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「梅バンク 〜梅なる限りご縁は続く。〜」| 思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー

Community Nurse Company 株式会社の本社・拠点がある島根県雲南市。
雲南市では「元気になるおせっかい」を広げたいとの思いから、既にコミュニティナース的存在として活動しているまちの人を巻き込み、一緒に成果を出していきましょうとチームで動き出しています。医療職にこだわらず、お互いの強みを出し合いながら全力で議論する「地域おせっかい会議」から生まれるアクションとまちの人とのストーリーを「思いを繋ぐおせっかいのバトンリレー」として連載を始めます。

「梅で拡がる!地域のつながりづくり。」

管理栄養士の小笹さんは、病院勤務で出会ってきた患者さんの姿から、食に関する健康応援が地域の中でこそ必要だと考え、病院を退職し地域に飛び出て活動を始められました。
そんな彼女がある時目にしたのは、収穫されずにたわわに実る「梅」。
みんなで梅仕事したら楽しそうと、軽い気持ちで地域おせっかい会議に相談すると、梅がどんどん集まるうえに、活動のヒントも集まってきました。
 梅で繋がるご縁はどのように活動を育んでいったのか、小笹さんと、彼女の活動を強力に応援した速水さんにお話を聞きました。

・小笹明美(おざさ・あけみ)/管理栄養士
・速水久弘(はやみ・ひさひろ)/加茂郵便局 局長

(写真左・小笹さん / 写真右・速水さん)

−−まず「梅バンク」というのはユニークな名前ですね。どういった取り組みなのでしょうか。

小笹:簡単に言うと、地域で放置されている梅を活用した住民同士のつながりづくりです。
持ち主の高齢化などの理由から収穫されずにある梅を、許可をいただいて取らせてもらい、そうして集まった梅を加工して活用させてもらうという内容です。
ありがたいことに、今年は60キロの梅の実が集まり、梅干しや梅酒、梅ジャムなどに加工できました。

−−「梅バンク」をしようと思った理由を教えてください。

小笹:もともと梅干しなどの保存食づくりが大好きで、毎年6月くらいになると松江市の自宅周辺を散歩しながら、空き家などに放置されている梅を見て、集めて使わせてもらえたらなあと思っていました。そして、そういう放置された梅の木はご縁のできた雲南市にもきっとあるので集められないかと思いつき、5月に行われた地域おせっかい会議で意見交換の議題にさせてもらいました。

−−地域おせっかい会議で話をされてみてどうでしたか?

小笹:まず、うんなんコミュニティ財団の村上さんが取り組みについて、余剰の物資を一旦蓄積して活用することから「梅バンクですね」と名付けてくれたので、そこからさらにイメージが膨らみました。また、話を聞いてくれた皆さんが「楽しそう!」とすごく盛り上がってくれたので、そのリアクションに安心感を得ました。それまでは自分の思いつきでしかなかったので、背中を押してもらえた気がしたんです。 
 そして肝心の梅に関しても、ちょうど参加しておられた加茂郵便局長の速水さんが「心当たりがあるよ」と話してくださいました。速水さんは地域のことにすごく詳しいうえに住民さんからの信頼も厚い方で、そのあとすぐ梅を提供してくれそうなお宅一軒一軒に連絡をとってくださったんです。

−−実際の梅集めはどのように進んだのでしょうか。

小笹:速水さんは郵便局長さんたちが集まる会議でも、「取らない梅があったらいただけませんか」とお話しくださっていたそうです。そうして速水さんが許可を取ってくださった場所に、速水さんと地域おせっかい会議メンバーで毎週のように収穫に出かけました。行った先の中には湿地帯のような草原の先に梅の木があるような場所もありましたが、速水さんが草刈機で道を開いてくれて収穫したこともありました。大変でしたが、手伝ってくれた人たちも楽しんでくれていた様で私も嬉しかったです。

 そうして当初3キロ程度集まればいいかなと想定していたところに、約60キロの梅が集まり、それらは梅干し、梅ビネガー、梅酒、梅ブランデー、梅ジャム…とたくさんの保存食に加工することができました。

