおり、チーム一丸となって動いていた例などもあるようです。どれが正しいということはないですが、そんなチーム医療の在り方も一つかもしれない、とみなさんが考えていただくきっかけになったら良いなと思います。

−−では最後に、地域おせっかい会議は、吾郷さんにとってどんなものですか?

 ひとりでやっている鍼灸師や整体師などは孤立しやすいうえに、私は移住者でもあるので、困った時に相談できる地域事情にも詳しい場があるのはとても心強かったです。また鍼灸師同士ならここまで他のサービス関係者さんとの連携に関する具体的な助言は得られなかったと思います。すでに地域でネットワークを築いてきた人たちが業種を越えて繋がり、相談しあえたのが要因だったと思います。

Iさんからお世話を引き継ぎ、家族の一員になった「吾郷ぴーちゃん」の隣で

-----
「この人を楽にしたい、喜ぶ顔が見たい」という、おせっかいの種。そこから実際に動き喜んでもらうため、仲間で知恵を出し合う地域おせっかい会議はおせっかいの豊かな農場と言えるのではないでしょうか。

当時を振り返って「Iさんも私も、少しでも楽になりたい、楽にしてあげたいという一心だった」と話される吾郷さん。「一人では抱えきれなかったけど、相談できる仲間がいたから」話す吾郷さんは、仲間を頼るというおせっかいの作法を身につけた、おせっかいのプロの姿でした。

ライター 平井ゆか

まちの中で、心と身体の健康を願って活動している人を私たちは「コミュニティナース」と呼んでいます。
誰かを喜ばせたい、元気にしたいと願うあなたの思いと行動の第一歩として、全国のコミュニティナースが集うオンラインコミュニティ「コミュニティナース研究所」へご参加ください。
https://cn-laboratory.com/join


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?