−−今回の「梅バンク」の活動を通じて、小笹さんには気づきがあったと伺いました。

小笹:はい。実は梅干しを作るのにたくさんの赤紫蘇が必要になり、そこでも速水さんにご相談させてもらいました。すると、お知り合いの保育園の園長先生を通じて赤紫蘇をくれる、というおばあさんをご紹介していただき、園長先生や速水さんと一緒にそのおばあさんの家に行くことに。
 家に着くと、まずは旦那さんであるおじいさんが出てこられて、おばあさんは最近あまり人に会いたがらないから、赤紫蘇は勝手に取ればいいよと言われました。けどさすがに一声はかけようと「こんにちは〜赤紫蘇をください」と呼びかけてみると、おばあさんは張り切って出こられたんです。それから赤紫蘇もどんどん取ってくれて、お話もたくさんしてくださいました。
 その中で、梅を漬けたあとの赤紫蘇はどうするのか聞かれたので、干して自家製のゆかりふりかけにしてみますとお答えすると「あらすてき!私にもちょうだい」と言われ、出来上がったら持って行くお約束をしました。
それから、その家の裏にも梅の木があるのですが、今年はもうおじいさんの手の届く範囲で収穫してから、届かない高さの梅は全て落として処分してしまったと言われ、来年取りに伺いたいと言うと、快くいいよと言ってくださり。そうして梅や食をきっかけに再び出会う口実がつくられていくうちに、「そうだ、私こういうことがしたかったんだ」と再認識しました。

−−小笹さんがやりたかったこととはなんだったのでしょう。

小笹:私は管理栄養士として病院勤務をするなかで、すでに病気や怪我をした人にしか出会えないことにもどかしさを感じていました。なぜなら栄養士が病院で出会う患者さんは糖尿病や高齢者の骨折というケースが多く、それらは日常での栄養管理こそ予防や回復につながるのです。

なかには骨折で4~5回も入退院をくりかえす高齢者さんもおられます。そうするといくら本人が住み慣れた家での生活を望んでも、安全のために施設に入居せざるをえないというケースも見てきました。そういう方を見てると、やはりできるだけ長く健康に家で過ごしてほしい。そのためには病院で出会う前に地域のなかで関わっていくしかないと思ったのです。

 例えば、特に高齢者の方の骨折は低栄養が影響していることが多いのですが、ご高齢になると空腹などの感覚も感じにくくなり、少しくらい平気とだからと食べないでいるうちに全身の筋肉が衰え、転倒、骨折につながります。また、喉の筋肉の衰えによって飲み込むことが困難になり、誤嚥性肺炎につながっていきます。そうなる前に出会えれば「ご飯食べにくかったら今はこんな栄養補助食品があるので試してみませんか?」と気軽に声をかけることもできます。

 そこで少しでも長く家で健康に暮らす人を増やすために病院を退職して、管理栄養士の知識に基づいたお料理代行サービスや、地域の中で食を通じて健康について意識したり相談できる場や機会づくりを始めました。
 地域で気軽に相談に乗れるつながりづくりのため、赤紫蘇のおばあさんとのやりとりは、家で長く暮らしたいと望む人と食を通じて出会うことのヒントをもらったようでした。

−−完成した梅加工品も一役買いそうですね。今後はどのような展開を考えておられますか?

小笹:まずは梅をご提供くださった皆さんに、加工品の一部をお礼として差し上げようと考えています。その際に健康相談も合わせてするつもりです。地域おせっかい会議でのアイデアも生かして、梅の健康効果や夏バテ防止のお話もできればと思っています。
 また、梅酒が完成する12月以降、「よかったらうちのスペースで梅酒バーをしない?」と光サロンの杉村さんも声をかけてくださいました。そうすると私が普段出会えない人とも知り合えると思うし、そこで健康相談もできればと考えています。
そのほかにも、梅を提供してくださった峯寺さんとも企画をご一緒したいし、赤紫蘇のおばあさんを紹介してくださった保育園の園長先生の家にあるかまどで美味しいご飯を炊いて、完成した梅干しと食べるのもいいな…などと、構想が膨らんでいます。
梅バンクを通じて知り合ったご縁が、梅が実る限り豊かに育っていく、そんな風に感じています。

−−ここで、「梅バンク」の活動を強力に支えた、加茂郵便局 局長の速水さんにもお話を伺いました。小笹さんのアイデアに、速水さんがここまでおせっかいできた理由はなんだったのでしょう?

速水: まず「おせっかい会議」で「梅」の提案があった時、面白い事を提案する方がいるなと思いました。小笹さんの話は本気感満載の情熱のあるものでした。
なので話を聞いて、子供の頃長い棒を持って梅をとったこと、縁側の下にムシロを敷き梅干しを作るため梅を干してたことが思い出されました。
そこで、使われていない雲南市の梅をとり「地域おせっかい会議」で加工すると、昔ながらの風景が見られるのではと想像して、面白いかもと思ったんです。

−−斬新なアイデアを真剣に提案する小笹さんに、心が動かされたんですね。では実際におせっかいをされてみた感想を教えてください。

速水:加工中の梅の写真が小笹さんから送られるたび昔を思い出して、コロナ騒動の中ほっこりとした気分になりました。
また、私は梅と紫蘇を取りに行き思ったのですが、収穫ができていないのは高齢化、空き家等の事情があるようです。なので今後は梅をとらせてもらい、草刈り、庭の手入れ等が出来れば立派な地域活動ができるのではないかと感じました。

今年始めたばかりですので理想通りに行くか分かりませんが、梅バンクの体制が充実して、地域が明るくなる活動が出来ればと思っています。
傍から見ればなんでそこまでするの?という感じに思われたようでしたが、性格でしょうか、1回収穫するとどんどん取りたくなって。
なので、皆さんとの梅とりは本当に楽しかったです。
例えば湿地の梅とりはなかなかの過酷な状況でしたが、収穫自体はとても盛り上がりました。一緒に作業した大学生の「インターンで雲南に来てなかったら、梅とりはしてないわ」という言葉が心に残っています。
思いつきから始まった活動でしたがとても楽しかったです。
思いついた小笹さんの行動力に感謝です。ありがとうございました。

−−ここで改めて、小笹さんにとって地域おせっかい会議はどのような役割を果たしたのでしょう。

 1人で考えるだけだったアイデアに「ナイスおせっかい!」とみんなが盛り上がってくれて、「これはやっても大丈夫なんだ」と背中を押してもらえたことは大きいです。
 そしてそこからすぐに、速水さんはじめ一緒に動いてくれる人が現れたからこそ、実現に至ったのだと思います。地域に根ざしておられる方に協力してもらえることで、地域の住民さんに梅を提供していただくための信頼関係を築く時間が大幅に短縮されました。もし逆の立場なら、いきなり私みたいな人が1人で「梅ください」と訪ねて来たら、まず驚いて話を聞くまで時間がかかったかもしれない。けど地域おせっかい会議で出会う人からだと、地域の方とはじめから信頼で繋がっていけたんです。
 それから梅が予想を超えて集まり出すと、その作業に追われてつい目的を見失うこともありました。そういう時に地域おせっかい会議に参加すると、この取り組みは自分の理想にこんなふうにつながるんだった、と再確認できたのもありがたかったです。

−−「梅バンク」の取り組みを経て、今後の活動も幅が広がりそうですね。

 そうなんです。来年以降は草刈りができる人などもっと仲間を増やして実施できればと計画中です。梅をもらいに行くことで地域が綺麗になったり、提供者さんの「あの人たちがまた来るから元気でいよう」というきっかけになっていくと嬉しいなと思ってます。
 それから今回のような梅加工品を、渋谷のレンタルスペースで売らないかという話もいただいているので、衛生基準をクリアできる加工施設も探し始めています。理想とするのは、カフェの併設された加工所。そこで地域の皆さんに関わってもらった保存食やコーヒー販売などをきっかけに気軽に集ってもらい、食を通じた健康応援ができればと思います。

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「梅バンク」を通じて、自分の取り組みの方向性をさらに明確にした小笹さん。そこには彼女1人では思いもよらなかった、ご縁の力がありました。出会いを柔軟に取り入れながら今後の展望を語る彼女の笑顔には、楽しくおいしい健康づくりに向けて進んでいく、確かな喜びが感じられました。

ライター 平井ゆか

まちの中で、心と身体の健康を願って活動している人を私たちは「コミュニティナース」と呼んでいます。
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